メイドの私が宇宙に留学し約20億人の命を奪えるようになる数週間前の話
ここは超能力を開発する宇宙最先端の技術を持つ惑星アビリスター。
私はまさに能力の開発を受け、今まさにその結果を告げられるところだ。
「浅利淀君。君の能力はこのアビリスター最強格のステップ9の一人だ。能力名は……『サイクロンスプリーム』とでも呼ぼうかな」
私はその言葉を受け止めるのに、しばらく時間を要した。
ほんの数週間前まで、ただのメイドだった私が——この星で最強クラスの超能力を手に入れてしまうなんて。
数十年前なら、国民的青ダヌキが誕生する年でも実現困難と切り捨てられるだろう一般人向けの宇宙船が、空をゆっくりと横切っていた。
夕暮れの学校の図書館にある、遠い昔ではないはずの平成時代の社会科の教科書に載っていたそれと比べると、別物のような東京の風景だ。
宇宙文明の求めに応じて地球が開国してすでに数年なのに、街はもう別世界の色に染まり始めている。これにより日本、いや地球は、地球外文明と交流する時代に突入した。
歴史学的には、ちょうど開国の年を宙代 (ちゅうだい)という時代の始まりとする定義が、教科書に載り始めたところだった。
「さて、次は客間の整理をっと」
私の名前は浅利淀、17歳。とある名家・一大寺家に仕えるメイドであり、少し武道が得意なこと以外は平凡な女子高生。当然、日本人らしい黒髪の持ち主だ。
……まあ、メイドをしながら女子高生という時点で、多分普通じゃないのだけど。なぜ女子高生なのにメイドをやっているかというと、親の事業を救ってもったためである。
私の両親は、親としてはそれなりにいい人だとは思う。しかし才能はあるものの、商売人としては典型的な不器用なろくでなしだった。私の幼少期に事業で失敗し、巨額の借金を作ったのだ。
「ごめん淀。ちょっとお父さんの会社を救うためとある家のメイドさんになってくれないか。」
が、それに対する一大寺家当主夫婦の融資――という名の実質返済期限無期限の補填を条件に、当時小学校に上がりたての私を住み込みのメイドにした。
「まあホームレスになるよりはましだしもともと家事も料理もある程度はこなせるし」
おかげで私は現在、メイドとしての仕事以外は普通の高校生活を送れており、武道を習うこともできた。
現在、一大寺家の当主夫婦は海外にいる。そのため、当主夫婦の息子であり私と同い年の高校生でもある行成 (ゆきなり)様は、ほぼ一人暮らしだ。
ほぼと言ったのは、メイドである私が週に数回ほど夜遅くまで泊まり込むからである。
親友どころかクラスメイトからも、それを「夫婦」や「恋人」などと冷やかされることも多い。私はあくまでもメイドなので、その度に「私はただのメイドです」と強く訂正しているが、やはりメイドと恋人なんて心外なのか、行成様はそれに不快そうな顔を見せることも多い。
正直、いくら金持ちだからって中高生をメイドと共に広い屋敷に放置する親はどうかと思う。当然私は両親と海外に行くことを勧めた。ちなみに私自身は海外生活なんてする気は一切ない。
しかし私が同行しないと聞いた途端、なぜか行成様本人が嫌がった。
まあ元々一大寺家は一家全員自由奔放な変わり者だ。小学一年の頃、親同士が元同級生だからここで働いてくれとこの屋敷に連れてこられたときも――
「今日からここでお手伝いをさせていただく浅利淀です。一大寺家の皆様、よろしくお願いします」
「…………はじめまして。俺の名前は一大寺行成」
一大寺家一家との初めての出会いだが、なぜか私と目を合わせた途端、行成様は急に顔を赤くした。そして少なくとも数週間は、私とろくに目を合わせてくれなかったこと。「ニヤニヤ」なぜかそれを一大寺夫妻がニヤついて見ていたことを、今でも鮮明に覚えている。
彼は幼い頃から推理の天才で、高校入学と同時に開国により凶悪化した犯罪に対抗する国際探偵機構(略してILDAY)にスカウトされた。
中高生でありながら、一般警察では解決できない難事件をいくつも解決している優秀な探偵卿だ。
私も来客対応など、実質秘書のような仕事をしている。借金はほぼ返済済みだが、実家の万一に備えてメイドは続けている。
しかしあくまでも私と同い年の高校生なので、当然留年しないために必須の課題などもある。さらに私が管理しなければ私生活については食事はカップ麺とコンビニでの買い食い、洗濯物や洗い物は溜め放題、広い屋敷はホコリまみれといったレベルである。
今日も週末の午後、陽射しが差し込む屋敷で家事と掃除をこなしていた。行成様の部屋の事件資料の山を避けながら埃を払う。今日は彼にとって久々の本当の休日だったはずだ。推理小説やドラマに浸って過ごすと思っていたのに——「重大な話がある」と、庭に呼び出された。
「そんなに大事な話とは一体なんでしょうか」
なぜか彼はすごく緊張している。
屋敷の裏手、大きな木の木陰。そこで彼は立っていた。事件捜査のために政財界の大物や旬の著名人と出会ってもろくに動揺しないような男が、今日は妙に肩を固くしている。
「淀。お前は18歳になったら、メイドやめてもらえるか」




