第8話 ダンジョン探索(蹂躙)配信
青玉ダンジョン、中層。
「お。あれはレッドウルフ──」
「ギャインッ!」
「……」
魔物を見つけるも、一瞬で焼き尽くされた。
俺は真顔になりながらも視線を移す。
「あっちはメイジゴブリン──」
「ギエエッ!」
「…………」
ただし、次の魔物は凍り付いた。
倒したのは、もちろんルーゼリアとココネだ。
ふうと一息つき、俺は口を開いた。
「君達もうちょっと待ってくれない!?」
「「あ」」
ダンジョン探索へと移り、少し。
俺たちは中層まで足を進めた。
でも、一つ問題が発生している。
「一回後ろ見てみ! まるで原型がないよ!」
「「……」」
振り返ると、荒廃した地。
魔物はおろか、ダンジョンすらも変形していた。
問題はこれ。
うちの従魔が強すぎる。
ここまで一ミリも苦戦する気配がない。
「もっとこうおしゃれに倒すとか、解説を入れながらとかさ……」
昨夜、『配信初心者向け講座』で勉強してきた。
その動画によると、強さに加えて工夫が必要らしい。
縛りを入れたり解説をしたり、時には可愛く振る舞ったり。
だけど、これじゃただの蹂躙だ。
「こんな配信じゃ──って、あれ?」
《ここまで強いと逆に面白いわw》
《振り切れてて良い笑》
《ハラハラしなくていいw》
《安心して見てられる》
《二人とも張り切っちゃうのかわいい》
《主様のためだもんな》
《ココネちゃんこっち向いて~》
意外とウケてる?
配信映えを考えすぎたのは杞憂だったみたい。
伸び続けて15万人に達しそうな同接が、それを物語っている。
そういうことなら──俺は真っ直ぐ指を突き出した。
「よーし、いけいけぇ! 二人ともやっちまえ!」
「はい主様!」
「任せてっ♡」
「「「ギャアアアアッ!」」」
《急に調子良くて草》
《カナタ君も単純なんだよなあw》
《手の平返すのかわいい》
《お前は戦わないのかよ!w》
《一瞬で火の海になって草》
《反対は氷の世界w》
《終末の光景に変わったwww》
《魔物が不憫すぎるww》
《上級探索者が泣いてます》
力を解放したのか、二人は一層魔物を蹂躙し始めた。
俺たちは勢いに乗ったまま、ぐんぐんと奥へと進む。
「!」
そんな中、ある場所でピリっと辺りの雰囲気が変わる。
どこか淀んだ空気感だ。
覚えのある重苦しさを感じていると、正体はすぐに現れた。
「ヴオオオオオオオ!!」
「「「……!」」」
ボガアッと岩壁を壊して出現したのは、巨大な魔物。
魔力の鎧を纏った二足歩行の骨剣士だ。
その姿に、コメント欄は一気に加速する。
《まさかエーテルソルジャー!?》
《超激レア魔物じゃねえか!》
《けどめちゃくちゃ強えぞ!》
《希少だから戦闘データも少ないし》
《A級だっけか?》
《うわ初めて見た》
《二人に触発されて出てきたんか!?》
A級魔物のエーテルソルジャー。
やっぱり現代でもレア者扱いみたいだ。
理由はいくつかある。
咆哮を放ち、エーテルソルジャーは声を上げた。
「我はレア魔物にして最強の剣士──ギャアアアアアア!」
「「邪魔」」
「あ」
でも、言葉は途中で悲鳴に変わる。
言わずもがな、ルーゼリアとココネに瞬殺されたんだ。
半分は炎で炙られ、もう半分は氷漬けにされた。
「バ、バカなぁ……グハッ」
「あーあ」
《瞬殺で草》
《うっそだろwww》
《エーテルくーん!w》
《話すら聞いてもらえないwww》
《自己紹介させてあげてよ;;》
《一応A級魔物ですからね……?》
《知 っ て た 》
《これにも苦戦しないかあ笑》
まあ、正直分かってた。
異世界では、従魔が勝手に狩りもしてたほどだしな。
希少ゆえに“かくれんぼ”とか言いながら。
そんな二人の強さに、質問コメントも増え始めた。
《ココネちゃんはどうやって鍛えたんですか》
「日々、主様を想って鍛錬しています。枕の下に主様の写真を敷いて寝ると、夢に出てきてより効果的です」
「初めて聞いたわ」
《かわいい》
《主様大好きで草》
《夢でまで一緒にいるのかw》
《ココネちゃんも中々に愛が重たいw》
《グッズ展開希望です》
《私も主様の写真ほしいです》
衝撃告白により、コメントも変な方向に進む。
いつも枕を持ち歩いてると思ったら、そんな秘密があったのかよ。
すると、今度はルーゼリアへの質問だ。
《どうしてお姉さんはそんなに強いんですか》
「カナタ君のおかげかな。高評価とチャンネル登録をしたら強くなれますっ」
「嘘つけ」
《なわけあるかw》
《主に嘘って言われてるやんwww》
《チャンネル登録しました》
《高評価押しました》
《登録二回押しました!》
