第45話 それぞれの配信にて
「皆様こんばんは。ココネです」
ココネはぺこりと頭を下げると、浮遊するカメラに向き直る。
配信開始直後だが、プレビュー画面にはすでに多くのコメントが流れていた。
《うおおおきたあああ!!》
《ココネたーん!》
《今日もココネちゃんのソロ配信嬉しい!》
《毎日ありがたすぎる》
ココネが配信しているのは、自身の個人チャンネル。
数日前に突如開設され、巷では大きく話題になっている。
そして連日配信を行っており、注目を集めていた。
「また主様がいなくて寂しいですが頑張ります」
《かわいい》
《ココネたん応援してます!》
《がんばれ~!!》
《久遠カナタ:見てるぞー!》
《↑主様いるじゃねえかww》
《お前は配信しろwww》
《ちゃんと本名でネットやっててウケるw》
ココネのソロ配信はカナタ本人も見守っている。
そんなカナタはというと──。
「ココネの配信も始まったな」
とある場所にて、カナタはココネの配信を確認した。
すると、ココネがソロ配信に至る経緯を思い出す。
「これが一番効率が良いはず」
先日、カナタは師匠ヴァレリアの推測を聞いた。
そこで魔王の魂の在りかを見つけるべく、手分けして捜索することにしたのだ。
ココネがカナタと別れて配信をしているのは、そのためである。
従魔は一人でもダンジョンを攻略できるので、それぞれ配信で情報を集めながら探索するというわけだ。
「……まあ、趣味も混じってるだろうけど」
そう言いながら、カナタは別の配信を覗く。
開いたのはルーゼリアの個人チャンネル『お姉さんのお優雅なお料理ちゃんねる』だ。
ココネと同じく、ルーゼリアも連日別れてソロ配信をしていた。
『3分クッキングというのがあるらしいわね。お姉さんもやってみようかしら』
ダンジョンに潜っているルーゼリアは、呑気にコメントと会話をしている。
チャンネル名にふさわしく料理を始めるらしい。
だが、目の前にはすでに魔物が迫っている。
『ギャオオッ!』
『ではまずは、このクマを瞬殺します』
『ギャウンッ!』
ルーゼリアが指を鳴らすと、クマの魔物は燃えた。
『下ごしらえは済んだわね。あと2分59秒残るので鍋にブチ込みます♡』
《瞬殺したのBランク魔物ですけど!?》
《倒すとこからカウントするのかよw》
《まずはじゃねえんだよなあ》
《何も参考にならなくて草》
《お優雅とは》
《またしても不憫なクマさん》
《ぶっちゃけ美味そう》
ルーゼリアは相変わらずのようだ。
軽く様子を確認したカナタは、そっと配信を閉じた。
「よし、変わらないな」
ルーゼリアが個人配信は、連日話題になっている。
いつも通りの破天荒ぶりに、もはや安心感すら覚えた。
それでも、捜索はしっかり行ってくれることだろう。
従魔達の配信を確認して、カナタは自分のカメラを起動する。
「じゃあ配信開始するよ、師匠」
「ああ」
師匠のヴァレリアはカナタに帯同していた。
彼女は日々成長を促進してもらい、大学生ほどの見た目になっている。
だが、完全に力を取り戻してはいないので、一人にさせるのは不安だったようだ。
カナタはいつもの挨拶から配信を開始した。
「どうも、世間をお騒がせしてすみません。魔王です」
《こんばんはー!》
《魔王様もきたあ!》
《やばいどこの配信見ればいいんだ!?》
《さすがに五窓するわ》
《こっちには師匠もいる!》
《ヴァレリアさんまた大きくなりましたね》
雑談の種として、カナタは最後のコメントに反応する。
「ですよねー。師匠には、この前まであーんして食べさせてあげてたのに──ごはっ!」
「言うなと忠告しただろう!」
「うぐっ、つい……」
顔を真っ赤にしたヴァレリアは、カナタにげんこつを浴びせた。
いつもの師弟のやり取りに、配信は早速盛り上がる。
《お師匠かわいいw》
《師匠にあーんだって!?》
《相変わらずズルいことしてやがる!》
《てかまじで成長早いな》
《成長促進ってよく考えたらすげえわw》
ヴァレリアの成長具合も、カナタの配信の見どころになっているようだ。
彼女自身は恥ずかしがっているだが。
「くっ、なんたる屈辱……!」
そんなヴァレリアは、従魔達と同等の人気を獲得している。
配信事務所『魔王軍』によるグッズ化はもうすぐかもしれない。
と、簡単なやり取りを終え、カナタは早速配信を進める。
「今日来たのはA級『青水晶ダンジョン』です」
A級と言うだけあり、都内でも屈指の難易度を誇るダンジョンだ。
ここを二人だけで探索するというだけで、カナタとヴァレリアの規格外さが理解できる。
しかし、さらに驚くべき事があった。
《こいつらもA級ダンジョンかよww》
《従魔達もそれぐらいの所行ってない!?》
《まじでどうなってんだww》
《A級で遊ぶな笑》
《都内のダンジョンが蹂躙されていく……》
現在違うダンジョンを探索する従魔達も、同等の難易度のダンジョンに潜っていたのだ。
それぞれがソロ配信を始めた時はC級程度から始まったが、しらみ潰しに探索していると、ついにA級まで辿り着いてしまった。
聞いた事のない事態に視聴者はざわつく。
否、視聴者だけでなく、全探索者が口をあんぐりさせていることだろう。
しかし、逆に言えば、カナタ達もそれほど急いでいるのだ。
(魔人に先を越されるわけにはいかない……!)
