淀「研修初日にコウレ君の女装指名手配書が公開された」
ショッピングモール人質脅迫事件の数日後、私は特別工務隊の一員になるべく所属する支社への研修に来た。
「工務隊の支社ってオクスタンの地下なのね」
「オクスタン高関係者にも知る人ぞ知る程度には知られているからな」
「コウレ君も工務隊の一員なんだよね」
「はい」
私の研修にはコウレ君とロル君とアギちゃんも付き添っている。
「さて彼女が淀の研修担当官だ」
「えっなんでゲンヨ先生がいるんですか?まさかゲンヨ先生も特別工務隊一員なんですか?」
ケンリュウ・ゲンヨ先生。コウレ君の姉でこのオクスタン高の現代文教師。
かなりの美人であり教師としての能力もそれなりにあるが、初日に酔っ払って道端で寝ていたり、授業中に「つけ口しないで」と生徒に血判まで押させた上で自分は酒を飲むなど、人間的には明らかに問題のある人だ。
「それどころかこのオクスタン支部の部長だから、一応淀、お前の上司でもある」
「まあ残念でしたね」
「ちょっとどういう意味よ?」
「まあ淀。気を落とすでないぞ。世の中下には下があるというからな」
「あんた達先生と上司に失礼すぎない?私はこんなにも教師としても工務隊員としてもストイックに真面目なのに……」
だったら明らかに勤務中に飲んでいたのを誤魔化せない酒の匂いを消す努力ぐらいしたらどうなんでしょうか……。
「筆記試験、射的や犯人確保などの実技の前に建物内を案内するわよ。トップバッターはこの会議室よ」
地球の刑事ドラマに出てくる会議室みたいな部屋で、中央には大きなモニターもある。モニターの側の机には高性能を大きさと見た目で示しているPCもある。
「まずはこのPCとモニター。普通の警察同様に過去の事件やアビリスターの地理なんかのデータはもちろん、非表示には指名手配などのポスターも制作できるの。こんな風にね……」
そう言って大型プロジェクターのモニターに実際の指名手配の例が映し出される……はずだったのだろう。私達の目に飛び込んだのは実在する凶悪犯ではなく、完璧執事さんのかわいらしい女装姿だった。
指名手配
ケンリュウ・コウレ
自称 ケンリュウ・コウコ
別名 お局コウレ姫
罪状 覗き、痴漢、姉いじめ、セクハラ、下着泥棒、強制わいせつ
パンツを頭に被って女性に迫る変態男
特技 盗撮や美人局として男に貢がせる
趣味 女装して女湯に潜入し慌てる男をみて嘲笑
コウレ君の顔はおそらく手塚治虫レベルの漫画家でも書き表せないレベルの怒りに震えた表情になる。私がコウレ君と呼びかけるより先に、庁舎の超大型モニターがまるで子供の積み木のようにバラバラに破壊される。
そしてコウレ君の手はゲンヨさんの胸ぐらを掴んでいた。
「そのこれは……私の趣味というか。これを配布して隊員全員で面白がるとかそういうんじゃなくて……とりあえず印刷した上でコウレ君以外の職員全員に配布して大スクリーンでも上映するってだけだからね!」
いらないことまで自白する。
水色髪執事による一方的な暴力とアタオカ教師の絶叫が館内に響き渡る。
「わりとセンスあると思うんだけどな」
「だよな。漫画家の私から見てもそう思う」
「なにか言いましたか……」
ゲンヨ先生をボコボコにしながら、漫画なら絶対後ろ姿からしか描かれないだろう殺意に満ちた目線でロル君とアギちゃんを睨みつけるコウレ君。
「……いや」
「……なんでもないさ」
「研修は結局どうするの?」
「この際淀が勝手に回ってていいと思うぞ。お前ならアギみたいに迷子にならないだろうし」
「ちょっとまるで私が単独で歩くとすぐ迷子になる世間知らずの方向音痴みたいじゃないか!」
「それ以外のなんだっていうんだ?」
まあ壮絶で一方的な姉弟喧嘩だけでなく夫婦喧嘩?みたいなものも始まってしまったようだし、とりあえず私はしばらく建物内を彷徨うことにした。
彷徨ってみるとやはり地球の刑事ドラマに出てくる警察本庁に似ていると思う。
さっきと似たような会議室や資料室など、宇宙らしい独特な要素はない……というわけでもない。
なんと道端に半裸の少女が寝ている。……一瞬事件の関係者かとも思ったけど、首には特別工務隊の行員証がかけられている。
「ちょっとお嬢さん。なんでこんなところで寝ているの?しかもこんな格好で」
「いいじゃない。この格好が涼しいし最低限の昼寝だけなら道端でも問題ないわよ」
「そういう問題じゃないわよ」
羞恥心とかそういう概念がないのかなこの娘‥。
「ほら。あなたも工務隊員なら休憩室ぐらい使えるでしょ?」
しかし特別工務隊ってのはやはり特別な組織だ。こんな中学生みたいな子まで隊員にしている。下手したら初潮すら迎えていないんじゃないかなこの娘。
「休憩室なんてそんなのわざわざ使う理由ないわよ。私は自分の実験室あるし」
「ならそっち使いなさいよ!」
「いやよ。こっちの方が開放的な空間じゃん」
開放的とかそれ以外の問題に本気で気づいてないらしい。この娘はどうやら一般的な感性とはズレているようだ。一般常識を理解させるにはまず親しくならないといけないのかな。
「私一応この組織の新人なんだけどとりあえず君の名前知りたいな」
「私はキュチェル・レイリー。貴女と同じステップ9でありこのオクスタンの生徒よ。新人ステップ9のサイクロンスプリームさん?」
「ってことはやっぱり飛び級?」
「……そんな非合理なことしないわよ。そもそも私はあなたと同い年の17歳よ」
この身長と体で17歳って‥。私と向き合って立ってるので大体の身長はわかるんだけど140cmぐらいしかないし女性としての曲線もそれと違和感ないサイズしかない。
私が違和感沸いてることに気づいたのか余計なお世話といった感じに不機嫌な表情になる。
「貴女も工務隊のメンバーになるならぜひ私の自室を案内するわ」




