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第54話 女神との邂逅

「これが……、いやこちらがティアロ王太子殿下?」

「そうですよ」


 初めて会う高貴そうな男子生徒は私の独り言を肯定する。

 図書室にいたリュカオン様と私は大聖女様に呼び出された。


 知ってしまった事実の重さを受け止めきれないまま二人で指定の場所に向かう。

 既にお馴染みの特別聖堂に辿り着いたと思ったら先客がいた。


 大聖女様と年配の男女、そして貴族学園の男子生徒が二名と豚。

 そしてこの豚がティアロらしい。

 大聖女様を見つめると肯定するように頷く。


「……ロイヤルポーク」


 思わずボソリと呟く。豚が抗議をするように甲高く鳴いた。 

 こちらの言葉の意味は分かるらしい。

 私側からは何と言っているのかは分からないが怒っているのはわかる。


 縛られているので突進などの攻撃は出来ないようだ。

 逃げないようにと見張っているのは親戚と辺境で詐欺を働こうとしていたジョンだった。

 久し振りと再会を懐かしむような状況でも無さそうだ。


 大聖女様は口元を隠しているが肩を微かに震わせている。

 私が何となく口にした言葉が面白かったらしい。

 そのような人間らしい姿は初めて見た。


 しかし他の面々には不評のようだ。

 皆、一人の男子生徒を除けば顔を青くしている。

 保健室に行った方が良いと言いたくなるぐらいだった。

 流石に心配になる。凍えそうになる程の失言をしたつもりは無い。



「リュカオン様、もしかしてお体の調子が悪いのですか」

「……君は、あれが平気なのか?」 

「あれ……というのは推定王太子殿下ですか」

「そうだ」


 リュカオン様はなるべくそちらを見ないようにしているらしかった。

 いや彼だけでは無い。ジョンなどは涙目でいる。

 

「そういえばおぞましく近寄りたくない姿として認識されるってイリス先輩が言ってましたね」


 もしかしてそれが今も続いているのか。

 私の考えを読んだのかリュカオン様が頷いた。


「そんなのって……」


 最早ティアロではなくこの場にいる人たちへの罰ではないか。

 しかもリュカオン様など完全にとばっちりである。

 ジョンは色々悪さをしたから仕方が無いとして、豪華な服を着た男女と一人の男子生徒は。


「……貴方は、もしかして隣国の」

「ジルコン・ベルヴィアと申します。聖女アイラ様」

「わ、私は聖女候補のアイラと申します。ご挨拶が遅れ申し訳御座いません!」 


 ベルヴィアという国名を姓として名乗っているということは王族。しかも直系だ。

 そんな方に向こうから挨拶させてしまった。

 私も慌てて挨拶を返す。しかし様付けをされるとは思わなかった。


「貴方も元気そうだリュカオン、いや嫌味になるかな」


 そうジルコン殿下はリュカオン様を見て言う。

 彼は跪こうとしたが隣国の第二王子はそれを止めた。


「彼が可哀想だ、王太子殿と会話もしたいしもう宜しいでしょう?」


 宣言というより問いかけるようにジルコン殿下は言う。 

 瞬間豚が発光し、私は目を守るために瞼を閉じた。

 そしてもう大丈夫だろうと開くとそこには縛られたティアロ王太子が床に四つん這いになっていた。


「うぐっ」


 笑いそうになるのを耐える。

 そんな私を見て王太子は顔を真っ赤にして叫んだ。しかし鳴き声は豚のままだった。


「悪趣味ですよ」

「あっ、申し訳……」

「いえ、貴方にでは無く」


 笑いを必死に堪えながら謝罪しようとするとジルコン殿下はそう訂正した。

 先程から誰かに対し声をかけているようだ。私にはその人物が確認できない。


(もしかしたら物凄い小さかったりするのかもね)


 動物を操れるレダ先輩も偶に服のポケットに子ネズミを入れて居たりするし私もアッくんに話しかけたりしている。

 似たようなものかもしれない。もしくは会話相手が透明になっているとか。

 聖女の加護に慣れているせいであまりその手のことに驚いたりはしなくなった。


 特別聖堂にいる人たちの大半が先程より顔色が良くなっている。

 ティアロ王太子の姿が変わったことが原因のようだ。


(いや、違うわね。確か学園内の会話では変わったのではなく……)


 彼がおぞましい豚になったように周囲、いやもっと大勢が認識させられていたのだった。

 確か、隣国の女神に。

 何故私は、それを忘れていたのだろう。


『ふむ、あの娘の末裔と言っても、暗示が完全に無効という訳では無いのだな……所詮あやつの血が混ざった子か』


 急に頭の上から声が降って来る。

 見上げると何と女神像の口が動き喋っていた。


「悪趣味ですよ」


 ジルコン殿下が先程と同じ台詞を口にする。


「妹様の像に乗り移るなんて」


 そう続いた言葉に私は声の主が隣国の女神シルティア様だと確信した。

 

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