第42話 荒療治でも治療ですので
用意された馬車に乗って魔の森まで行く。
そこからは歩きで私とリュカオン様たちは森へ足を踏み入れた。
驚いたのは私の自動浄化の力が働いているのに、魔獣がそれなりに襲ってきたことだ。
更に魔獣が浄化され獣に戻るまでに今までより時間がかかる。
「……この森自体が瘴気を発し続けてる感じですね」
「やはりそうか」
「木まで魔物化して瘴気を出しています」
恐らく一定範囲の木は浄化されてるだろうが、私がこの場を離れれば又汚染されるだろう。
「森自体燃やす案も昔あったらしいが結局やらなかったらしい」
「何故ですか」
「魔獣たちが一斉に森から飛び出すからだ」
「ああ……」
リュカオン様の言葉に私は納得する。
「それに瘴気が残った灰が飛び散るからな。隣国に大反対された」
「隣国って……ベルヴィアでしたっけ。森の反対側が国境とか」
「そうだ」
「でもそれって不思議ですよね」
リュカオン様や騎士たちが切り捨てた魔物を浄化しながら私は言う。
「だって元々この場所は王都だったわけじゃないですか、王都のすぐ横が国境って……」
余程隣国と仲良くないと色々面倒じゃないだろうか。
私はそう軽い気持ちで口にした。
「まあベルヴィアとこの国の初代国王は兄弟だったらしいからな」
「そうだったんですか?」
「だから元々は一つの国を二つに分けたらしい。昔は仲が良かったらしいな」
「昔はってことは……」
「今はそこまでではないということだ。何が理由かはわからない、がっ」
そう言いながらリュカオン様は腕を振り上げると飛び掛かって来た狼の魔獣を斬り捨てた。
全身真っ黒で角まで生えていた魔獣は息絶え狼の姿に戻る。
森の外の魔獣より外見の異形化が酷い。
鳥なのに毒液のような物を吐く魔獣も居た。
今のところ騎士団に怪我人は出ていないし疲労の色も見られない。
「いや、無傷でここまで森の奥に来られるとは思ってなかったですよ!」
「聖女様にずっと辺境にいて欲しいです!」
「……そんなに元気が有り余っているなら斧を持って来て木こりの真似事でもさせれば良かったな」
部下たちに苦笑いを浮かべながらリュカオン様が言う。
最初は何故木こりと思ったがすぐ理由が分かった。
「確かに木を燃やさず切り倒すのはありですね」
「本当は根こそぎにしたいけど、なっ!」
その言葉と同時にリュカオン様が私を庇う。
彼の手甲に何かがかかる音がした。
「石化鶏の……生き残りか」
私を後ろに突き飛ばしたリュカオン様が巨大な鶏らしきものに飛び掛かる。
持っていた小盾で鶏の顎を上に殴りつけ、無防備になったその首を切り落とした。
「二度はさせんぞ」
鮮やかな手腕で魔獣を殺したリュカオン様は憎々しげに言う。
彼らしくない表情だと違和感を抱いた。
でも彼が先程告げた魔獣の種族名を思い出す。
「この鶏が……先代辺境伯様を?」
「こいつではないが、同じ種族だな。根絶やしにしたつもりだったが」
確かにリュカオン様の手甲は一部が滲むように石化していた。
「生き残りがいるなら君にも全身鎧を着せて来るべきだった」
「ええ……」
多分私が彼らの着ている鎧を身に付けたら碌に歩けなくなる気がする。
「俺から今まで以上離れないでくれ。いつでも庇える距離にいて欲しい」
そう言いながら半分抱き込まれるような体勢にされる。
そんな場合じゃないのに心臓が早鐘を打った。
でも本当にそのような場合ではないのですぐ冷静になる。
「その魔獣、念入りに浄化させて貰って良いですか」
「ああ、でも決して触らないでくれ。 ……お前ら聖女の周りを囲んで護衛しろ」
「はっ」
