↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
51/56

第51話 二百年前の男子生徒

「……誰?」


 光が収まった後に開いた日記帳の上に存在したのは発明の聖女ではなく見知らぬ少年だった。

 制服らしきブレザーとスラックス姿だ。貴族学園の物と似ている。

 けれど同じという訳では無い。

 彼は椅子に座り俯いていた。


「……この男、姿勢的に拘束されていないか?」


 リュカオン様が私の隣に立って言う。

 指摘されて気づいた。確かに彼の腕は後ろに回されて見えない。

 もしかしたら縛られているのかもしれない。


「つまり、罪人ということでしょうか?」

「この日記帳を作った聖女側からはそうかもな」


 私たちは好き勝手言いながら小さな男を眺める。

 ふと日記帳をパタンと閉じたらどうなるのだろうと悪趣味なことを考えた。

 彼が二百年前の人間ならもう生きてはいないだろうけれど。


『サンドリュー・アボット男爵令息。私に言ったことをもう一度発言してください』

「さっきの聖女の声だわ」


 姿は見えないが発明の聖女エイジアの声がする。

 一体どういう仕組みなのだろう。

 飛び出す絵本に近いが、どうやったら声や人物の動く姿を閉じ込めて置けるのか。

 もう一人の発明の聖女であるミネルヴァ先輩に見せたらわかるだろうか。 


『俺は悪くない、知らなかっただけなんだ!』

『言い訳でなく、事実だけを話してください。少しでも罰を軽くされたいならば』

『うう、わかったよ……俺はあの娘の弟と仲が良かったんだ。弟と言っても腹違いらしいが』

「あの娘って、誰のことかしら」


 私がそう呟く。

 質問が届かないのは分かってるが黙っていられない。


「恐らく二百年前に暴走した聖女じゃないか」


 代わりというようにリュカオン様が返事をしてくれた。


『うちの男爵家とサティー男爵家は祖父の代から仲が良かった。だから聖女になる前に男爵令嬢として過ごしていた頃から知っていたよ』

「サティー男爵家ですって!?」


 思わず叫ぶ。


「知り合いか?」

「貴族学園に通う際に養子縁組をした家です」


 リュカオン様の質問に答える。サティー男爵家が二百年前から存在していても不思議ではない。

 けれど急に自分に関わりのある家名が出てきたら驚く。


『飛びぬけて可愛かったよ。でも殆ど普通の子供だった。何故聖女として認められて教会に行ったのかはずっとわからなかった、だから弟に訊いたんだよ』

『彼女の秘密をですか』

『お前はあいつと全然顔が似てないよなって。その時に大喧嘩して知ったんだよ。やっぱり本当の親は別にいてそのコネで聖女にされたんだって』

 

 下卑た笑い声をあげて縛られた男子学生は言う。

 私は彼が何を言っているのか理解出来なかった。


 加護を持たない者が聖女になるメリットなんて無い。

 孤児や貧しい家なら養ってもらえるだけで有難いだろうが男爵令嬢ならその必要性も無いだろう。


『聖女として崇められる存在なら出自が男爵家や子爵家程度でも上位貴族や下手すれば王族と結婚出来るからな。あんだけ可愛ければなるだろうよ』

「そうなのか?」

「わかりません……」


 リュカオン様が何故か真顔で訊いてくる。

 私は首を振るしか無かった。結婚なんて考えたことも無かったのだ。

 

『つまり貴方は彼女の加護や、本当の親については何も知らなかったと?』

『知らなかったよ。教会の関係者か高位貴族かとは思ったけど。でもあいつの加護なんて祈って貰えば良い夢を見せてくれるだけだろ、聖女になる資格なんて無い』

『それはお前が決めることではない』


 氷のような声が男子学生を打ち据える。恐らくは発明の聖女エイジアのものだろう。

 だが姿が見えないので確信は出来ない。


『貴方はそれらの情報を全て王太子に話したのですか』

『聞かれたら話さなきゃ不敬罪になるだろ、最初は俺とあいつが仲良いことに嫉妬したんだと思ったし』

『つまりあの男が彼女を愛しているように周囲の生徒達からは見えたと』

『愛していたかはわからない。でも絶対所有欲や独占欲はあった。……だから俺だって、殿下が打算で口説いたなんて思ってなかったんだ!』


 まさかあんなことになるなんて、そう男子学生は暗く小さい声で呟き日記帳の上から姿を消した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。