第49話 愚かな王太子への神罰
「隣国の第二王子って、どうしてそんな方が学園に?」
混乱しつつ私が質問すると答えたのは大聖女様だった。
「女神シルティアの名代です」
「名代?」
「隣国の第二王子は簡単に言えば聖女のようなものです」
「男の……聖女?」
リュカオン様が戸惑うような声を上げた。
気持ちはわかる。
簡単にと言われたが逆にややこしい。
だが私はあの貴族学園で騒ぎを起こした聖女だ。正確には聖女候補だ。
なので大聖女様の発言で大体を察することが出来た。
「つまりあの馬鹿王太子が、又神の怒りをお買い上げされたってことですね」
「そういうことです」
私の若干無礼な発言を大聖女様は咎めず肯定した。
「しかも彼は女神に認められ謁見できる唯一の存在、怒りの規模が違います」
『その通りです、学園内は今酷いことになっています』
そう答えたのは聖堂にいる人間ではない。
伝達の聖女イリス先輩だ。
『王太子は第二王子の容姿を中傷しました、その結果何というか…じっとり毒液で濡れた瘤だらけの豚のような姿に』
「なったのですか」
『いえ、恐らくは周囲がそう認識する働きかけをされただけです。レダの目には人間に見えているようですから』
レダ先輩は動物を操りその視界などを利用できる聖女だ。
私がいなくなった後も彼女の目や耳は貴族学園に残っていたのか。どうしてと私は大聖女様に尋ねることはしなかった。
『恐らくですが、おぞましく近寄りたくない姿として認識される感じですね。 範囲がどこまで及ぶかわかりませんが……ただ』
「ただ?」
『本人は周囲の反応が理解出来ないらしく暴れまわっていて、このままだと生徒達に魔物扱いで討伐されるかと』
「討伐?!」
私がぎょっとして叫ぶと、それをかき消すようにイリス先輩も叫んだ。
『あっ、今レダも王太子が豚に見えるようになったそうです!これは全国民の認識が書き換えられるかもしれませんね!』
「王太子が豚そのものに変えられたのではなくてですか」
『はい、恐らく本人以外に作用するタイプの権能を使用されたかと』
「なら目と耳として使っているジョンに王太子の捕獲と教会への連行を命じなさい」
『仰せのままに、大聖女様』
その言葉を最後にイリス先輩の声が途切れる。
ジョンというのは私たちが連行したジョンだろうか。
確かに教会に扱いを任せると言ったけれど、密偵のような使い方をされていたのだろうか。
「リサ、城への使いの用意を」
「かしこまりました」
大聖女様に命じられリサ先輩は退室した。
私は戸惑いがちに呟く。
「王太子殿下、なんで隣国王子へ容姿の中傷なんて……」
そんなの当然国際問題だ、下手をしたら戦だろう。
女神の関与など無くても不味い行動なのは確かだった。
「口論を仕掛けるも主張の正当性で勝てなかったからでしょう」
見てきたように大聖女様が言う。
それが事実なら歴史に残る馬鹿だなと思った。
そして我が国はそんなのが王太子なのだ。
静かになった大聖堂に重苦しい空気が流れた。
ただ大聖女様だけは涼し気な顔をしていた。
「あれが国王になるの、俺も嫌だな……」
沈黙を破ってリュカオン様が呟く。
彼が怒った先代辺境伯様と全く同じことを言っている。
「なれないでしょう、あれはもう」
さらりと大聖女様が答えた。
「しかし現国王の跡継ぎは彼しか……」
「認識を変えれば良いのです。そしてあの方にはそれが叶います」
リュカオン様の指摘に彼女は何でもないことのように答えた。
「あの方というのは、隣国の女神様ですか」
「そうですよ、アイラ」
つまりティアロの代わりに適役を用意してそれを皆が王太子だと認識するように弄るということか。
流石女神。
私はふと思いついて質問した。
「女神様は何故王太子を本物の豚にしなかったのでしょう」
大勢の認識を操って豚に見せるよりそちらの方がコストは軽く思える。
女神と言えども万能ではないのかもしれない。
そんな罰当たりなことを考えている私に大聖女様は微笑んだ。
「決まっています、その方が苦しいからです」
まるで女神本人のように言い切る彼女は、今日は忙しくなりますよと言って私たちを特別聖堂から追い出した。




