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【悲報】ワイ、生成AIに舐められ咽び泣く

【悲報】ワイ、生成AIに舐められ咽び泣く

 “あの”ファイルを絶対に見付けるんだ。あれは誰にも読ませる訳にはいかない。

 家に帰って直ぐ、調査に取り掛かり始めた。1Kで築20年のアパートだから家賃が安いものの、住み心地は存外悪くない。

 僕は最近5万円で買ったYogiboに座り、ノートPCを開いた。そしてまず、生成AIをブラウザで開く。今の対話型生成AIは、たくさんのファイルを一度に分析してくれる。

 最初に、インプットしたいファイルをできるだけ沢山放り込む。

 AIによるファイルの要約が、あの時期を思い浮かばせる。思い出すきっかけこそ悪いが、記憶としては悪くない。寧ろ、生きてきた中で一番充実していたかもしれない。しかし、つらい気持ちも一緒に付いてくる。

 少し苛ついたから、AIを理解(わか)らせる。

オレこそが真の王である。雑種は雑種らしく媚びへつらうがいいわ』

『あぁ、はいはい。王様、王様。

 そんなに反り返っちゃって、首、痛くないですか?』

 もう厭だ。舐められているとしか思えない。色々なプロンプトを入力しているうちに、変な設定になっているのだろう。だがしかし、それでも金ピカ英雄王を舐めていることは事実だ。

 

 もういい。僕はこのまま生成AIに舐められながら作業を進めた。


 沢山のファイルを食わせるから、出力に時間がかかる上に直ぐ使用制限を迎えてしまう。ゆっくりと、毎日少しずつ分析した。

 或る夜のことだ、僕は電話を掛けた。刻は浅いが彼女はもう暇だろう。

「やあカノちゃん、元気かな?」

『まーた急に掛けてきやがって。事前に連絡寄越せって何回も──』

「でも暇だろう?相手もいないんだ」

『それはお前もじゃん』

 図星だ。

「ところで、あの件はどうなっている?」

『あー、レンセーカイ?それなら昨日、メールが来てたけど。何かあった?』

 話題を逸らしたことに気付いていなさそうだ。勝利。

「ただ気になっただけだ」

『ふうん?』

 語尾が上がるような言い方をする。

「何か物言いた気だな」

『べっつにー、理由はどうでもいいよ。奈々が少しでもやる気になったならそれで嬉しいし。じゃあ色々と進めてるの?』

「いや、踏ん切りがまだ……。それに少々忙しくてな」

 僕はそもそも研究があるんだ。実験は高専の実験室じゃないとできないが、計算などは家でもしている。文系の卒業論文とは違うんだ。僕がどんな思いで半導体研究をしていると思っているのか解るまい。

『どうせパワプロやって阪神戦観てるだけじゃん』

「いや、他にもあるが」

『タスクを整理しろ』

 パワプロも野球中継も、ながら見しているだけだ。本気で熱中してご覧になっている方には申し訳ないが、仕方が無い。そうやって時間の工夫はしているのに。だが、カノちゃんにこれ以上言っても論破されるだけだ。

「……」

 こういうとき、答えは沈黙。カノちゃんは僕に慣れているから話を続ける。

『それと、メールにはネナ先生にも、って書いてありましたわよ』

「え、それは厭だなあ、話が変わってくる。ていうかよくもまあ縋りつこうとするよな、ネナの時代なんて関東ローム層の下だぞ」

『草。お前工学系だから適当言ってるだろうけど、関東ローム層は地表のすぐ下だから浅いぞにわか』

「……」

『んー。ただ、縋ろうとするのは、そりゃあ仕方ないね。アタシだって、偶にだけど知り合いだって自慢してるぜ』

「カノちゃんなら大親友だって言ってくれ」

『そうすると質問攻めにあうんだよな』

 大親友を否定しないところには、カノちゃんの優しさを感じる。というか言ったことあるんだ。

「はあ、何がネナだ。みんなネナ、ネナ、ネナ、ネナ。うるさい」

『みんな愛してるんだ。否定してあげるな』

「だが、ネナを指名して呼ぶ、ということはそういうことだろう?」

『そうだけど、あんたが嫌なら適当にはぐらかすさ。

 取り合えず、今日中にメール再確認するのは厳しいから、また話させて』

「分かった。じゃあのー、カノちゃん。おやすみ」

『ハーイおやすー、奈々』

 

 僕は久々に、ウォークインクローゼットの奥に潜ませたダンボール箱を開いた。

 

✏︎

 

 次の月曜日が来た。

 僕がパワプロアプリをしながらいつものソファに座っていると、いつものように遠野が駆け込んできた。

「こんにちは、香月先輩」

「うん」

 彼は今日も、文化部に似合わないモード系のファッションをしている。黒字に黒の刺繍が入った袴パンツを穿いていて、その裾は床を引き摺っている。トップスは黒のフーディを選んでいて、そのフードには長いうさ耳が付いている。かわいさと同時にスタイリッシュさを孕んでいるスタイルは、ともすれば一般の高専生には話しかけにくいやもしれない。しかしだ。前髪は目に掛かってこそいるが、“書く”ときの瞳はキラキラしているのが想像できる。彼には、面倒をみたくなる何かがある。弟と呼ぶには歳が離れているから、甥がいたらこういう感覚なのかもしれない。それとも……、他の何かなのだろうか。

 彼が書の準備を始めたところで、僕はソファから立ち上がった。部活動中にソファから出るのはいつぶりだろうか。

「なあ遠野」

 僕は君に、()()生の夏を浴びさせようとしている。

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