俺はお前が遠い星に行く前から思い続けてたんだぞ
俺は今、遠い超能力者の星から帰ってきて結婚したばかりの最愛の妻の風呂上がりを待っている。
広い屋敷なのに、俺たちの寝床は二人で一室だ。俺たちの関係を考えれば当然のことだろう。
風呂場から部屋に戻ってきた淀は、バスタオル一枚を巻いた姿で現れる。
俺は無言でそのバスタオルを外し、生まれたままの姿を晒させた。
「……ちょっと、行成」
恥ずかしがりながらも、真面目に大事なところを隠そうとはしない。
お互い全裸で向き合ったまま、つかの間の沈黙が落ちた。
「ねえ……抱いて」
「本当にいいんだな?」
「だって先に我慢できないって言い出したのは行成でしょ?」
俺は淀の処女を奪う。俺も初めてだが、だからこそ激しく求めてしまう。
「行成。流石にそこまでは……」
「ご主人様命令を聞けないってのか?」
「こういう時だけご主人様を強調しないでよ」
そう言いながらも、法悦した表情で俺の求愛に応じる淀。
俺たちはそのまま一夜を共にした。
——もちろん、これは夢だ。また夢精してしまった……。
温かい肌の感触だけが、夢の中で鮮やかに残っていた。
俺は遠い星に留学してしまった最愛の女性が、どうしても頭の中から離れない。
それはいつからかという問いの答えは、たった一つ。
「出会った瞬間から」だった。
俺と淀の出会いは、小学校に入ったばかりの頃だった。
淀の両親が事業に失敗して多額の借金を負ったため、彼女は俺の家の住み込みメイドとして雇われた。両親に連れられて初めて対面した瞬間、俺は完全に一目惚れした。
とにかく可愛くて、愛らしい。出会って数週間はろくに目を合わせることすらできなかった。
その容姿に似合い、メイドとしての実力は小学校の段階で既に一流だった。屋敷での仕事は所作が丁寧なだけでなく、気品と家庭的な優しさも両立されていて、見れば見るほど惹かれていった。
成長するにつれて発育の良さも加わり、女性としての美しさに磨きがかかった。
中高生以降は武道を習い、数々の大会で好成績を残すギャップにも、心の底から萌えた。俺はあいつ以外で、自分の溜まった欲望を処理することはほぼ無理だった。
しかしそれが、俺にとって最大の悩みの種でもある。
あれほど圧倒的な美人で、中身も両親以外は超ハイスペックな女が、モテないはずがない。
「ちょっと行成様。なんでいつも登下校中に、学校に入る寸前だけ先に行っちゃうんですか?」
「……冷やかされるのが嫌なんだよ」
「なら話相手がほしいとか言って、昼食や放課後の部活に私を付き合わせるのはやめたらいかがですか? 別に手伝いが必要な用事とかもありませんし」
正論なのだが、淀と一緒にいる時間が減るのは嫌だった。
「うるさい。これは俺の……まあアレだ」
我ながら見苦しい言い訳をしながら、俺は先を急ぐ。そして淀の下駄箱をチェックする。
「……告白なんてさせるかよ!」
俺は淀宛てのラブレターを見つけ、それを自分のカバンの中に隠した。もちろん自宅のゴミ箱行きだ。
こうして俺は、淀に言い寄る虫の努力が実を結ぶ芽を、ことごとく摘み続けてきた。
その光景を物陰から見ていたと思われる人物の影が、俺の視界に映った。
「いや〜モテる女の旦那は大変ねえ〜」
呆れつつも、どこか嬉しそうな顔で仁王立ちしているのは、小学校からの腐れ縁・和宮江初だった。
この国の総理の一人の直系子孫であり、名門企業の創業者一族の令嬢でもある。もともと一大寺家の分家だが、資産規模は俺の両親を遥かに圧倒している。
「しかし行成からあれだけ惚れられてるってのに、本人は自分がモテることすら無自覚ってのがねえ。あんた達二人が主人とメイドじゃなくて恋人か夫婦みたいな関係ってのを、単なる冗談かからかいだと思ってるのは、恐らくこの学校でも淀本人だけよ」
「まあ俺にとってはその方がまだありがたくはあるんだけどな」
「でも高校、大学と行ったらもっととんでもないレベルの美人になるでしょうね。早く真っ向から告白しないと。まあ淀本人は貴方からの愛に夢にも気づいてなさそうだけど」
「行成様。江初となに話されてるんですか?」
いつの間に目の前にいた淀。
「……淀にはまだ少し早い、ちょっと大人の話よ。うん」
不思議そうな目から、ミーハーなお嬢様の恋愛ごっこに苦笑した表情になる淀。
「私だったらとっくに押し倒してるけどね〜」
「おいっ」
俺は慌てて江初の言葉を誤魔化した。
まだ、淀に本当の気持ちを伝える勇気はない。小学校高学年から今まで、これと似た会話を何度繰り返したことだろうか。




