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5.活動とかしてみた

 そして活動開始から1週間が過ぎた今日。

 相変わらず隅っこでPSPをいじるオレ、熱心にせっせとマフラーを編むしゆきちゃん、そしてお化粧直しをする舞浜センパイの図式だったが、葵の姿はなかった。

 その時、ドアがガラっとスライド。


「みんなー! 活動するわよ!!」


 と桃色の髪を振り乱して葵が入ってくる。

 その右手には『女子力特訓 (定価:1800円 税別)』と書かれた厚い本が握りしめられていた。


「ついに来ましたのね! この部の胎動する日が!」


 舞浜センパイがファンデーションの蓋をカチンと握りしめる。中が割れてないか心配だ……。


「えっ? あの……茶道部、ですよね? お茶碗や茶筅(ちゃせん)は……?」

「しゆきちゃん! 言ったでしょう? この部は茶道部にあって茶道部にあらず、その実態は茶道の前にあたし達自身の『女子力』を向上させることが、まずこの形式の第一歩なのよ!」

「な、なるほど! がんばりますっ」


 なんか時々すごく罪悪感を覚えるんだよ。僕。 

 まぁ、君達はせいぜい頑張ってくれたまえ。オレは横で狩りをしてるから――


「さ、真哉。こっち来て」

「……は? オレも混ざるの?」


「当たり前でしょ! あんたはこの部のスペシャル・アドバイザー兼雑用、兼サンドバックよ! この本に書かれてる所作を今からあたし達が練習するから、それの当たり役になってちょうだい!」


 めんっどくせぇ……。


■レッスン1


 笑顔はお上手ですか?

 笑顔は男女問わず、見た人を幸せにしてくれる魔法の表情です。モテる女性とは、基本的には『周りを幸せにできる』人なのです。

 性格も大事ですが、まず第一印象が悪いとそれだけでイメージの半分以上が悪くなってしまうのです。

 モテる女性の第一条件は、無意識に笑顔で周りを幸せな気分にしてくれる人のことを言います。

 もしあなたが笑顔が苦手なら、鏡の前で練習が必要です。

 レッツスマイル☆



 案外まともなことが書いてあって安心した。葵のセンスじゃあ『効率の良い女性の筋力向上』みたいな本を買ってきてもおかしくないからな……。


「それじゃああたしから行くわよ。真哉、後ろからあたしを呼びなさい。見返り美人に挑戦するわ」

「へいへい。そんじゃ、さっさとスタンバれ」


 たたみに立ち上がり、3歩ほど歩いて停止。背中をこちらに向ける。

 いかん。すでに笑いそう。

 よ、よし……!



「あ……あっおいちゃ~~ん?」


「はぁい♪」


 いかにもな猫なで声にて振り返る。

 その顔は……えぇと、なんと喩えればよかろうものか。なんつーか。

 無様に片方の口角だけが釣り上がり、釣り針が唇に引っかかったような顔だった。こらえようもない笑いの渦が胃からバーストした。


「ぷぐッ……ぷ、プププププププ……!! ぎゃああああっはっはっは!!!! 釣られ、つっ、釣られたクマー!! かはははははああははははははは!!」



 ボガフッ!!


 うん。殴られるの分かってたよ。でも1つだけ弁解させて欲しい。

 人間の腹筋で我慢できる顔じゃなかったんだ。


「じゃあ次、次! しゆきちゃん!」

「は~い。よぉし!」


「しゆきちゃ~~ん」


「ふぁ~い」



「「「おおおおおおおおお!!」」」


 完璧すぎる……。なんて可憐で自然で……なによりかわいい。思わず3人そろって感銘を上げてしまった。

 もはや卒業でもいいくらいだ。ていうかここにいる意味自体が申し訳なさ過ぎる。


「葵さん、しゆきちゃんに講義つけてもらった方がよくてよ?」

「そ、そういうことは姫奈さんも上手くできたら言ってくださいよ!」

「はいはい」

「いきますよ~……ひめなちゃ~ん!」


「こちらに」


「「「…………ゴクリ」」」


 な、なんだこの人のこの色っぽい目遣い。笑顔のランクが違う。


「う、うそっ!? なんでなんですかセンパイ!」


「あら、言ってなかったかしら? 親戚に有名な歌舞伎の一座がありましてね、そこで数年修行した身なのですよ」


 それでへヴィゲーマーとか廃スペックすぎるでしょう。ちなみに誤字にあらず。


「なるほど! しゆきも勉強させてもらいたいです!」

「ええ、今度教えてあげるわ」

「ぐぬぬぬ……ええいっ! 次よ次!」


 と言って葵はオレの手から本をもぎ取る。笑顔の前にそういうの直せよ……。



■レッスン2


 日ごろから相手を褒めていますか?

