宇宙留学前でも、ご主人様の告白は強烈だった
庭に呼び出された私は行成様の雰囲気が普段とは違うのに気づく。
「そんなに重大なミスでもしましたか、私」
「まあ大丈夫だ。新しい働き口……ってより就職先は面倒見てやるよ」
まあもし事件の情報とかを間違って漏洩したとかだったら即日クビどころか、今頃警察沙汰かな。どちらにせよそれなら彼がこんなに緊張してる理由がわからないけど。
「俺の妻として終身雇用してやるよ」
一瞬頭が真っ白になったけど、とりあえずクビはなさそうなので一安心。
「いっときますけど、エイプリルフールは今日じゃないですよ。せっかくの休みなのに私なんかにくだらない冗談言ってないで、ゆっくり今週発売の『銀打一少年の事件簿』でも読んでおいた方がいいんじゃないでしょうか」
「バーカ。幼少期から大好きな相手へのプロポーズが冗談なわけないだろ」
心臓が、ものすごくうるさく鳴っていた。
これは……夢? それともいつもの彼の冗談?
でも、耳まで真っ赤にして震える声で「幼少期から大好き」なんて言われたら、冗談だと言い切る方が難しい。
彼のちょっと怒ったあとの、真剣すぎる目と耳まで赤くなった顔を見て、本物なのではと思えてきた。
彼は探偵卿であり母親も元女優なので、演技などもプロ顔負けだけど、付き合いが長い私には見破った経験が何度かある。
しかし今の彼からは、この告白を冗談と断定する根拠は見当たらない。
「……仮に私のことが好きだとしても、伊葉さんいわく行成さんには幼少の頃から嫁として決めている相手がいると聞いたことがあります。私なんかに告白どころかプロポーズまでしちゃっていいんですか?」
伊葉さんは彼の母親であり元子役出身の著名な女優である。
彼女いわく行成様が小学生ぐらいの頃に既に将来の結婚相手を決めてるのだそう。しかし肝心の相手に対しては「秘密」の一言。
まあどちらにせよそれを無視して私にこんなこと言ったら親子仲は冷えそうだ…
「バカ。親父お袋が何言おうが、俺の目にはお前しか映ってないんだよ」
「一夫多妻でもするつもりですか?」
「俺は絶対、生涯お前のことしか愛さない。絶対に。主人とメイドじゃなくて、男女の恋人……いや、夫婦になりたいんだ」
彼の声は少し怒っていたけど、それ以上に震えていた。なによりそこまで言われると、聞いている私も気まずい。
探偵卿かつ母親譲りの相当なイケメン、文武両道であり当然女の子にもモテモテで何度も告白されてるけど一度も応じたことがない彼の本物の告白に流石の私も相当動揺してしまう。
正直、私も彼に愛情と呼べる感情がないと言ったら嘘になる。でもそれはあくまでも使える主人としての感情。それが一人の異性に向けた感情にもなるかと言うとわからない。
だからと言って彼はすごく真剣な眼差しだ。ここであからさまに断ったら発狂でもされかねないレベルで。
「……保留ってことか」
「…………」
「じゃあせめて様付けと敬語をやめてくれないか。」
「はい?」
「せめて普通の男女として交際できないか。少しでもお前に近づきたいんだよ……主人とメイド、クラスメイトなんかじゃなくて、1対1の男女として」
「……別に恋人じゃなくて、普通の彼氏彼女にありがちなことならいいわよ。行成」
彼の顔が少し明るくなった。交際ぐらいはまあいいかなと思う。たまにサポートのために彼の事件捜査に同行するので、その延長線上と考えればまあいい。
「あとから嫌になったらいつでも元に戻せるのを忘れないでね、行成。まあそんなことよりスマホ鳴ってるわよ。多分また新しい事件の捜査依頼では?」
とりあえず、たまの交際とメイドとしての体裁を崩した呼び捨て・敬語不用を条件に、告白は保留となった…と思う。
ほぼ形だけだけど行成とは一応交際をするようになり普通の高校生の彼氏彼女がやるようなデートもした。
行成への敬語と様付けがあっさり抜けたのは自分でも不思議だなあ。
「浅利が正式に一大寺のメイドから奥さんに昇格したぞ!」
「ついにご主人様攻略したな!」
「奥さんいつから?」
学校ではこんな風にクラスメイト達からついに本格的に夫婦になったとイジられるようになった。まあいじられるのは前々からだけど。
しかし行成と付き合うようになったこともはるかに超える、自分の人生最大の転機は数週間後だった。
——超能力者の星、アビリスターへの留学。
そこで約20億人の命を奪う力になる「サイクロンスプリーム」になるとはこの時点ではまだ夢にも思っていなかった。




