Jkの私が20億人の同胞の命を奪える大量破壊兵器なのを自覚した日
学校の裏山での能力勝負で、先手を取ったのはファイヤープリンセスだった。
彼女はビルの高さほどまでロケットのように跳躍し、私に向かって炎を放つ。
地上で腕を組んだロル君が、感心したように呟いた。
「流石……ファイヤープリンセスだな」
「よっと……!」
私はとにかく避けたが、この勝負は相手の額に触れた者が勝ちだ。
ここまで来た以上、私も自分の力がどこまで通用するのか試してみたくなった。
研究所の試験場でやったように飛び上がるが、あの施設は私が自分自身を風に変えて飛ぶのに最適化されていたらしい(その仕組みはよくわからない)。
一般的な環境で飛ぶと、私の身体はまるでハンドルが効かなくなった自動車、いや操縦不能のジェット機のような状態になった。
金づちが水中で溺れるかのごとくポーズを変えながら、ピラーセル君たちの視界の範囲から飛び出さないのが精一杯だ。
「うわああああ!」
「君は飛行の出力が強すぎるんだよ。後ろに翼を生やしてバランスを取れ」
「翼……?」
「君の能力なら、氷かなにかで作れるだろ」
「こんな感じ……?」
背中に巨大なロボットのような氷の翼を生やすと、重心が安定し、一気に飛行が楽になった。その直後、翼に向かって火矢が飛んでくる。
「正直、あのスピードでは貴女が一方的に逃げ回るだけの引き分けを覚悟していましたが……ようやくまともな勝負ができそうですわね」
翼を狙う火矢を避けたり、傷ついた部分を修復したりするのは時間がかかる。その隙に高度を落とされれば不利だ。やはり相手を無力化するしかない。
「でも、こんな相手にどうすれば……」
「落ち着け。ヨドの頭で考え、ヨドの力で戦うんだ。ヨドはサイクロンスプリームだ」
「……そうだよね」
逃げ回るだけではなく、戦える限り戦って白黒をつけたい。
やらずに後悔するより、やって後悔した方がいい。
私は攻撃に転じた。風を送り、相手であるお姫様の慣れた飛翔能力を奪おうとする。
ロル君が、少し嬉しそうに微笑んだ。
「へえ、やりますわね。こちらも派手にいかせていただきますわよ——バーストファイヤー!」
その名に違わず、地球なら鉄筋のビルすら大きく損傷しそうな巨大な火の玉が乱射される。
私は咄嗟に氷の壁を作って防いだ。彼女が壁に気を取られた隙に上方へ回り込み、至近距離に詰め寄る。
「サイクロンスプリーム!」
巨大な風の波を放つと、ファイヤープリンセスの炎が一瞬で萎んだ。
今だ——!一気に飛びかかり、手を伸ばす。その指先が、彼女の額に触れた。
「勝者、サイクロンスプリーム」
「……やった」
勝利の喜びと共に、自分の能力の恐ろしさを痛感した。
もし地球の東京で本気を出したら、どれだけの被害が出るのだろうか。
勝負が決まり、私たちは翼を下ろした。
近くの公園のベンチ。自動販売機で飲み物を買った私、ピラーセル君、ロル君、そしてファイヤープリンセスの四人が座っていると、ピラーセル君が唐突に言った。
「ちょっとしたクイズ。君の星、つまり地球人史上最も多くの命を奪った人物は誰だと思う?」
「ピラーセル、お前わりとドライだよな……」
ロル君が質問の意図を知っているということは容易に読み取れた。
ファイヤープリンセスも、表情から事情を知っているようだった。
「何か起きる前に、現実を知っておいた方がいいと思うんだよね」
「まああなた方は違って、良くも悪くも甘い環境で育ったみたいですし」
「……なんでそんなクイズ出すのよ?」
「君の星についてある程度調べたからさ」
「殺せる人数だよね……」
「そう。権力でも財力でも異能力でもいい」
薄々既に答えに気づいている。しかしそれに真っ向から向き合う気にはなれない。
「……ヒトラーとか、ポル・ポトとか?」「残念。ヒトラーは生涯で約1700万人、ポル・ポトは約170万人。トップ3にも入らない」
「…………」
「3位がスターリンの約2300万人、2位が毛沢東の約7800万人」
「もうやめて……」
私は頭を抱えたが、彼は構わず続けた。
「浅利淀は約20億人」
「…………」
「まあ、最高速で世界中の原発や核施設を片っ端から破壊した場合の推定値だけどね」
「念のため言っておきますが、これはピラーセルさんの妄想ではありませんわ。貴女を開発した研究所の正式推定値です。私も事前に読ませていただきました。」
自分が怖くなった。
数日前に私はごく普通の女子高生から、約20億人の命を奪える大量破壊兵器へと変わってしまったのだ。とにかくそれが怖い。
「まあ、変に硬くならなくていいよ。僕やエリザだって同じくらいなんだから」
「ちなみに俺はおそらく60億人くらいかな。まあいずれ慣れると思うよ」
「……能力って、手放せないの?」
「ステップ9の素養がある時点で、無理やりアビリスターに連れてこられる運命なのは変わらねーよ」
「つまり君は地球が開国した時点で、母星、いや宇宙でも有数の孤高の天才かつ天災になることを定められていた存在だ」
アビリスターに来る前に感じた「何かに呼ばれている」感覚は、これだったのか……。
「もちろん、ステップ9の力を軍事利用しようとする勢力もたくさんいますわ。いずれ戦わなければならない日が来るでしょう」
「下手に悪用されれば、君の出身国、いや母星そのものが跡形もなくなるだろうな」
背筋に冷たいものが走った。
しかしその恐怖が、逆に一つの決意を生んだ。




