第50話 図書室の聖女
忙しいと大聖女様は私とリュカオン様を特別聖堂から追い立てた。
ただその時に「呼ぶまで図書室で時間でも潰していなさい」と言われた。
私はリュカオン様と扉の向こうで顔を見合わせる。
「なら、行ってみるか」
そう彼に言われれば私に否定する理由は無かった。
でも大聖女様は何故わざわざ図書室を指定したのだろう。
教会には応接室もあるし、時間を潰すだけなら他にも様々な場所があるのに。
内心首を傾げながら私はリュカオン様を図書室に案内した。
本が殆どを占める部屋は教室二つ分程の大きさだ。
貴族学園に通い始めてから今まで足を運ぶことは無かった。
それでも丁寧に修復を繰り返した絵本や古い図鑑の数々を懐かしく思う。
元孤児だった私はそれらで字や物の名前を学んだのだ。
リュカオン様は珍しそうにきょろきょろと本棚を眺めていたが、やがて一か所に視線を固定した。
「どうされましたか?」
「あの棚……何か変じゃないか?」
「変?」
「何だろう、並んでいる本がやけに古いというか」
そう言っているリュカオン様自身も困惑した表情をしている。
「いや、図書室の本が古いのは当たり前か……?」
何故引っかかるのか明確な理由がわからないのだろう。
この教会では偶にあることだ。よくわからないけれど妙に気になるあれこれは。
そして大概それは聖女絡みだったりする。
「なら近くで見てみましょう」
私はそう言うと彼が指差した本棚に近づいた。
成程、確かに変だ。だってこれは。
「本と言うか、日記帳ですね」
「日記?」
リュカオン様が驚いた声を出す。不味いと思ったのかすぐ自分の口元を手で押さえた。
その仕草を可愛らしく思って笑いそうになるのを私は堪えた。
「まあ変ですよね、伝記とかでもなくこれは本当にただの日記ですよ」
しかも大分古い。その上大量だ。
棚一列に同じ装丁の日記が並んでいる。まるで小説や図鑑のシリーズのようだ。
だから気づきにくかったのだ。
「聖女の悪戯かもしれないので私が確認しますね」
もし聖女が他の聖女の日記を悪戯でここに配置したのなら外部の人間、しかも男性が目にするのは不味いだろう。
何せ日記なのだ。どんな赤裸々なことが書いてあるかわからない。
「あ、でもこれ鍵が……?!」
一冊を手に取った途端その日記帳が光り輝く。そして勝手に鍵が外れ日記帳が開いた。
「何だこれは」
呆然としたようにリュカオン様は言う。それも仕方が無い。
開いた日記帳から突然一人の少女が生えて来たのだ。
「あ、貴方は誰……?」
『私は発明の聖女エイジア』
「発明の聖女?」
私は眉を顰める。発明の聖女は私が知る中ではミネルヴァ先輩だけの筈だ。
それに日記帳から出て来た少女に私は見覚えが無い。着ている服も今風では無い気がした。
「貴方ってもしかして、昔の……」
『彼女と同室でありながらその恋を止めなかったのが私の罪』
こちらが話しかけるのを無視してエイジアと名乗った少女は全く違うことを話し始めた。
「これは……本の内容を読み上げているようなものじゃないか?」
そう頭上からリュカオン様の声が降って来る。彼の言葉に私は納得した。
最初に名前を聞いたら回答されたように思ったが、ただの偶然だったというわけか。
『あの娘は王太子に裏切られ、傷つき、そして毒杯を飲んだ』
「毒杯だと?!」
リュカオン様が大声で叫ぶ。私は思わず肩を竦めた。
慌てて周囲を見渡したが私とリュカオン様以外無人だった。
「す、すまない」
「いえ、毒杯って……」
「……王族貴族が自害する時や自害を強制する時に使うものだ」
だからあんな大声を出したのか。
私は納得した。つまり話の中の聖女は自害したか、させられたのだ。
聖女の同室なんて聖女に決まっている。
『結果王都がああなって皆傷ついた、大勢の聖女たちも……』
「……もしかして二百年前の聖女かしら」
『だからあの娘を悪く言う聖女もいる。あの娘だけが悪いとは思ってなくても……それだけの被害だから』
「恐らく、そうだろうな」
私とリュカオン様は悲しそうな顔をしている少女を見つめ頷いた。
『もし未来でまだあの娘が悪く言われていたなら、どうか真実を知って、その上で判断して欲しい』
「判断って、何を……?!」
返事が来ないと分かっているのに本の中の少女に尋ねてしまう。
そして返事の代わりに目を焼きそうな程強い光が本から噴き出した。




