第8話 自動治癒のメリットについて
「あの、私に何かできることはありませんか?」
わざわざ辺境伯を呼びつけてしまったのだからと私は彼に指示を仰いだ。
するとリュカオン様は少し驚いた顔をした後に言う。
「申し出は有難いが王都からここまで長旅だったろうから、初日ぐらい休んだらどうだ?」
と言っても既に十分活躍して貰ったけどな。そう豪快に笑う彼に私は首を振る。
「いえ、私は聖鳥に乗せられてきたので大丈夫です。全く疲れていません」
「そうか?なら……」
リュカオン様はそう言って私をある場所へ案内してくれた。
そこは武器庫だった。
正直私は指示だけして貰えればと軽い気持ちで思っていたので申し訳なくなった。
だがよく考えれば私はこの屋敷に来たばかりで、どこに何があるかもわからない。
案内を受ける必要があるのは当然の事だった。
(令嬢たちに貴方は空気が読めないって言われてたの、当たってたな)
次からはもう少し後先考えて口に出そうと反省した。
私の内心を知らないリュカオン様は保管されている武器や防具を指差す。
「これは魔物たちと戦う時に使って瘴気で汚染されている。急ぎでないから浄化をして貰えると助かる」
私は彼の頼みに首を傾げた。
「えっと、どの武器や防具も特に汚染されている様子は無いですけど?」
「何?」
驚いた顔をするリュカオン様を見て私も驚く。
そしてある仮定に行きついた。
「多分ですが、私の自動治癒の範囲に武器庫が入っていたから浄化されたのだと思います」
「……えっ、いや成程、そういうことか」
凄まじい力だな。感心なのか恐れなのかわからない感想を彼は洩らした。
「ということは屋敷内にいる負傷者の怪我も癒えているということかな?」
「恐らくは……」
「よし、見に行こう」
リュカオン様は颯爽と武器庫を後にする。
そして歩いている途中で見かけた男の使用人に何事か指示していた。恐らく武器が浄化されていた件だろう。
その後もう少し歩くと一つの部屋の前に来た。
「ここは要看護室。自室での療養が難しい怪我人が集められている」
そんな場所があるなんてやはりここは貴族の屋敷というより砦とかそういう施設のようだ。
リュカオン様は扉を軽く叩くと入るぞと言って入室した。
私もその後に続く。
「若様、丁度いい所に!」
「だから若様はもう止めろって」
医師らしき白衣の老人がリュカオン様の顔を見て叫ぶ。
それに少し照れたように言い返すと彼は真剣な顔になった。
「ここにいる者たちの怪我が突然治ったりしていないか?」
「何故おわかりに?!」
医師は驚いた顔をしている。
その後ろでは足に装着したギブスを外そうとしている男性が居た。
「若様、丁度良かった。これ剣で割って貰っていいですか?」
「お前、仮にも当主を便利屋扱いするなよな」
そう言いながらリュカオン様は剣の柄を固いギブスへ落とす。
コツンと軽くぶつけた様に見えたのに石膏はパカリと綺麗に割れた。
「有難うございます、やった骨折が治ってる!これで戦えるぞ!」
「戦場に出るのはリハビリ訓練してからにしろよ」
笑いながらリュカオン様は喜ぶ青年に言った。
「複雑骨折まで治るとは……一体どんな奇跡が起きたのやら」
「国王陛下や中央貴族どもが偉大な聖女様をお膝元から手放してくれたという奇跡だな」
そして彼女がその治癒の聖女様だ。
「えっ、あの、そのこれから宜しくお願いします、頑張ります」
突然そのように紹介されて、私は気恥ずかしくなる。
そして大分下手くそな所信表明をしてしまった。
聖女というか、まだ候補なのだが。
しかし病室にいた面々に飛び掛かる勢いで感謝され私は今回も聖女扱いを訂正出来なかった。




