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第9話 お姉さんになった日

<三人称視点>


「できたわよ~」

 

 笑顔のルーゼリアさん。

 素手で持つのは、熱々のお鍋だ。

 その中には、ぐつぐつと煮られたお肉が入っている。


「おお」

「わあ」


 お肉は、さっき(たい)()したクマの魔物だ。

 名前は『フォアグマ』。

 異世界でも高級肉として有名だった。

 

《あれクマさんどこいった!?》

《すでに鍋の中だぞ》

《瞬殺→調理》

《トイレ行ってたら見逃したわ》

《お姉さん「どう調理してやろうかしら」》

《本当に調理するとは思わんやんwww》

《熱耐性あるから素手で草》

《美味しそう》

《高級肉だもんなあ》


「こういうのも悪くないなあ」

「そうだね」


 三人は火を囲いながら、お食事休憩を挟む。

 ルーゼリアは料理の腕もピカイチだ。

 なぜか調味料も持参しており、存分にお鍋を味わった。


 すると、ココネはカナタの腕にひっつき、ウトウトし始める。


「主様ぁ」

「ははっ、お腹いっぱいになったのか」

 

《今日ってキャンプ配信だっけ》

《リラックスし過ぎで草》

《ここって一応下層だよな……?》

《緊張感ねえwww》

《警戒心仕事しろ》

《ココネちゃんの寝顔拝むお^^》

《かわいいねえ(ニチャア)》


 のんびりしているとは言え、防衛網(ぼうえいもう)は張っている。

 広い範囲をルーゼリアの炎で囲っているのだ。

 その安心感もあり、カナタは続けた。


「ちょうど良いので雑談でも挟みますか」


《ちょうどいい(下層)》

《実はカナタ君も常識ないんよなw》

《かすんでるけど、こいつも大概だぞw》

《常識人面した異常人》

《周りが周りだしな……》


「なんかひどい事を言われてるような……お、質問を読み上げますね」


《結局、従魔ってなんやねん》


 異世界には、三つの種族が存在した。

 人間、魔族、亜人だ。

 魔族は現代の魔物に該当(がいとう)し、人間と争い合っていた。


 そして、亜人は基本的に中立。

 ココネとルーゼリアはこの亜人に属する。

 中でも、従魔というのは──。


「俺と契約を結んだ亜人、ですかね」


《へーすげえ》

《亜人ってのがいるのか》

《ダンジョンもまだ知らねえことばかりだな》

《ていうか契約!?》

《命令できちゃうの!?》

《えっっっ》

《それってやっぱり……》


 後半の何かを妄想したコメントに、ルーゼリアは(もてあそ)ぶ。


「そうなの。カナタ君ったらえっちな命令ばっかり」

「したことないだろ!?」


《こいつ!》

《カナタてめえ!》

《けしからん奴だな!》


 (うらや)ましい関係に、半分冗談でコメントが集まる。

 さらに、ルーゼリアはふっと笑みを浮かべた。


「契約を結んだ亜人には、“契約紋(けいやくもん)”が浮かぶの。ほら」


 ルーゼリアは服のボタンを一つ外す。

 そのチラ見えする胸の上部に、紋章が浮かび上がっていた。

 カナタとの契約を示す契約紋だ。


 刺激が強い映像に、コメント欄は大歓喜。


《おっふ》

《お姉さん!?》

《と、とんでもない場所に契約紋が!》

《なんてこった》

《素直に感謝です》

《えっど》

《えっちすぎんだろ!》

《でっか》

《OMG》

《↑これには外国人ニキもオーマイガー》

 

 だが、カナタは焦りながら彼女のボタンを閉める。


「そ、そんなの見せなくていいって!」

「えー、みんなにも見てほしいのに。カナタ君との証っ♡」

「頼むから自分を大切にしろ。あとチャンネルBANされるから!」


 すると、隣のココネがむくりと起き上がる。

 対抗心を燃やすような目だ。


「ココネもございますよ、ほら」

「おい!?」


 ココネは背中のファスナーに手をかけた。

 じーと下げていくと、同じく紋章が現れる。

 契約紋が浮かぶ場所は、ランダムのようだ。

 

