第7話 初手謝罪配信
「では配信を始めたいと思います」
ダンジョン配信者になる決意をして、翌日。
俺は早速配信を開始した。
訪れたのは、昨日と同じ青玉ダンジョンだ。
各所で大きな話題を集めているらしく、すでに多くのコメントが流れる。
《こんにちは》
《きたあああああ!》
《さすがに見に来たわ》
《これが噂の魔王君か……》
《見た目は普通のガキなのな》
「今回はタイトルにもある通り──」
従魔二人が暴走して、ネット上では魔王とまで言われているらしい。
対して、俺はまず頭を下げた。
「世間をお騒がせしている件について」
《なんだ!?》
《いきなり謝ったぞw》
《初手謝罪配信は新しいwww》
《よく見たら怖くないかも》
《バカ騙されるな》
《見た目は普通な人が一番怖いパターンだぞ》
《そうは言っても何するんだ?》
一晩を経て、チャンネル登録者は15万人に達した。
現在の同接(同時接続数)も、すでに5万人。
昨日作ったアカウントにしては脅威の数字だ。
コメントの勢いにびっくりしながらも、最後のコメントに答えるように続けた。
「きょ、今日はですね、弁明をしにきました!」
《弁明?》
《今更なにを……》
「まずは俺、良い人なんです! 世界を滅ぼしたりしませんよー、ほら!」
両手を広げて、笑みを浮かべる。
でも、上手く笑えてる気はしない。
敵じゃないアピールのつもりだけど、効果は無し。
《魔王なのに?》
《良い人は自分で言わないんだよなあ》
「ぐっ……あ、そうだ。あの二人を見てもらえたら分かると思います!」
すると、俺は後方の従魔達へ手を向けた。
この流れのきっかけは、従魔の二人が暴走したこと。
家できつーく言っておいたので、一緒に弁明してくれるはずだ。
「ほら、あそこに──え?」
しかし、そこには地獄絵図が広がっていた。
「主様! 魔物で主様の像を作りました!」
「は?」
「こんなに美しく仕上がって──あ、腕が折れた」
「……!?」
ココネは俺の巨大な氷像を作っていた。
素材は、凍り付かせたその辺の魔物達。
魔物を引きちぎり、他の部位とつなぎ合わせて作られている。
はじめから敵としては眼中になく、ただパズルのピースに使えるかどうかのみで無差別に討伐されていた。
《ココネちゃん!?》
《あれ全部魔物か!?》
《凍らせてパズルにしてんのか……》
《こっわwww》
《サイコパスで草》
《あれ全部C級クラスの魔物じゃ……?》
《素材としか思われてないww》
《どんだけ強えんだよ》
《恐怖映像じゃねえか!》
「ココネ、弁明配信って言ったよな……?」
「はい! ですから、この機会に主様を一緒に讃えてもらおうと!」
「みんな怖がってんだよー!」
俺は途端に頭を抱える。
確かにココネはちょっとズレているところがある。
ならばと、頼りになるお姉さんに視線を移した。
「こんな時ルーゼリアなら──」
「よく燃えるわあ、この魔物達。うふふふふっ」
「あ、あぁ……」
だが、そこにも惨状があった。
「あ、カナタ君、火が点いたよ。こっちで暖を取ろ~」
「いや大火事ですやん……」
ぼおおおおおと燃え上がる一帯。
燃料は現地調達の魔物達だ。
「ほら早く早く~。ふーっ」
「「「ギャアアアアアア!!」」」
「…………」
ルーゼリアが息を吹きかけると、炎は激しさを増す。
彼女の美しい容姿とは裏腹に、衝撃映像となっていた。
高性能なカメラはすでにモザイクをかけている。
《だから怖えってwwww》
《やっぱ恐怖映像で草》
《モザイク貫通してるよww》
《なんなんだよこのサイコ集団》
《人と感覚がズレてんのかな》
《ふーじゃねえのよww》
《ちょっと面白くなってきたかも》
「あーもー!」
配信の準備中に、二人は行動を起こしていたようだ。
俺は好き勝手する二人を手拍子で呼びかける。
「ちょっと二人、集合!」
「はいっ」
「はーい」
「……なんで隣。近いし」
タッタッと寄ってきた二人は、両サイドから俺を挟んだ。
むぎゅりと聞こえそうな程に感触は柔らかい。
《なんか距離近くね?》
《ココネちゃんかわいい》
《ちょこんとしてる》
《お姉さんの胸でっっっ》
《ルーゼリアさんえっど》
《両手に花》
《ちょっと羨ましい》
《なんだこの美女二人は!》
《良い匂いしそう》
《でも恐ろしいんだよなあ……》
人間離れした二人の圧倒的ビジュアルに、コメントが加速する。
でも、完全に恐怖は拭い切れていない。
俺は弁明するべく問いかけた。
「なんでそんなことしたの! はい、ココネさん!」
「主様の素晴らしさを全世界に伝えようと……」
「伝わってない! 恐怖映像だからあれ!」
