地球組がアビリスター陣とか絡む伏線を貼る回です。
俺の名前は一大寺行成。高校生にしてILDAYの探偵卿の一人だ。
今日は学校も探偵卿の仕事もない、久しぶりの完全な休日。
俺は居間のソファーで寝そべっていた。側の机では仕事を終えたメイドの市振未早矢が、PCで趣味のオンラインゲームを楽しんでいる。
「やっぱり淀ちゃんがいないと調子出ない感じ?」
声の主は俺の母親、一大寺伊葉だ。
普段は親父と海外にいるが、どうやら暇つぶしに日本へ帰ってきたらしい。
「行ちゃんの活力の源はやっぱり淀ちゃんよねえ〜」
「その行ちゃん呼びやめろと言ってんだろ。どうせくだらん暇つぶしだろ?」
「失礼ね。こっちは真面目な話よ。あなたの許嫁についての話なんだけど」
元子役出身の女優である彼女は、20代半ばでキャリア官僚の父さんと結婚し、役者だけでなく絵画やファッションデザイナーとしても名高い。
「合わせるなら早くしてくれ。そろそろ具体的に誰かぐらい教えてくれよ。淀にも言ってないようだが」
「淀ちゃん以外に誰かいるの?」
寝耳に水だった。
「だって私の友達にも、メイドってより未来の義娘って紹介しちゃってるし。」
「……」
「そもそも借金を申し出るためにあの夫妻(淀の両親)に呼び出されたとき、最初は断るつもりだったけど、淀ちゃんを見て一目惚れしたのよね。私もああいう娘が欲しかったし、許嫁の候補ってことでメイドの話を持ちかけたのよ。淀ちゃんには教えてないけど。」
「…ちなみに淀さん以外の候補はいるんですか?」
未早矢は俺と母さんにお茶を注ぎながら、静かに尋ねた。
「行ちゃんが淀ちゃん以外誰も見てない時点で、検討する気も起きないわよ。まあ行ちゃんが淀ちゃんに振られるなら別だけど」
未早矢が少しクスッと笑う。
「まあ私も義娘って紹介された一人ですし、行成君に仕える気があるなら淀さんのこともメイドの先輩というより、仕える奥様としてみなさいと教えられました。」
「まあ行ちゃんが嫌なら別に向こうのご両親にも断ってくるけど。」
「させねえ!」
「それでこそ行ちゃんよね」
「まあこの男なら、どんな美人と強制結婚させても、淀と不倫することだけ考えてそうですしね。」
「江初。お前もいたのか」
「淀に合鍵渡されてるのは知ってるでしょ? 新しいメイドさんこそいるけど不慣れなうちは行成君の本棚とか埃だらけでしょ。せっかくの休みを割いて手入れしてくれる私に、少しは感謝しなさいよ。」
「それはどうもありがとよ」
「それぐらいなら私がやりますよ。本家のご令嬢様にこんなことやらせられないし」
「いいわよ。もともと淀に頼まれたことだし、行成君にはうちの関連施設の事件もいくつも解決していただいてますからねえ。」
慇懃無礼な態度でありつつ、淀ほどではないが作業自体は真面目なお嬢様。
「にしてもさあ。アビリスターであいつってどうなのかなって」
「?」
「向こう行っても淀ってやっぱりモテそうじゃん。だからこそ次会ったときには強力なライバルが表れてたりしてね。」
「まあ行成と張り合えるレベルは流石に早々いないと思うけど」
「いや。淀ならわからないわよ。まあ淀にそれ尋ねたことあるけど……」
江初は淀の似てない物真似をする。
「私がそんなアビリスターでモテるはずがないじゃない。行成ならともかく私はもともとそんなかわいくないし」
「淀さんらしい回答ね」
俺にとって最悪の懸念が頭をよぎる……
「まあ淀ちゃんはそこまで尻軽な女じゃないって行ちゃんもわかってるわよね。」
「江初さん。逆効果っぽいですよ、彼には」
まあ江初の言う通り、俺の顔はさらに歪んでしまう。あれだけ美人なのに謙虚で律儀。だからこそ内面にも改めて惹かれてしまう男は数知れずだ。もちろん俺もその一人。
「……まあだからこそ案外行成にとっても仲のいい悪友が増えるかもようん。」
まあ流石にちょっと踏んではいけない地雷を面白半分に踏んだと気づいたのだろう。
ミーハーなお嬢様なりには、俺を落ち着かせようとしてくれている。
「彼が淀さんを狙う男と悪友関係になるなんて、多分ありえないと思うけど」
「まあ物理的だけでなく異能力的にも精神的にも、行ちゃんとは離れた場所に行くとかないだけマシよね…」
うわ。下手な特大フラグまで立ってしまった。待てよ。
「そういえば結局淀はアビリスターでちゃんと開発を受けたはずだが、それどういう能力なんだ」
「行成君が知らないことを私達が知るわけないでしょ?」
それもそうだ。
正直、留学する時点であいつがアビリスターでどういう能力者になるかなんて基本どうでもいいのだが、ここにきてなぜか気になり始めた。
今後電話で聞いてみるか。ラインで済ませないのは、少しでもあいつの頭から俺が離れないでほしいだけだ。




