一番恥ずかしい姿を現実のメイドに見られた夜
私の名前は市振未早矢。この一大寺家の新人メイド。今日は夏休み絶頂期のある1日だけど、ご主人様である行成はなぜか日付だけ見て鬱な顔になった。
「やっぱりあの日のこと思い出すのねえ。」
今では私にとっての聞き慣れた声。私が仕える家の本家のお嬢様であり、行成の恋人の親友である江初さん。
「なにかいやな思い出でもあるんでしょうか」
すぐそばで推理小説を熟読している彼に遠慮してお互い小声で話している。
「まあ超特大のやつがね」
江初さんの話は彼らが中学生の頃に遡る。
夏休みのちょうど今日と同じ日、とある豪邸の一室には仁王立ちした少年と、あられもない姿で拘束された女の子の姿があった。
「ご主人様♡ぜひこの哀れなメイドを調教してください!」
「もうしょうがないなあ♡」
そう言って男の方も服を脱ぎ捨て、拘束されている彼女をお姫様抱っこでベッドの上に運び、その大人の魅力に満ちた身体を食べる……。
もちろんこれは夢オチではなく妄想オチである。
ある夏休みの夜、とある中学生の少年が自分の下半身から滾り続ける己の性欲を嬉々として発散しようとしていた。
「はあ。はあ。淀大好き、愛してる」
名家の御曹司かつ美形であり学校では女子生徒の憧れの的である少年は、たった一人の超美人メイドへの思春期男子特有の性欲混じりの恋着に浸っていた。
「もう少し激しくするからな!嫌がるなんてのは身体の反応と一致させてから言えよな……」
さっさと放出してしまいたい気もするけど、もっとこの時間を楽しみたくもあるという相反する感情。自分と同じ屋根の下で働く女の子をネタにするという罪悪感とバレたらどうしようという恐怖に至るまで、少年はセットで楽しんでいた。
「行成様。失礼ですがさっき部屋にほうきを忘れ物したので取りにいってよろしいでしょうか」
確かに基本完璧な彼女には珍しくほうきを片付け忘れているのに気づく。足音を聞く限り既にメイドの少女は広い屋敷で目の前まで来ているようだ。
少年は背筋に鋭い寒気を感じた。あまりに絶頂の直前すぎて、やめるどころか片手で布団などを用意して行為を隠すことすらできない。
忘れ物を取りに来た少女が見たのは、自分が仕える主人がその性欲の処理をフィニッシュした瞬間であった。ちなみに自宅だし季節は夜とはいえ夏だったので、一体どういう格好だったかは想像に任せる。
聡明な少女は一目で状況を理解し、全てを受け入れた。
「やっぱり私の思い違いだったようです。すみませんでした!」
といって小走りで下の階に退散した。
少年にとって生涯忘れられない悪夢の出来事である。
翌朝、当然お互い気不味いけどメイドと主人なだけでなくもともと家もある程度近いのでどうしても出かけるときもいっしょになってしまう。
「なあ……淀。お前昨日のこと」
こっちから聞くのもどうなんだろうとは思うけどやっぱり気になってしまう。
「……昨日の夜はあんまり記憶ないのですが……」
少女だってとっくに子供を産める身体に成熟している。同い年の男のメイドという立場上こういうことが非常にデリケートな問題なのも理解している。
少年は尚更気まずさを感じている。
「別に私は気にしませんよ。年齢考えたら当たり前ですし、むしろ行成様だって年頃の男の子なんだなと安心しました。私だって変な時間にろくにノックもせずに入ってしまい申し訳ございません」
「……」
「強いて言えば誰を想像してたのか気になりますけどね。やっぱり流行りのグラビアアイドルとかなんでしょうか。」
あんまり聞いちゃいけないのはわかってるけど、この万能で女の子にモテモテなのに浮いた話がないこのご主人様が本気で性欲を発散できる相手なんて誰だろうなと気になってしまう。
本当はお前との情事を想像してたんだよと叫んでやりたくなり、尚更顔が赤くなってしまう少年だった。
「……お前はしばらくその……俺と顔合わせないようにしろよ。いいな!」
気まず過ぎて思わず出てしまった一言。
「かしこまりました。」
といって次の日から少女は少年と顔を可能な限り合わせないようにするのを有言実行した。
できる限り出かける時などは鉢合わせないようにして、食事は作り置きのみで目の前での料理などはしないようになった。
少年は当然戸惑った。というより耐えられない。
想像上の最愛の人も好きだけどやっぱり現実の彼女が圧倒的に大好きなのである。
そして数日ほど経ってからこう告白した。
「お前はやっぱり俺とできる限り接してほしい。」
「なんでですか?よくよく考えたら行成様も年頃の男の子ですから、私が変に張り付く今までのほうがむしろおかしかったですし」
「俺が悪かった。でもやっぱり俺にとってはお前がいないと色々気分とか……とにかくそういうやつがでないんだ。」
「はあ?」
「俺のああいうところとかいくらでも見ていい。」
少女はクスッと笑う。
「別に私にそういう趣味はないですが、そこまでいうなら以前の付き合い方に戻しましょうか?」
少年は恥ずかしさと嬉しさでなんともいえない表情になる。「確かに恥ずかしくて死にそうなレベルだな。」
「おい何話してんだ!てかそもそもなんで知ってんだ!」
「気まずい場面に出くわしてからの一部始終は淀から相談されたし、ってか翌朝の会話も聞いてたし。」
「もしかして淀との情事のネタについても正確に当ててる系?」
恥ずかしさのあまり顔が赤くなる思春期男子さん。
「その顔は図星みたいだね」
さらに行成の顔は赤くなる。
「私もそれ聞いてから、行成様を見る目がちょっと変わりましたよ」
未早矢が淡々と言った。
「……どういう意味だよ」
「いえ。ただ、意外と人間らしいんだなと思っただけです」
江初がニヤニヤしながら続ける。
「まあ、これでまた一つ、行成の黒歴史が確定したわね」
生涯忘れられないだろうな。