リュカオン様から離れ私は首が無くなった巨大鶏の死骸に近寄った。
鶏と言っていたが牛より大きい。あと尻尾に見えたのは多分蛇だ。
頭はこっちもいつのまにか切り落とされている。
中々に惨い有様だが私はその死体を念入りに浄化した。
すると体がみるみると萎み、普通の鶏程度になる。
これにはリュカオン様も他の騎士たちも驚いた顔をした。
「元は本当にただの鶏だったのか……」
「こんなただの鶏に俺の兄貴は石にされた挙句蹴り砕かれて……畜生!」
騎士の一人が泣きそうな声で言う。
石化の被害者はリュカオン様の父親だけでは無いのだ。
空気が重くなった空間で私は口を開く。
「元は小さな鶏があそこまで大きく、そして石化能力を持つようになったのはその分瘴気を吸収したからだと思います」
「その通りだ。寧ろ熊や狼より魔物としては凶悪とも言える。鶏だからと言って気を抜くなよ」
リュカオン様がそう言い添える。他の騎士たちも改めて表情を引き締めた。
そのまま魔獣を倒しつつ森の奥に立ち入る。
「あっ……」
だれかが小さく驚きの声を上げる。私も声は出さなかったが確かに驚いた。
「これが俺の父親、先代辺境伯だ」
リュカオン様が私に説明する。
それは大きな石像のようだった。
壮年の大柄な騎士が険しい顔で剣で魔獣を刺し貫いていた。
恐らくその魔獣は先程と同じ石化鶏だろう。寧ろもっと巨大かもしれない。
断言出来ないのはその体が割れた卵の殻のようにしか中途半端にしか残ってないからだ。
「石化の毒液がかかっている部分しか石化しないからな」
奇妙な程静かな声でリュカオン様が言った。
「寧ろよくここまで満遍なく石化してると思う」
リュカオン様は石像となった
「更に先代様は完全に石化するまで大暴れしたようで……」
当時は周囲に石化鶏の死体が転がっていたらしいです。
そう騎士の一人が私に教えてくれた。
言われてみると瓦礫や石に見えた物が鳥の足だったりする。
「石化されても中身はただの肉だから……腐ったり他の魔獣に食われたりしたんだろう」
「成程……」
「だが父親は何故か生きているらしい」
そう言ってリュカオン様は石像の胸の部分にそっと触れた。
確かに心音がすると言っていた。
「あの、私も確かめて良いですか?」
「ああ」
お言葉に甘えて私も先代辺境伯様に触れる。触り心地は石だ。
治癒と浄化の力を手から注ぎ込む。
すると確かに内側から反応が有った。無機物では無いし生きているという証拠だ。
けれど石化は解除されない。
「……やはり、駄目か」
「ごめんなさい……石化は解けなかったみたいです」
「そうか、君のせいじゃない」
あっさりとリュカオン様は言う。けれどそれは私の心に負担を与えない為の演技だろう。
そんなに簡単に諦められるなら私をここまで連れてこない筈だ。
(何か……私に出来ることで他に方法は……)
両手を組んで女神に祈る。
すると肩が少し軽くなる。
不思議に思い瞼を開くと肩に乗っていた小鳥、いや聖鳥が先代辺境伯様の石像に飛び乗り凄い勢いでつついていた。
「ちょっ、アッくん!」
「いや待て」
私が慌てて止めようとするのをリュカオン様が止める。
「聖鳥がつついたところから血が流れている……」
「えっ、痛そう、怪我させてごめんなさい!」
「そうじゃなくて……怪我をしているということなら」
リュカオン様の緑色の瞳がキラキラ輝き出す。
彼の言おうとしていることが私にも分かった。
「石化している部分を無理やり剥がして即治癒すればいいってことですね!」
「そうだ!」
私とリュカオン様は手を取り頷き合う。
何故か他の騎士たちはそんな私たちを引き気味に見ていた。




