3.野々宮しゆきという天使について
数日後の放課後。その日も葵は手鏡を見て髪を直しながら、茶道部 (仮)のドアが叩かれるのを待っていた。
一方のオレはその畳の奥の方で金レイアとデュエル中である。
「で、なんで茶道部復帰から3日立つのに誰も入らないの? 広報担当、宣伝がおろそかなんじゃないの?」
「広報担当って誰スか。お前のその隣に座ってるS子さん?」
「えっ、うそっ、なんか座ってるの!?」
びくりと肩を震わせ、たたみを駆け上がってオレの腕をつかみ、自分がいたところを見やる。
なにこれ。しかし金レイアつえーな。
と、その時だった。
「……しつれいしまぁす」
ガララ。不動かと思われた茶道部のドアが横に滑った。
そこには、
「……あれ? 野々宮しゆきちゃん、だよな?」
黒髪を耳のあたりで切りそろえて、黒縁のメガネをかけた童顔の少女。ほっぺはチークを塗ってもないのにふっくら赤く、身長は葵より一回り小さい。
オレの家の近所に住むひとつ下の女の子だ。この学校に入っていたのは知らなんだ。
と、そのわずかに赤かったほっぺが次の瞬間ボルカニックした。
「し、しつれいしましたぁ」
ぷしゅー、と顔からスチームがふき出し、そして失礼していった。おごそかに、ピシャリとドアが閉まる。
「なんで帰っちゃったのかしら」
「? さぁ? ――って、おやァァァ!? 近けぇ!!!!」
金レイアに気を取られすぎてリアルのバグキャラ(主に頭)の接近に気がついていなかったか!
「あ……!」
今気付いたみたいに葵もオレの腕から手を離す。同時に二つのやわらかい感触もどっかに消える。
よかった。一応、最低限の女らしい恥じらいってもんが――
「追いかけなきゃ!」
「なるほど追いかけるんですね! 頭イイネ!」
そんなもんなかった。ズッこけてしまったオレの恥ずかしさを返してほしい。
ちなみにオレのmixiネームはSHIN☆YAです。需要ナシ。
☆
「あ、は、初めまして……野々宮、しゆき、です……ぅ」
しゆきちゃんはまだ頬を赤らめて、目の前に座るオレと葵を交互に見ている。
正座し、チェックのスカートの裾をもじもじといじっている。近所に住んでいるから小学校の時から見知った仲だ。しかし相変わらずかわいいなぁ……。
「あの、すいませんでした……お取り込み中なのをお邪魔して」
「へ? なんのこと?」
「お前は5分ROMってろ。しゆきちゃん、気にするな。オレとこいつはそういう関係じゃない」
「そ、そうなんですかっ! ヨシッ!」
なんか嬉しそうなガッツポーズが見えた気がした。なんだろ。
横で葵は腑に落ちない顔をしている。
「ともかく、なんでここに?」
「なんでって……吉原先輩たちが卒業したからつぶれちゃったっていう茶道部が、復活したって聞いたので……」
純粋な茶道部希望というわけか。たしかに新入部員は嬉しいが、しかし……。
「しゆきちゃん、ウチの部はねぇくぁwせdrftgyふじこlp;」
「ふじこ?」
横からぱちーんとオレの口に葵の平手がかぶさった。そしてランランと輝いた目で葵が言う。
「うんうん、入ってくれるなら大歓迎。ただ、覚悟しなさい! ウチの茶道部はかなりダイナミックよ?」
「ダイナミック、ですか?」
「そう! 今ある茶道とはまったく別のスタンス、外国の技術をフルに取り込んだ、まさに開国式茶道部、いえ……ティー・ロードよ!」
だれかこいつの頭を今すぐにCTスキャンしてくれ。たぶんぎっしりプリンが詰まってる。
けど、こんなわけのわからない説明されて一般常識のある人間が入るわけ……、
「おおお、おぉぉぉぉぉぉおおおお!! すごい! 大化の改新以来の文化革命ですぅ!」
「なるほどそいつぁすげえや! 頭イイネ!」
もうここまできたらヤケだった。プリンでいいや、オレも!
という事で正式な部活になった。哀れ中臣鎌足、歴史の闇に消ゆ。




