そして淀が名実心身共に特別工務隊に一員になった
僕の名前はフリミド・ピラーセル。テロリストはショッピングモールで爆弾を使い、客を人質に取って淀にテロの手伝いを強要していた。
客を避難させるか、犯人だけを即座に無力化するしかないが、僕の能力はそこまで器用じゃない。
「淀。お前のせいでこういうことに巻き込まれるんだぞ」
「えっ、そんな……」
幸いにも犯人達は僕もステップ9なのには気づいていない。
僕は淀の胸ぐらを掴んだ。演技だけは自信がある。本気ではない威力だ。
淀もこれが時間稼ぎの茶番だと気づいているはずだ。既に助っ人には通報済みだ。
「おやおや、仲間割れか?」
犯人たちが近づいてきたその瞬間——四方を複数人で見張っても絶対気づかないようなレベルの長距離から神経系の麻酔針が飛んできた。犯人たちが次々と動けなくなる。
吹き抜けからパラシュートで降りてきたのは、ロルとエリザだった。特別工務隊かつ僕や淀と同じステップ9の2人だ。
ここはショッピングモールなのでエリザの火力は使えない。
「ロル君、エリザさん!」
「備えが甘いテロリストで助かりましたね」
「とっとと連行するか」
……と思ったのも束の間。
「舐めんな!」
リーダー格の男が自らスタンガンで強烈な電気ショックを与え、麻酔を断ち切った。
そして爆弾を手に取り、民間人に向かって投げようとする。
「高跳びのために車と飛行機用意してもらおうか!見せしめに数人吹き飛ばす……従わなければより多くの人間の血が流れることになるだろうな!」
「おいやめろ!」
非日常続きでこういう状況に慣れてはいるけど驚きはしない僕達3人よりも慣れておらず驚く淀のほうが先に動いた。
「やめろーーー!」
彼女の《サイクロンスプリーム》が炸裂する。犯人は爆風と衝撃をまともに受け、壁に頭を叩きつけられた。
淀にとっては、これが生まれて初めての人殺しだったのだろう。彼女はただ呆然と立ち尽くしていた。表情は驚くほど冷静で、むしろそれが痛々しい。
「大丈夫ですわ。この手の悪党、意外と頑丈なものですのよ。気絶しただけみたいです」
エリザが優しく声をかける。
ロルもすぐにフォローした。
「警察には連絡済みだ。テロリスト相手だから不起訴になる」
アビリポリスへの事情聴取と簡単な現場検証を終え、僕たちは路面電車でイカレタヤカタへ帰路についた。
淀はずっと浮かない顔のままだった。
「……大丈夫か?」
「テロリストとはいえ、生身の人間にあの威力……死んでた可能性の方が高かったよね……」
「相手は既に大勢の罪もない人を殺している。殺されることに文句を言う資格はない」
ロルは少しだけ強く言った。
「そもそもお前は、2000000000人の命を奪える女だってことを、もう少し自覚した方がいい」
「わかってる……でも、わかりたくないの。わかる必要があるのはわかるけど……」
淀は怯えながらも、どこか決意を宿した目で僕達を見た。
「受け入れて、覚悟ができたら……母星の人たちにも私の本当の力を打ち明けたい」
ロルとエリザも、その真剣さを理解したようだった。
「それと……私も特別工務隊に入りたいんだけど、いいかな?」
「えっ」
「私がその気になれば何十億人もの命を奪えることも、悪用しようとする人間が星の数ほどいることもわかってる。だからこそ、自分の能力で人を傷つけたくない。傷つけられるのも嫌。大切な人も、他の人にとって大切な人も、全てを守りたいの!」
今まで荒事とは無縁だった女の子が、最強能力者を自覚し荒波に航海し始めた瞬間だった。
「尚更、戻れなくなるけど……いいのか?」
「戻れないからこそ、少しでもこの力を平和のために使いたい」
「まあ、ステップ9なら特別採用になるだろうな」
「特別採用?」
「特別工務隊の重要な任務の一つが、ステップ9の監視と結婚などの管理だからね」
「えっ、3人ともメンバーなんでしょ?」
「監視対象ではあるが、エリザはともかく俺とピラーセルは工務隊としての仕事をこなせる程度には従順だからな」
「アビリスターにとって最大級の金蔓であるセントカクラ家を敵に回してる方に言われたくはありませんけどね」
ロルが肩をすくめる。名目上はアギと夫婦だが、実態は複雑だ。
「特別採用ではあるけど、簡単な研修は必要。職場見学に筆記試験、射的や犯人確保の実技まで。丸一日かかるけど、予約取れ次第でいいか?」
「対策とかは……?」
「ハイスペックの貴女なら問題ありませんわ。所属すればすぐに慣れます」
後日、淀の研修が正式に決定した。




