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第45話 王太子と聖女の関係

「残念ながらここまでが儂の覚えていることだ」


 そう先代辺境伯様が無念そうに言う。

 私もリュカオン様も無言になるしか無かった。


 それだけ二百年前の王太子の愚行がショックだったのだ。

 彼の顔など知らないので当代の王太子ティアロで想像する。


 もし私が彼に婚約者が居ないと思っていたなら、どうなったのだろうか。

 内心首を振る。それでも私がティアロに恋をするということは無いだろう。


 ただそれは私が私だからだ。

 学園内で親しくされて放課後も一緒に遊んで、それで相手を好きになってしまうのは罪では無い。

 そして好きになった相手に、そんな最悪な形で突き放されたら絶望もするだろう。

 

 結果夢渡りの聖女はショックで加護が使えなくなった。

 それでは不都合だった王家は彼女に無理やり加護を使わせようとして惨劇が起きた。

 そこまで暗い気持ちで考えて違和感に気付く。


「……でも王都を魔の森に変えたのって、恐らく夢渡りの聖女では無いですよね?」


 疑問のように口にしたがこの場に答えられる人などいない。

 聖女のことに一番詳しいのは聖女候補である私だ。


「俺もそう思っていた。大聖女の話に出て来た聖女と加護の内容が違い過ぎる」


 けれどリュカオン様は納得したように同意してくれた。

 大聖女様の話に出ていた聖女の持つ加護は豊穣。

 けれど夢渡りの聖女の加護はそのまま夢に関することだ。


「加護を複数持つということは有り得ないのか?」


 そう先代辺境伯様に指摘される。


「私も治癒と浄化の加護を持っていますけれど、ただこれは言い方を変えただけのものなので……」


 生き物にとっては治癒の力でも魔物にとっては毒になる。それだけだ。


「教会に戻って調べないと断言はできませんけれど」

「王太子に裏切られた聖女は夢渡りの聖女では無いかもしれないな。親父がそう誤認識しているだけで」

「儂はそこまで耄碌しておらんぞ……と言いたいが自信が無くなって来た」


 今ではもう完全に忘れてしまったからな。

 そう先代辺境伯様は不思議そうな顔で自分が書いた内容に視線を落としていた。


 リュカオン様の言う通り、夢渡りの聖女の語る内容を彼女の物語だと誤解している可能性はある。


「しかし、二百年前に王家の入れ替わりがあったという話だが何故似たようなことが起こるのだろう」


 教育環境の問題だろうか。リュカオン様がうんざりしたように言う。


「なんだ、もしかして当代の王太子も似たようなことをしたのか」

「ああ、そして被害者は彼女だ」

「えっ」

「何だと!」


 突然話を振られて驚く私と、多分違う理由で驚いた先代辺境伯様。


「ただ二百年前と違うのは、こちらの聖女殿は王太子の所業を迷惑行為としか認識していなかったことだな」

「それは……王太子から親し気に話しかけられたり一緒に出掛けるということにか?」

「……私は勉強する時間が欲しかったので、正直構わないで頂きたかったです」


 歯に衣を着せずに言うと先代辺境伯様は呆気に取られた顔をした。

 そう反応されるとまるで王太子に一切ときめかなかった自分が変人に思えて来る。 


「親父、全ての女性が身分と顔が良い男に惚れる訳じゃないぞ」

「わかっとる、じゃなきゃ母さんは儂について辺境まで来なかった!」


 そうリュカオン様父子は軽口を叩き合う。

 別に先代辺境伯様だって言う程ではない。

 身分だって低くないし顔だって精悍だ。 

 私が黙っているとリュカオン様は急に気まずそうな顔になる。



「俺は別に……二百年前に王太子に裏切られた聖女も顔と身分だけに惹かれた訳では無いと思っている」

「有難う御座います。私もそうあって欲しいと思います」


 聖女側の立場で彼の気遣いに礼を言う。

 ただこう言ってくれるのはリュカオン様だからで二百年前の反応はどうかわからない。


 ティアロ王太子の所業に対し迷惑だと隠さない私でさえ学園の生徒から略奪を目論む女狐と嫌われていた。

 貴族にとっては教会の聖女より王族の方が立場が上なのだ。貴族に限らないかもしれない。

 ただ厄介なことに立場が上の人間が常に正しく潔癖であるとは限らないということだ。 

 私は先代辺境伯様に乞われるまま貴族学園での騒動と、結果として辺境に来ることになったいきさつを話した。


「そんな脳足らずが次の国王になるのは儂は嫌だな」

「親父!」

「いやだっておかしいじゃろ、人間を堂々と動物扱いする奴なんて絶対やばいって」


 下手すれば外交でしくじって他国と戦争になりかねん。

 そう私とは違う目線で先代辺境伯様はティアロを批判した。

 口を尖らせて子供っぽい仕草をしているが話した内容は国を憂うものだ。


 確かにティアロ王太子には色々人間性に問題がある。

 最も厄介なのは一見善性に満ちて優れた王太子に見えるところだ。


 私でさえ動物扱いされた時はぎょっとした。

 もし私が彼に恋心を抱いていたらその程度ではすまなかったかもしれない。

 王都ならまだしも辺境での務めがある今治癒の加護が無くなったら困るなと思った。

 

「……とりあえず私は一度教会に戻って大聖女様に話を伺いたいと思います」

「俺も同行する。そしてその後に旧王城に向かう計画を立てよう」

「はい」


 私はリュカオン様の目を見て頷く。

 そんな私たちを先代辺境伯様は黙って興味深そうに見つめていた。

 

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