第52話 二人の聖女
その後日記帳の上には恐らくは二百年前の人間たちが次々現れては消えた。
当然外見は違うが皆暗い顔をして自分は悪くないと言い張った。
いや正確には「自分はそこまで悪いことをしてない」が近いか。
罪人扱いで出てきたのは貴族学園の生徒、教師、他は王族や貴族の使用人たちだろうか。
弁明のように口にする内容は断片でしかない。
「恐らく厄災が起きた後の事情聴取だ。だから当事者たちは誰一人話せなかったのだろう」
リュカオン様が言った言葉に身震いする。
私は彼と二人で視点の違う証言をパズルのように組み立てた。
結果知らなかった方が良かったことまで知ってしまった。
二百年前に王太子と恋に落ちた聖女は元々男爵令嬢として生きて行く筈だった。
けれどそのままでは王太子と身分差があり過ぎる。
なので自身が加護持ちであると公にし聖女として教会で暮らし始めた。
彼女の加護は願うことで好きな夢を見せられるというもの。
大して役に立たない加護なのに聖女ぶるなんて偉そうにと貴族学園で彼女は嘲笑された。
私はその情報が出た時点で首を傾げた。
この聖女が夢渡りの聖女なら、当然それだけの能力では無い。
「加護の内容を皆に伏せていたか、当時はまだ力に目覚めていなかったかもしれない」
リュカオン様は少し考えてからそう口にする。
「人の夢の中に入って好きに情報を引き出せるなんて大勢に知られたら困るだろう」
「確かに……大勢から恐れられそうですね」
「それだけではない。諜報係として悪用される可能性もある」
そうリュカオン様は暗い目をして言った。
戦いの場で生きて来た彼と私では見えるものが違う。
「そして王太子は彼女の本来の加護を知っていたかもしれないな」
「だから自分に従うよう恋人にした?」
「かもしれない。或いは恋仲になった後で秘密を打ち明けられたかだ」
だとしたら私は後者だったら良いと思う。
そうでなければ二百年前の聖女はあまりにも哀れだ。
貴族として不自由なく暮らしていた少女が自立奉仕清貧がモットーの教会で暮らすなんて罰でしかない。
しかも王太子と婚約する為の箔付けが理由だとわかる状態なら他の聖女たちとも打ち解けづらいだろう。
流石に貴族学園みたいな虐めは無いだろうけれど、聖女といっても結局は人間なのだ。
「……でも結局王太子は聖女と婚約しなかったんですよね」
私は溜息を吐いた。
隣国の王女と婚約していた第二王子が急死した。
そこから王太子と聖女の関係は一層歪む。
隣国王女が留学という名目で貴族学園に転入。
そして王太子は即彼女と恋に落ち、そして王女を婚約者として扱った。
つまり今まで学園内で仲良くしていた聖女をあっさり切り捨てたのだ。
けれど貴族学園の生徒達は自分が見下していた聖女が転落していく様を喜んだ。
王太子に捨てられた彼女を笑いものにした。
結果聖女は貴族学園を退学し、教会の勧めで外国へ巡礼の旅へ出ることを決意する。
しかしそれを王太子は許さなかった。
聖女へ卒業後は側室として自分に仕えるよう要求し、出来ないなら毒杯を飲むよう迫った。
恋仲だった頃に王太子が打ち明けた悩みや愚痴の数々が王家の秘密に当たるという理由だ。
もしそう言われたのが私ならアッくんを巨大化させて馬鹿王太子を踏ませている。
けれど二百年前の聖女は無力で、そして孤独だった。
彼女は自分を裏切った王太子の慰み者になるぐらいならと毒杯を飲んだ。
いや、もしかしたら教会や家族を巻き込まない為に自決したのかもしれない。
しかし神の奇跡か罰なのか聖女は死ななかった。
ただ眠ったまま目覚めることが無かった。
そして聖女の恋が最悪な終わりを迎えた直後に、もう一人の聖女が国交を終えて王都に戻る。
痩せた土地に苦しむ民を救済する為に何年もかけ近隣の国を巡回する使命を任された偉大な聖女。
豊穣の加護を持つ彼女は夢渡りの聖女の母だった。




