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第40話 命の問答

「一つ確認していいか」

「はい」


 リュカオン様は私に視線を戻して問いかける。


「もし二百年前の聖女が生きていて、彼女を殺さなければ解決しない場合俺は迷わず斬る」

「……はい」


 殺すという言葉に内心びくりとしたが私は頷いた。

 それは仕方のないことだ。


 彼女の暴走の被害は凄まじく、何より現在も続いている。

 残酷だが、仕方のないことなのだ。


「しかし生かしたまま暴走を止められる可能性もあるだろう」

「……そうなって欲しいと思います」

「だがその後に待っているのは処刑だと思う」

「え……」


 今度こそ私は唖然とした。

 だってそれは折角助けた命が殺されるということだ。


「あ……」


 でもリュカオン様の深い緑色の瞳を見て気づく。

 暴走した原因について聖女は悪くない。

 けれど暴走した結果について今は話をしているのだ。


「国王に引き渡せば間違いなくそうなる」

「そう、でしょうね……」

「君はどうしたい?」


 彼に問いかけられ私は息を飲み込んだ。


「それは……聖女として教会側の希望ということですか?」

「違う、君というアイラ個人としての意見だ」

「えっ……」


 一番困ることを尋ねられてしまった。

 教会側の意見を求めて欲しかった。


(というか作戦自体も大聖女様に確認しなきゃ……)


 もし私が駄目だった場合後任の聖女を配属して貰う必要があるのだから。

 そんなことを考えてちらりとリュカオン様に視線を移す。


 彼はただ真っ直ぐに私を見つめ、そして答えを待っていた。

 逃げられない。

 一般的な回答でも、聖女としての回答でも駄目だ。

 私の言葉を彼は求めている。


 喉がカラカラになりながら本音を口に出す。


「私は……生きていてほしいです」

「そうか」

「でもそれは私が彼女のせいで何も失っていないからだと思う」


 だからこそ奪われ続けた立場であるリュカオン様に言うのは心苦しかった。

 私は奪われるどころか辺境に来るという機会を与えられた側なのだから。


「わかった、ありがとう」

「ありがとう?」


 全く予想しなかった言葉を言われて私はそのまま繰り返してしまう。

 何故かリュカオン様は少し照れたような顔をしていた。


「もし俺が目先の憎悪だけで聖女を殺しそうになった場合、君の言葉を思い出すことにするよ」

「リュカオン様……」

「大聖女様の話を聞いて、俺も彼女が悪くないというのはわかっているんだ」


 それでも許せない気持ちは消えない。

 リュカオン様は途方にくれたような声で言う。


「でも彼女が死んだら君が悲しむと思ったら、止められそうだ」


 俺は騎士だから感情で命を奪ってはいけない。

 そうリュカオン様は笑う。その笑みはどこか痛々しかった。


「もう一度大聖女様にお会いしよう、二百年前の聖女が生きられる可能性があるなら」


 何より、事情を隠したまま王家側に一方的に彼女が裁かれるのは癪だ。

 そうリュカオン様は吐き捨てるように本音を言った。


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