「ココネと主様が(つな)がっている印です」

「君達、俺をBANさせたいの!? 上げろ上げろ!」


《従魔によって違うのかよ!》

《なんてえっ、いや良いシステムなんだ!》

《ココネちゃんは背中か……》

《ふう……》

《契約紋自慢助かる》

《素敵な配信をありがとうございます》

《もう少し下げられませんか?》

《対抗心燃やしててかわいい》

《上級探索者から分析させてもらうと素晴らしい背中ですね》


 こうなれば、気になる事も出てくるようで。


《契約ってことは、縛りでもあるんですか》


「あー、あるにはあるんですが……」


 契約とは、主が目的達成まで従魔を従わせるもの。

 カナタの契約は『魔王討伐』だった。

 目的は達成されているため、契約は終了できる。


 しかし、従魔二人が(・・・・・)それを許さない。


「そろそろ二人の契約紋も消そうか──」

「嫌です」「ダメ」

「……ですよね」


 契約紋は従魔を縛り付ける。

 だが、二人はあくまで“誇り”に思っていた。

 カナタの為なら全てを尽くす覚悟で。


「主様。もう一度言ったら泣きますからね」

「カナタ君はお姉さんと一生一緒なんだよ?」

「分かった、分かったから! ただの確認だから!」


 病んだ目で寄ってくる二人に、カナタは慌てて訂正する。


「「ふふふふっ」」 


《愛が重てえw》

《二人は自ら縛られてるのかww》

《むしろカナタ君が束縛されてて草》

《主従逆転》

《こっわ》

《ヤンデレやん》

《怖いけど羨ましい……怖いけど》

《目がガチなんだよなあ》

《重たくて良いぜ》


「じゃあ今日は、お姉さんと“夜の契約”ねっ」

「だからしないってー!」

「やん」


 ちなみに、カナタは背徳的な命令も行使できる。

 結んでいるのは、最も重い『血命(けつめい)の契約』だからだ。

 それでも、一度もしたことがない。


 思春期らしく興味はある。

 だが、どうしても頭を(よぎ)るものがあった。


(亜人にひどい扱いをするクズもいたからな……)


 異世界の人間には、契約を悪用する者がいた。

 立場などを利用し、亜人に強制的に契約を結ばせるのだ。

 その結末は、男なら労働力、女なら(なぐさ)み者である。


 そんな光景も目にし、カナタは手を出していない。


「んもぅ、カナタ君のけちっ」

「はいはい言っててねー」


 ルーゼリアもそれを理解し、半分冗談で言っている。

 ただし、命令されれば大喜びで受け入れることだろう。

 それほどカナタを溺愛(できあい)していた。


(そう思えるぐらい、お姉さんは救われたんだよ)

 

 ふと彼女の頭を巡ったのは、カナタと出会った時の記憶だ。



────


 異世界、とある日。


「う、うぅ……」


 赤髪の少女は、暗い森の中で倒れていた。

 かつてのルーゼリアだ。

 まだ顔は幼く、体も小さい。

 

「お腹、空いた……」


 もう一週間は何も食べていない。

 体はすでに衰弱しきっていた。

 だが、ルーゼリアはようやく決心できた。


(でも、これで迷惑をかけないよね……)


