第44話 推測と次の行動
「師匠。はい、あーん」
カナタはご飯をすくったスプーンを差し出す。
師匠のヴァレリアに向かって。
だが、ヴァレリアは顔を真っ赤にして拒否する。
「子どもじゃなーいっ!」
「すみません、つい」
「まったく……」
異世界の魔王軍四天王マウロを倒し、数日後。
ミカの奥義【大地の息吹】により、ヴァレリアは死の運命を免れた。
だが、この世界ではミカの魔力が足りず、少女の姿で止まっている。
ミカが魔力を足すことで、毎日少しずつ成長はしているが。
「はいヴァレリアちゃん。成長の時間ですよー」
「うんママ! ──って、だから違ーう!」
ミカに魔力を流してもらい、ヴァレリアはまた少し年齢を加速させる。
今回の成長で高校生ぐらいにはなった。
いつもの和気あいあいとした空間だが、ふとヴァレリアが口を開く。
「カナタ、みんな。話がある」
「ん?」
「体が成長しているからか、昨日から記憶が戻り始めてな。報告しなければならないことがあるんだ」
ヴァレリアは真剣な面持ちで続けた。
これからの行動に関わる重大な話を。
「ワタシは、魂が眠っている墓を掘り起こされて死者蘇生された。ワタシの魂に、復活できるほどの生贄を捧げることでな」
「そんなことが……」
「その上で、死霊術師のマウロに操られていたのだ。カナタ達が戦った魔人も、同様の方法で復活したのだろう」
ヴァレリア復活の真実、そして今までの相手についても明らかになる。
すると、カナタには自然に疑問が浮かぶ。
「それじゃ、他の四天王二人も復活しているのか?」
「だろうな」
「待てよ! じゃあまさか魔王も……!」
カナタの顔が強張るが、ヴァレリアは首を横に振る。
「いや、おそらくそれはない」
「え?」
「奴ら四天王が復活したのに、どうしてこちらの世界に来ているか分かるか?」
「た、たしかに不思議だ……」
カナタには敗れたが、四天王は強い。
あの強さがあるなら、普通にあちらの世界を征服すればいいのだ。
しかし、彼らはそうしていない。
「それほどの理由がこちらの世界にはあるんだ。向こうの世界を征服するよりも、優先すべき事項がな」
「そ、それって?」
「これはワタシの推測に過ぎないが──」
ヴァレリアは取り戻した記憶も辿りながら、言葉にする。
「こちらの世界に“魔王の魂”が迷い込んでいる」
「……!」
基本は本能で動く魔族だが、魔王への忠誠は本物だった。
こちらの世界へ来るにはリスクもあるが、それが王のためであれば納得できる。
「死者は、元の魂に生贄を捧げて復活させている。だが、そもそも元の魂が無ければ話は始まらない」
「じゃあ奴らは、この現代で魔王の魂を探しているのか」
「そうなる」
ヴァレリアは操られる直前、異世界魔王軍の様子を確認していた。
それからはマウロに記憶を阻害されていたが、今は呪縛から解放されている。
その時の状況や会話から、この推測にたどり着いたのだ。
「魔王の魂か……」
カナタを含め、みんなが考え込む。
一度倒した相手とはいえ、魔王の脅威は理解している。
あの最後の死闘が頭を過ったのだろう。
だが、ココネがふと口を開いた。
「ということは、復活自体はしていないのですね」
「……! そうか!」
「はい。では主様、ココネ達のやるべきことは決まりました」
考えが共有できたのか、ルーゼリアが言葉にする。
「お姉さん達が先に魔王の魂を見つけて、破壊すればいいのね」
「うっひょー、テンション上がってきたね!」
「ふふっ、可愛がってあげようかしら」
それにはエルヴィとミカも乗っかった。
さらに、ヴァレリアが推測を付け加える。
「しかも、聞けば魔人はこのニホンにしか出現していないのだろう?」
「そうだ、ということは!」
話をまとめ、カナタは推測を結論付けた。
「魔王の魂はここ──日本のダンジョンのどこかにある」
★
異世界、とある暗い場所。
「我らが魔王の魂は見つかったか」
大きな椅子に腰かけた者が、口を開いた。
この男は魔王軍の参謀。
かつてカナタに倒されたが、ヴァレリアや四天王と同じ方法で復活を果たしていた。
参謀にたずねられた部下は、頭を下げながら答える。
「申し訳ございません。まだ確定には至っておらず……」
「遅い、何をしている!」
