コウレ「ネズミが怖いって弱点は某青狸のパクリじゃないの?そういわれることが目標です」
僕の名前はケンリュウ・コウレ。
今日はアギお嬢様、アビリスター最強のステップ9であるロルさん、レイリーさん、そして地球出身の浅利淀さんとサイクリング中です。
ほぼ並走するアギを、その端正な顔に似合わない鳩が豆鉄砲を食らったような目つきで見る淀さん。
「おい淀。自転車でスイスイ走れてる私なんかおかしいのか」
「淀さん。正直に言っていただいて結構ですよ。正直、アギが自転車に乗れるのが意外だと」
「別にそういうわけでは……」
図星なんでしょうね、当然戸惑う顔を見せる淀さん。
「まあなまじ乗れるからこそ、コウレにとっては迷惑な話なんだが」
的確な正論を口にするロルさん。
「お前ら私をなんだと思ってるんだ!こんな人通りの多い商店街で迷子になるはずがないだろ」
「確かにそうですね。こんな開けた場所ですし」
このあたりは他のアビリスターの学校周辺と同様に「大都市」というほどではないですが、自転車での行き来もしやすく、町の構成自体も単純な四角の網目状です。目印になる大型のロードサイド型店舗も多数ありますが、全体的にはどちらかと言うと「商店街」と呼べる感じで、区域全体への放送なども行われています。
しかしそんなことを考えて油断していた僕がバカでした。
「あのコウレ君。いいの?」
「なんでしょうか、淀さん」
「アギちゃんの姿、見えないんだけど?」
僕は四方八方に首を巡らせたが、どこにもいません。
とりあえず僕たちはちょうど目の前にあったシックスイレブンの駐輪所に一旦自転車を止めました。
「ステップ9が3人と執事がいる前で迷子になるなんて、迷子の鏡ね」
アイスを美味しそうに食べながら感心した顔になるレイリーさん。
「まあ大丈夫でしょ。携帯ないの?」
そうだ、携帯を……って待ってください。
「あっ、私が携帯を入れてあるアギのカバンごと持ってたわ。いつの間に押しつけてたらしい」
まあアギはめんどくさがり屋ですからね……。
「そろそろアギちゃんも自分が迷子になったって気づく頃だよね?」
まあ「自分が迷子」だと気づいてくれる分にはいいんですが、アギの場合は……。
その時、この商店街の放送を知らせる聞き慣れたチャイムが聞こえました。
「迷子のお知らせです。第13学区からお越しの迷子であるケンリュウ・コウコちゃん。保護者のセントカクラ・アギさんがお待ちです。至急シモダデンキ入口までお越しください」
僕の顔は多分引きつっているでしょうね……。
当然、淀さんとロルさんも呆れた顔から少しドン引きした顔に変わりました。
「まあシモダデンキはこの平屋だらけの町並みなら大きな看板が目立つから、迷子の女の子でも入口ぐらいは容易にわかるわよね。だからこそ地区全体の迷子などの対処も引き受けているのよね」
「とりあえず引き取りに行ってきます」
シックスイレブンからシモダデンキまでは自転車を使えば数分とかからない。
「なんでよりによって僕を呼びつけるんですか!」
「ちゃんとコウレじゃなくてコウコにしたではないか!」
「尚悪いですよ!」
この分では絶対に自分が迷子という自覚は一ミリもないんでしょうね…
「まったく、よりによって淀たちもいる前で迷子になるとはどういう神経してるんだお前は」
「……」
予想通りのようです…どうしましょう。僕はこのやり場のない感情をどうすればいいのでしょうか。
しかしそんなことをアギに説明したところで、アギの頭のレベルでは理解できないのは知っています。
「さて、淀さんたちのところに戻りますよ」
「にしてもなんなんだこの店は。事情を話し、さらに念入りに説明するまで迷子は私だと決めつけてきたんだぞ!」
係員さんが苦笑しながら僕たちを見ています。
まあ係員さんの見立てのほうが正しいですし、恐らく念入りにゴネられたので折れたという方が正解なのでしょう。
僕はせめてもの謝罪として軽く頭を下げます。
「……さあ戻りますよ、アギ」
「私ちょっと疲れたな。お前の後ろに乗せろ」
「この最新式のウルトラスーパーミラクルデラックス自転車(笑)に乗らなくていいんですか?」
「この自転車でも私は大人っぽく見られるどころか結局迷子扱いされたんだぞ!それにこの自転車が目に入らんかというと、まるで中二病の小学2年生でも見るような目つきをされたんだぞ!」
まあそうでしょうねえ……。
ここで言い合っていても店側にとっても迷惑でしょう。
「わかりました。ぜひ僕の後ろに乗ってください」
あの自転車については駐輪場に停めて、あとでメイドのミンネさんに回収してもらうことにしました。
僕とアギは自転車であのコンビニに戻ります。
「乗るだけってのも疲れるな。あの公園でひと休みしたい」
「……」
身勝手な気まぐれにもう反論する気が失せている自分が怖いです…
そしてひと休みしようとしたその時、僕は公園を根城にしているであろうある灰色の生き物が目に入りました。
そして背筋に液体窒素にでも触れたほどの寒気がします。
「ね、ね、ねずみだ。ぎゃあーこわい!こわい!こわい!」
とにかくねずみが怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
「おい、コウレ!」
僕は後ろにアギを乗せていることも忘れ、自転車で逃げ出しました。淀さんたちのもとに戻ることも忘れ、とにかく遠くへ。




