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第48話 強大過ぎる力

 教会はどこかいつもと空気が違っていた。

 具体的にどう違うかは説明し辛い。


 無理やり説明するとしたら城レベルの建物の部屋の一つに蓋を開けた香水瓶が置いてある感じだ。

 実際にそういう匂いがする訳では無いけれど。


「どうした?」


 私の異変に気付いたのかリュカオン様が尋ねて来る。


「いえ、大したことではありません。なんだか香りが気になっただけで」


 私はそう答えた。


「香りか?」

「ええ、でも嫌な香りではないのでもう大丈夫です」


 実際、気になりはしたが嫌な物では無い。

 だから悪い物でもないのだろうと楽観的に考えることにした。


「それより大聖女様に会いに行きましょう」

「ああ」


 私の言葉にリュカオン様が頷く。

 今回は私たちの来訪を予期したような歓待は無かった。


 前回が特例だったのかもしれない。

 教会の人間に確認すると大聖女様は外出していないようだ。


 謁見の許可を取り、少し待つ。

 出されたお茶が丁度飲み終わる頃に面会が許された。


 リュカオン様と二人で特別聖堂に赴く。

 その中で何人か速足で通り過ぎていく聖女を見かけた。慌ただしい空気を感じる。

 やはり何かあったのだろうか。


(それも大聖女様に伺えばいいだろう)


 結論付けて彼女がいる場所の扉を開ける。

 すると時間が止まったような冷たく静謐な空気の中で真っ白な彼女は私たちを待っていた。


「前辺境伯が目覚めたようですね、本日はその報告ですか」


 突然そう言われ驚く。

 けれど彼女が夢渡りの聖女と対話出来ることを思い出し納得した。


 情報の提供者が夢渡りの聖女じゃなかったとしても驚かない。

 教会トップの彼女の目や耳になる存在がいくつあるかなんて末端の私にはどうでもいいのだ。


「いえ、それだけではありません」


 私は旧王城にいる聖女を救いたいと思っていることを大聖女様に告げた。

 今度は彼女が私の発言に驚いたようだ。大聖女様の驚いた顔なんて非常に貴重だ。

 失礼かもしれないが私は初めて彼女がちゃんとした人間に思えた。


「救うとして、どのような方法を考えているのですか?」


 すぐに冷静さを取り戻した大聖女様は手段を問うてくる。人間離れした容姿の割に現実的なのだ。

 私はポケットから腕輪を取り出した。

 発明の聖女が作ってくれた物だ。


「この加護封じの腕輪を暴走している聖女に装着します」

「成程……加護を封じれば暴走も止まるという訳か」


 感心したようにリュカオン様が言う。

 けれど大聖女様の表情は動かなかった。


「その腕輪の効力では彼女の加護は防げません」


 あっさりとそう言われる。


「二百年前に暴走した聖女は、貴方よりも潤沢な魔力を持っていました」

「なら、腕輪の数を増やしても駄目ですか?」

「材料となる宝玉の在庫が教会にはもうありません」

「そんな……」


 肩を落とす私に大聖女様は微笑んだ。


「ですが腕輪が破壊されるまでの僅かな時間だけは無力化出来るかもしれませんね」

「それって……」


 もしかしてその間に止めを刺せということだろうか。

 私は無意識にリュカオン様を見た。彼は無言で頷く。

 もしその場合は彼が暴走聖女を斬るということなのだろう。

  

 でもそれでいいのだろうか。

 私が暴走聖女の立場なら、斬って欲しいとは思うだろう。

 でも暴走聖女をどうにかしたいと思う私は。

 苦しんだ末に暴走した人を、そんな解放の仕方なんてしたくはなくて。

 でもそれは私のエゴでしかない。


「……わかり、まし」


 暴走聖女を討伐する決意を口にしようとしたところ特別聖堂の扉が外から激しく叩かれる。


「開けなさい」


 そう大聖女様が命じる。扉は私が駆け寄る前に勝手に開いた。


「リサ先輩?!」


 入って来た聖女に驚きの声を上げる。

 彼女は私をちらりと見て後でねというように片目を閉じると大聖女様の前に傅いた。


「……貴族学園を監視していた聖女たちからの報告ですが、先程突然全ての通信が断ち切られたとのことです」

「そうですか、原因は?」

「不明です。ただ男子学生に持たせていた端末には王太子が隣国の第二王子に食って掛かる姿が映っていたとのことです」

「それが原因です」


 本当に身の程を知りませんね。

 大聖女様が氷のような冷たさで言う。


 私とリュカオン様は何が起こっているかわからず顔を見合わせていた。



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