「しかし、かなり割り出すことには成功しています」
部下の背後では、煮えた大鍋に魔族が次々に投入されている。
ここで得た莫大なエネルギーを使い、魔族はカナタ達の世界へ魔人を送ったりしているのだ。
すると、部下は続けて言葉にした。
「それから、気になる情報が一つ」
「なんだ。私は忙し──」
「あの勇者カナタらしき人物が、向こうの世界で確認されました」
「なんだと!?」
カナタが処刑された事は、参謀の耳にも届いている。
人間は愚かだと思ったが、魔族にすればラッキーだ。
そうなれば、今までの事態にも予想が付く。
「では、送り込んだ四天王のガルドル様、マウロ様が帰還されないのは!」
「はい。おそらく勇者カナタに倒されたものかと」
「あの憎き勇者め!」
怒りを抑えられない参謀だが、部下はある物を差し出す。
「そして、魔族の一名が命からがら取得したものがこちらです。向こうの世界では、スマホだとか、なんだとか……」
「さっさと見せんか!」
ロックが解除されたスマホだ。
参謀は乱暴にそれを奪い取ると、部下が開いていた画面を触る。
そこにはオフライン保存した、カナタの配信の切り抜きが映った。
『こんにちは、世間をお騒がせしてすみません』
『えー、焼肉屋さんは出禁になりました』
『お前ら何やってんだー!? あーもうめちゃくちゃだよ』
「「…………」」
勝手に流れていく映像を見ながら、二人は黙りこくる。
出てくるのは、カナタとその仲間達。
どれも見たことある連中だが、やはり最大の敵であるカナタに着目する。
だが、そこには彼の見たこともない姿が映っていた。
やがて、参謀は声を上げる。
「貴様ふざけているのか! こんな腑抜けたアホみたいな奴が、勇者カナタなわけないだろう!」
「ですが、顔は一致します。従魔もいますし……」
「あの恐ろしき男が、こんな平和ボケした顔をするものか! ……ハァ、ハァ」
参謀は興奮のあまり呼吸を荒くさせる。
魔族からすれば、同胞を壊滅させられた脅威だ。
こう思うのも仕方がない。
しかし、事前に映像を全て確認した部下は、さらに情報を追加する。
「しかも、あちらでは『魔王軍』を名乗っているんだとか」
「はあ!? ますます意味不明だ! では“そっくりさん”だ! よく見たら顔も思ってたのと違ったし!」
「そんな、フラれた思春期男子みたいな事言われましても……」
参謀の混乱には、部下も若干呆れる。
それほど、現代で賑やかに過ごす姿が信じられないのだろう。
ちなみに、カナタは世界を超えてくしゃみをしていた。
「へぷしっ! ……誰か噂してる?」
と、そんな事は知る由もないが、参謀はマントを翻す。
その心には、魔王に忠誠を誓った想いを秘めている。
カナタらしき人物もいるとなれば、ますます“計画”を急ぐ必要があるのだろう。
「まあよい! 引き続き、魔王様の魂の在りかを割り出せ!」
「はっ」
カナタ達の推測は的中していた。
異世界魔王軍の目的は、魔王復活のため魂を捜索すること。
そのために現代へ魔人を送り込んでいたのだ。
「現在掴んでいる情報は!」
「ニホンのトウキョーと呼ばれる場所にあらせられるかと」
「わかった」
判明している情報は、カナタ達と大して変わらない。
ここからは行動の速さが鍵を握るだろう。
加えて、まだ魔族側にも希望はあった。
「近い将来、再び勇者の軍団と戦うかもしれんが……」
「はい。かつてほどの力はないかと」
映像から、カナタが勇者時代ほどの力は持っていないことは分かった。
なぜか『七つの能力』は欠けているのだ。
参謀はそこに勝機を見出し、計画を進める。
「私は戦力を集める。情報が分かり次第、逐一報告せよ!」
「はっ!
そうして、参謀はスマホをポケットにしまう。
「このスマホとやらは私が預かる。彼らの情報、特に従魔のミカは確認しておかなければならないからな!」
「……はっ」
小さめの返事をしながら、部下はふと思い至る。
(そういえば、参謀が死に際に食らったのは【バブみの波動】だったな……)
それに関係するかは分からないが、参謀は早速“歩きスマホ”をしながら部屋に帰っていった。
カナタ達『現代魔王軍』と『異世界魔王軍』の決戦は、着実に近づいている──。