「ごめんなさい」
《先生かよww》
《しゅんとしちゃった》
《かわいい》
《主様の為だもんね》
《かわいいから許した》
《いや、やってることおかしいからな?w》
《お前ら冷静になれw》
ココネの可愛さも相まり、コメントは鎮火。
良い調子だ、と俺は続ける。
「では次、ルーゼリアさん!」
「カナタ君、緊張してたから。火を見ると落ち着くかなって」
「あー確かに緊張ぶっ飛んだわ。衝撃的すぎてな」
《そりゃそうw》
《意外と役に立ってて草》
《漫才してんじゃねえよw》
《お姉さんも大概なんだよなあ》
《カナタ君を想うばかりに》
《いちいち激しいけどな》
《ちょっとおもろい》
《なんか怖くない?》
「お、おお?」
話をする内に、段々と視聴者の恐怖が薄れてきたようだ。
ぶっ飛んではいるが、悪意は見られないからだろう。
だけど、結局一番気になるポイントはこれだ。
《二人って何者なんですか?》
俺はちらりと二人を覗き見る。
三人でうなずき合い、話すことを決心した。
「俺の従魔です」
《えええ!?》
《カナタ君に従ってるってこと!?》
《うっそだろwww》
《だからこんなに慕ってるのか》
《やっぱ魔王じゃん》
《この二人の主はやばいな》
《てことは一番強いのか……》
驚きの事実だったのか、コメントに動揺が広がる。
また、すぐに妄想を始める者も。
《じゃあ、まさか……》
《あんなことやこんなことも!?》
《エッチな命令もできちゃうんですか!?》
それは慌てて否定する。
「そ、そんなことしませんよ!」
「えーしてもいいんだよ?」
「ルーゼリアは黙ってて」
「やん」
《くそっ》
《なんなんだこいつ》
《羨ましいぜ》
《ずっる》
そうなれば、まだ質問は出てくる。
《二人とはどこで出会ったんですか?》
「それは、その……どっかです」
しかし、これには口を濁した。
三人で話した結果、異世界のことは明かさない方が良いと結論に至った。
荒唐無稽な話の上、余計な議論を起こさないためだ。
《はい黒幕決定》
《やはり魔王か》
《異世界とかだったりしてな》
《それは無いだろうけど怪しいな》
「うぐっ……」
若干の魔王コメントが見られるも、配信開始前ほどの勢いはなかった。
もしかしたら、敵意がないのが伝わったのかな。
好意的なコメントが増えてきたのが、何よりの証拠だ。
《けど、こいつら面白いわ》
《ああ滅茶苦茶すぎてな》
《ここまでぶっ飛んでるのは見た事ない》
《高評価押しました!》
《ココネちゃんのグッズはまだですか?》
《お姉さんに燃やされたいです》
《カナタ君怖くなくてよかった》
「え、え! 本当ですか!」
《嬉しそうw》
《かわいい》
《弁明できて良かったね》
さらに、チラリと同接に目を向けた。
そこには驚愕の数字が。
「うわあ、同接10万人!?」
《すげえ!》
《配信二回目でかよ!》
《おめでとう!》
《前回の何万倍だ!?》
《0だったらしいから計算できねえw》
《とにかくおめ!》
「あ、ありがとうございます! 嬉しいなあ……!」
小学生並の感想しか言えないけど、それが素直な気持ちだ。
なんだかんだで二人のおかげだな。
俺は従魔二人に振り返る。
「ありがとうな」
「あ、主様……!」
「カナタ君……!」
「──って、おい!?」
──ドガアアアアアアアアアア!
俺が感謝した瞬間、周囲に爆音が響き渡る。
氷の世界と、炎の海が一気に広がったんだ。
感情を抑えきれず爆発したらしい。
《……!?》
《わあっ!?》
《びっくりしたあww》
《こいつらやっぱ危険人物で草》
《心臓に悪いってwww》
《どんだけ嬉しかったんだよww》
《感情激しくてかわいい》
《照れててかわいい》
「は、はは……」
他人がいたら危なかったな。
ここは現代だから気を付けた方が良いかもしれない。
そんな事を思いつつ、俺は前方に目を向けた。
「では、そろそろ進んでいきますか」
《お》
《まさか!》
《弁明だけかと思いきや!》
「はい。せっかくダンジョンに来たので、探索していこうと思います」
《やったあああ!》
《きたああああ!》
《ココネちゃんもっと見れる^^》
《お姉さんこっち向いてー!》
《普通に探索者として楽しみ》
《苦戦する未来が見えねえw》
長くなったオープングを終え、前に向き直る。
弁明がうまくいけば、攻略に移ろうと考えていた。
そのためにダンジョンで始めたんだ。
「じゃあ行こう!」
「はい主様!」
「うんカナタ君っ♡」
「……探索しにくいから離れてね」
そうして、俺たちは奥へと進んで行く。
この後、伝説が生まれるとは知らず──。