《↑それ解除してるやん》
おかげで登録者も高評価もめっちゃ増えてるし。
一応ありがとう。
それはそうと、俺は手遅れになる前に作業に移った。
「ったく、こんな無残な姿にして……よかった、まだ残ってそうだ」
エーテルソルジャーは、内側に高級素材『魔力塊』を備えている。
ただし、魔力の鎧に覆われていて扱いが難しい。
すると、次々にコメントが指摘する。
《え、何してんの?》
《おい早く燃やせ!》
《下手に触ると高級素材が消えるぞ!》
《魔力の鎧も毒だし!》
魔力塊はかなり特殊で、一歩間違えると消失する。
そのため体を燃やして、残った塵から“偶発的に”取得できる。
昔の異世界の認識と同じだな。
「えと、この魔力回路は大丈夫で……ん、取れました!」
《うっそお!》
《自力で取ったんか!?》
《そんな方法あんの!?》
《これ世間がひっくり返るって!》
だけど、俺が召喚された異世界の時代では、すでに取り方が確立されていた。
かなり苦労したが、俺も取り方を学んだ。
現代で言えば、ふぐの処理みたいものかな。
「あはは、良かったら後で解説動画でも上げますよ」
そういえば、俺の『スライムの核』の取り方も話題になってたらしい。
現代では、貴重素材の取り方はあまり確立されていないのかも。
これは異世界との環境の差だろうな。
現代でも何十年前に魔物が出現したとはいえ、遭遇するにはダンジョンに潜らなければならない。
この時代とはいえ、わざわざ探索者になるのは一部だ。
対して、異世界では魔物と隣り合わせの生活をしていた。
女子供が武器を持って戦う世界のため、色々とやり方が進んでいたんだ。
となると、俺の知識はかなり先行している可能性がある。
「ま、まあ? これぐらい余裕っすけどね……ふふっ」
《照れてんじゃねえかw》
《案外素直やん》
《やっぱガキだな》
《笑い漏れてるぞ》
《主様かわいい》
それから、コメントを見て気づく。
《ていうか早く戻らないと!》
《魔力塊が劣化するぞ!》
《入口まで間に合うか?》
「あ、そうでした」
魔力塊は劣化がとてつもなく早い。
取り出してから数分ともたずに、価値がどんどん下がっていく。
この色々と面倒な要素を以て、高級素材とされている。
でも、こちらも問題ない。
「ココネー」
「はい主様──【瞬間冷凍】」
「サンキュ」
ココネの吐息により、魔力塊を冷凍保存した。
これで劣化することはない。
《はあ!?》
《これでもう劣化しねえの!?》
《すっごwww》
《便利で草》
《サラっと革命起きててワロタ》
《抜け目ねえw》
そんな一連の流れに、徐々に要望のコメントが散見される。
《他の高級素材とかも取り方知ってるのか?》
「まあ、一応それなりに知ってると思います」
《教えてくれ!》
《なあお願いだよ;;》
《バカ無理だって》
《他にも知ってるなら情報だけでお金持ちだぞ》
《配信で教えてくれるわけねえだろ》
たくさん教えてほしい人がいるみたいだ。
確かに貴重な情報なのかもしれない。
でも、この時の俺は完全に思い上がっていた。
「しょうがないなあ。特別ですよ? これからたまに配信で出していきますね」
《はああああ!?》
《教えてくれるのかよ!》
《まじかよ無償で!?》
《超有料級だぞ!?》
《探索者界隈ざわついてるって!》
《情報屋逝ったあああああ!ww》
《これで金儲けしてる奴らもいるからな!》
《ざまあねえぜ!!》
《これは歴史が変わるぞ!》
《さすがにチャンネル登録しました》
《次回も絶対見に来るぞ!》
「むふっ」
次も見に来てくれる。
そんなコメントがあふれ、思わず笑みがこぼれた。
──そんな時、辺りが急に激しく揺れ始める。
「おわっ!?」
「主様、お手を!」
「こ、これは……!?」
大きな地震だ。
というより、ダンジョンそのものが動いているような感じ。
俺が知らない現象に、コメントは加速した。
《ダンジョンシフトか!》
《区画が変動するやつ!》
《違う階層につながるぞ!》
《まじかよ滅多に起きねえのに!》
「ダ、ダンジョンシフトぉ!?」
何それ知らない。
でも、区画が変動すると聞いて納得した。
ここら一帯が、おそらくが下へと進んでいる。
そして──。
「グオオオオオオオッ!」
「こいつは……!」
やがてガチャンと一帯が固定され、巨大なクマの魔物と相まみえる。
おそらく下層に辿り着いたんだ。
ですが、不憫でなりません。
「主様。新しいネタですね」
「うふふっ。どう調理してやろうかしら」
「グ、グオッ!?泣」
従魔二人の“圧”に、クマの魔物は涙目になっていた。
クマさん「なんでえ!?泣」