「あなたなら出来る」「あなたしか出来ない事」「尊敬している」

など褒められるコトで、その人は勇気と活力が沸いてきます。

 そんな褒め上手な人には、向こうからあなたに再度逢いたくなるのは当然です。逆に、注意ばかり受ける人とは会いたくもありません。

 自分がマイナスになっていく人とは関わりたくないのも男性心理です。

 モテる女はストレス解消+褒め上手という方程式を知っているのです。

 男性を変えれるのも女性だけというのも忘れないで下さい。



「褒めるどころか過去に給食のデザートを巡って筋肉バスターみたいなのを食らったことあるんです。この室内にいる人に」

「アンタはいちいちキツツキみたいにうっさいわねぇ! 男なら過去の出来事なんてポイッターズ・ポイントしなさいよ!」


 なんでそんな懐ゲー知ってんだこいつ!? キャラが把握できねぇ……。


「じゃあみんなで真哉センパイのいいところを褒めてみましょ~。え~と、真哉センパイはぁ……優しくて、面倒見がよくて、でもでも男らしいところがあって――」

 と、しゆきちゃんが頬を染めながら独走する。そんな中、


「ハゲ。かす。厨。ごうつく。主体性なし。廃人ハンター」

「おいカメラ止めろ。表出ろお前、ハンティングして身包み剥いで装備してやんよ」


「そうですわねぇ……ちょっとガードがやわらかいですわ。中段は立たないし。あと、ちょっと空中ダッシュからの飛び込みが多すぎですわね。対空が安定すぎます」

「あなたの人を見る目は格ゲーのプレイスタイルですか!?」

「えっ!? あんた空中ダッシュ早漏なの!?」

「うわあああああここにも修羅がいたーーー、もうやだ帰りたいぃぃぃ」



 その後もいろいろなレッスンを重ねたが、いまひとつ効果は期待できず。

 最終的には笑顔の練習ということで、今は3人でにらめっこ合戦に興じていらっしゃる。なんだかんだで仲いい3人だなぁ。

 と、部屋の隅で例の本をパラパラめくっていくと、最後のページにはこうあった。




 最後に

 あなたは恋愛を楽しんでいますか?

 モテる女性とは、小さな恋愛から情熱的な恋愛まで常に楽しみ輝いている女性なのです。

 顔がかわいくない、太っている、若くない、 など。

 こんな事を思っていては〝モテる女〟に変身できません。

 もてる女に本当に変身したいのであれば、恋愛だけでなく仕事・プライベートなどを常に楽しむ事が大切です。常に楽しんでいる女性は、それだけで輝き〝モテる女〟に生まれ変われるのです。自ら幕を閉じるのは簡単な事なのです。

 あなたもきっと変われます。



 ――なんだ。なら、余計なことしなくてもいいじゃないか。


 思わずクスリとしてしまい、馬鹿騒ぎしている葵を見る。

 女らしくないとフラれたって、本人が思ってるほど別に気にすることじゃあないと思う。だってそれがあいつのいいところでもあるんだから。

 なんなら別にオレとでも――


「……っつぉぉぉぉお!! 気色わりぃ想像がぁぁぁ! だめだ真哉、そっちは長く険しい道やでぇ! 帰ってこいよ、帰ってこいよ~~!」




「……なに1人でつぶやいて高速腕立てしてるんだろ、あいつ」

「さぁ。でも、ここだけの話……城之崎くん、いい人ですわよね」

「え、ええっ! もしかして舞浜センパイ、真哉センパイのこと……」

「え? そ、そんなわけないですわっ。彼はわたくしの弟子なわけで……。葵さん! あなたこそどうですの!?」

「あたし? 別にあたしだって……!」

「でも、どうでもいい相手とあんなにいがみ合ったりしませんわよ?」


「そんなんじゃないわよ。あいつは今も昔も変わらない――あたしのケンカ友達なんで」

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