20億人の命を奪える女だからこその決意
私は20億人の命を奪える女だからこその決意を、声に出した。
「……私は決めた。絶対に自分の能力を悪用しない。そして誰にも悪用させない」
自分のせいで誰かを傷つけない。平和を守り抜く——。
まだ現実をよく知らない人間の、青臭い決意かもしれない。
でも、胸の奥でざわめく恐怖を押し殺し前に進むためには、これしかなかった。
「実際にそういう勢力と遭遇したら?」
「そのときは……命がけで戦う」
ピラーセル君は、その言葉を待っていたように小さく笑った。
「あの、その時はピラーセル君たちを頼っていいよね……?」
「やれる限りは協力しますわよ」
「逆に、君自身が暴走したら、僕が戦う覚悟はあるよ」
その言葉を聞いた瞬間、胸に熱いものが込み上げた。
怖い。自分が怖い。
でも、同時に——この人たちとなら、戦えるかもしれないと思った。
「こういうことのために僕たちは特別工務隊なんだ。君との友情以前に、それが仕事だからな」
言葉はぶっきらぼうだったが、ロル君の表情には新しい仲間を迎え入れるような温かさがあった。
私は少しだけ、肩の力が抜けるのを感じた。
「それと、勝った場合は一つ頼みごとができるのでしたわよね? 常識の範囲内で良ければどうぞ」
私はファイヤープリンセスの顔をまっすぐに見つめた。
「エリザってのがファイヤープリンセスさんの本名ですよね?」
「ええ。ベニセイス・エリザと申します」
「じゃあ、エリザさんって呼んでいいかな? これからも……友達として」
エリザは一瞬目を丸くした後、ふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「どうぞご自由に。タメ口でも呼び捨てでも構いませんわ。ステップ9歴はともかく、年齢は私が年下ですし……よろしくお願いします、淀さん」その笑顔は、先ほどまで戦っていた相手とは思えないほど優しかった。
私は自然と笑顔を返した。
これが、初めてできた「能力者としての友達」かもしれない。
「流石新しいステップ9さんやなあ」
「いかにもヤンキー同士の喧嘩後の友情って感じだねえ」
「まあ淀は美人だし人当たりいいしな」
声がした方を見ると、アギちゃん、その取り巻きの二人、そしてミンネさんが立っていた。
「アギちゃんたち、なんでここに?補習じゃなかったんですか?」
「補習のはずだったんですけど……お嬢様がこの近くの自習室でヨドさんが飛んでる姿を見て、漫画の着想が得られたとゴネだしまして。まあこのままやらせてもどうせろくに身につかないでしょうし」
「まあいつものことだからな」
ロル君はいかにも「まあそうだろうな」という顔をしている。
「ではそちらのアギちゃんの友達二人は?」
「私達2人もついでにミンネさんの補習受けてたんやで。」
「私達だって飛び級だけど成績はヤバいからねえ。まあアギちゃんほどではないけどねえ」
「お前らに言われたくないわ!」
かわいい女の子三人のちょっとした口喧嘩を、ロル君は呆れながら見つめる。
「まあどんぐりの背比べってやつだな。まあ俺も他人のことあんまり言える立場じゃないけど」
……どうやら学力も容姿も、似た者三人組らしい
その後、イカレタヤカタに戻り夕食を取った。
ミンネさん、ロル君、ピラーセル君との四人だ。アギちゃんはコウレ君に補習を受けている——ではなく、
「えっと1ページに約1時間でこのエピソード全話だと……」
作品の締め切りと格闘しているらしい。女子高生とはいえ(しかも見た目と年齢は女子中学生)、作家としての真面目さはやはり本物のようである。
「しかし、ほぼ初めての勝負でよくやったな、ヨド」
「中学生の頃から武術をやっていて、段位もありますから」
「やはりそうでしたか。昨日の暴漢相手にも強かったですしね」
まあ戦闘相手は明らかに素人以下の金で雇われただけの不良達だった。でもコウレ君とミンネさんなしでは制圧に相当苦労しただろう。
食後のお茶を注ぎながら、ミンネさんが感心したように言った。
「でも、凶悪犯罪者相手に通用するかは自分でもわかりません」
「凶悪犯罪者って……お前、そんな相手と戦った経験あるのか?」
「地球にいた頃、メイドをやっていたんです。その主人が探偵卿だったので、何度も事件に巻き込まれました。もちろん暴漢とかならすぐ倒せましたが、大人数相手では流石に厳しかったです」
「それでも充分すごいわ。それだけの怪力なら、パワーもちゃんと使いこなせるはずよ」
「そんな……飛行はやっぱり怖いですよ……」
「年頃の普通の女の子みたいなことを言いますわね」
だってそうなんですから——と言わず、私は小さく笑った。
「少し前までは、本当にそうだったんですから……仕方ないじゃないですか」
少しずつ、能力以外の自分の人格も変化し始めている自覚が芽生えていた。
「明日は休日だけど、こんな住処とあんな学校で呆れたかな?」
「そんなことないよ。確かにちょっと狂った町で少し変わった人達だとは思いますけど、この穏やかな時間を過ごすのはそんな悪いことじゃないと思ってるから!」
これは本心だ。
自分自身が大量破壊兵器になったからこその、新しい出会い。