魔人側が先に魔王の魂を見つければ、そのまま復活されてしまう。
現代に魔王が蘇った時の事など想像もしたくない。
これをなんとしても防ぐべく、カナタ達は動いていた。
だからこそ、存分に力を振るう。
「じゃ、行くよ師匠」
「ああ」
カナタはスキル【超感覚】を発揮させ、ダンジョンの大まかな構造を掴む。
そのまま剣を掲げると、下に向けて【空間断絶】を数回放った。
「ショートカットだ!」
カナタの複数の斬撃によって床は崩れ、一点に収束するようになだれ込む。
あらかじめ探索協会会長に相談していたため、他の探索者はいない。
堂々とダンジョンを荒らすと、カナタとヴァレリアは雪崩に身を投じた。
「よっ!」
「ほっ!」
今なお雪崩は起きているが、カナタは周囲に【反射領域】を展開。
領域が勝手に瓦礫を弾いてくれるので、巻き込まれる心配は無い。
反射する空間をまといながら、二人はスイーとダンジョンを降りていく。
『七つの能力』の内三つを使い、巨大なすべり台の完成というわけだ。
「とりあえず下層まで行こっか」
「そうだな」
《なんなんだよこれw》
《攻略RTAで草》
《改めてチート能力すぎ》
《たまに魔物の悲鳴聞こえてくるw》
《魔物さんは巻き込まれてるのか……》
《魔王の所業すぎるwww》
そうして、カナタとヴァレリアは下層まで進んでいく。
「特に気配は感じないな」
下層まで辿り着いたカナタは、そのままダンジョンを進行していた。
時々魔物を倒しつつ歩いているが、目的の物は見つからない。
(そろそろ何か収穫があると良いんだけど……)
カナタ達が手分けするようになってから、それなりに日が経つ。
魔人の動きは無いようだが、こちら側の成果が欲しい頃だ。
すると、後方のヴァレリアが口を開いた。
「カナタ! エルヴィから通信だ!」
「本当か!」
反応したカナタは、すぐにスマホを受け取った。
「エルヴィ、どうした!」
『見つかったよー、優先事項第二位が』
「……!」
手分けして捜索する中で、カナタ達にはいくつか目的がある。
もちろん優先事項の第一位は、“魔王の魂”。
そして、第二位は元々の行動指針にしていたものだ。
『ちょい余裕がないから切るね。けど、カナタ様のために回収してみせるから』
「エルヴィ──!」
通信が切れ、カナタはすぐにエルヴィの配信を確認する。
そこでは、エルヴィがある魔物と向き合っている。
『あははっ、キミはどれを持っているのかな?』
『クルゥ……』
優先事項第二位とは、カナタの『七つの能力』を宿す魔物だ。
カナタの魂の気配を感じられるエルヴィならば、間違いない。
すると、ヴァレリアがカナタへ尋ねる。
「どうする。一度引き返して、エルヴィのダンジョンに向かうか?」
「でも、それじゃ……」
エルヴィが潜っているダンジョンは割と近くに存在する。
だが、一度地上を介すると、時間がかかるのは明白だった。
そう思考を巡らせていると、カナタは突然ハッとする。
「──って、これは!」
そのまま目を見開き、奥へ視線を向けた。
自身に宿る【超感覚】に導かれるように、カナタは直感したのだ。
「師匠、先に進もう」
「いいのか!?」
「大丈夫」
現代ダンジョンにおける新たな概念を──。