 一週間前、ルーゼリアは自ら(・・)森に身を隠したのだ。

 理由は、周りの者を傷つけてしまうから。

 この頃のルーゼリアは、自身の強すぎる火を制御できなかった。


 母は、自分を産むと同時に腹が焼けた。

 父は、彼女の力を恐れて逃げた。

 村人は、誰一人近寄らなかった。


 優しすぎたルーゼリアは、周りに迷惑をかけるならと里を抜け出した。

 自分一人が死ねば良いと考えたのだ。

 しかし、後悔してないわけではない。


「私は何の為に生まれたのかな……」


 生まれた時から恐れられ、迫害され。

 自分の人生に意味を見出せなかった。

 そして何より、単純に死ぬのが怖かった。


 ──そんな時、少年が現れた。


「大丈夫?」

「──え?」

「お腹空いてるでしょ。ほら、これ」

「……っ!」


 パンを差し出したのは、見知らぬ少年だ。

 怪しいかもしれないが、極限状態の食欲には(あらが)えなかった。

 幼きルーゼリアは、パンをがっつく。


「お、おいしい……!」

「そっか、良かった~」


 少年はルーゼリアに手を伸ばす。

 だが、彼女は手を取ってから気づいた。

 少年の手に耐性が付与されてないと。


「アチチチチっ!」

「あ、あ……! ごめんなさい!」


 しかし、これはわざと。

 少年は身を(もっ)て火を体験したかったようだ。

 手をふーふーしながら、少年は笑った。


「ははっ、噂通りすごい力だな!」

「え?」

「君を探していたんだ。この力は活かせるよ!」

「……!」


 少年は、近くの里でルーゼリアの噂を耳にした。 

 それを聞き、わざわざ探しに来たのだ。


「俺は久遠(くおん)カナタ。一緒に来てくれないか」

「~~~っ!」


 初めて“すごい力”だと言われた。

 ()(きら)い、恨んだ力を、初めて生まれ持って良かったと思えた。

 まさに、ルーゼリアが希望を見出した瞬間だった。


「はいっ!」


 そして、カナタの手を取って知った。

 人肌の“温かさ”を。


 それから、ルーゼリアは厳しい鍛錬を重ねる。

 熱い炎ではなく、温かい炎へと制御するべく。


 もちろん全てカナタの為だ。

 いつか心から触れられるように。

 いつか思いっきり抱き着けるように。


 そして、カナタへの脅威を全て排除できるような、“お姉さん"になれるように。

 その強い想いは、ルーゼリアの身も心も大きく成長させ、才能を開花させた。


「カナタ君、今日から私がお姉さんだよ!」

「亜人の成長速度すごっ!?」

 

 熱い炎と、温かい炎を完璧に制御し。

 誰も寄せ付けない“不可侵の炎”と呼ばれるほどに──。


────



「ふふふっ」


 そんな出会いを、ルーゼリアは一日たりとも忘れたことがない。

 だからこそ、カナタに一生かけて付き従う。

 魔王を討伐しようと、主が現代に帰還しようと。


「な、なんだよ。俺の顔に何かついてる?」

「ううん。なーんでもないっ」

「えぇ……ま、いつも通りか」


 すると、カナタは立ち上がった。

 腹も満たし、休息は十分のようだ。


「さて、次はどこに──んん!?」


 そんな時、コメント欄に速報が流れる。


『青玉ダンジョン下層にて、大量の魔物が出現中。数分前のダンジョンシフトの影響と推測されます』


 緊急ダンジョン速報だ。

 場所はカナタ達がいる階層。

 速報はさらに続いた。


『複数の探索者・配信者の被害が確認されています』


「なにぃ!?」


 ルーゼリアの炎が安全なあまり、気づかなかったようだ。

 この配信との温度差で火傷(やけど)しそうになるが、カナタはすぐさま動いた。


「俺たちも行こ──え?」

「「うおおおおおおおお!」」

「ちょっ、二人とも!?」


 だが、ココネとルーゼリアはすでに駆け出している。

 下層の奥へと向かうようだ。

 カナタは追いかけながらも、二人の姿勢に感動していた。


「見直したよ! すぐに助けに行くなんて!」

「「待てええええええええ!」」

「ん?」


 しかし、何か違和感がある。


「主様のスキルぅ!」

「カナタ君のスキルぅ!」

「……!?」


 不吉な事を口にしながら、二人は爆走していった。

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