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第4話 辺境が早速危機

 巨鳥状態になったアークヴェルグの背に乗って三時間程飛ぶと辺境が見えて来た。

 馬車の五倍ほどの速さが出ているけれど吹き飛ばされず快適に過ごせている。

 それは私が聖鳥アークヴェルグに主人として認められているから。

 この普段は小さく可愛い小鳥は私が教会を訪れた日からいつのまにか肩に乗って寛いでいた。


「うーん、ここから見ても凄い瘴気……」


 パンを食べ終え、大聖女様から貰った辺境についての概要を読みつつ下界を眺める。

 どうやら辺境には巨大な森があり、そこから瘴気が溢れ出しているようだ。


 しかし森に棲む生き物たちが大量に魔物化しているせいで詳しい調査は行えていないとのことだった。

 代々の辺境伯と騎士団の使命は魔物少しでも多く狩り決して王都に近づけないこと。


 そして最近になって大怪我をきっかけに領主が代替わりしたらしい。

 つまり彼らは王都に住む者の安全のために犠牲になっているのだ。

 平和ボケした王太子の顔を思い出しうんざりした。



 地上を見下ろすと、王都から離れる程黒い靄が濃くなる。

 それは蜘蛛の巣のように張り巡らされて内側に近づく程靄は隙間が無くなって行った。


「確かにこれは遷都待ったなしよね」


 二百年ほど前、王都は今の辺境に存在した。

 しかし突然瘴気が吹き出し、それに長く触れた生き物は魔物化するようになった。

 その為仕方なく当時の国王は遠く離れた場所に王都を移したのだという。


 今辺境と呼ばれる場所では辺境伯率いる騎士団が魔物を日夜狩っている。

 そして魔物退治に役立つ加護を持つ聖女たちも補佐に駆り出されている。


 しかし聖なる存在程闇の瘴気に弱く、魔物化しやすい。

 だから辺境の聖女は定期的に取り替える必要があった。


「前任の聖女を王都に戻して早く休ませてあげないと……」


 地上に降り立つためアークヴェルグがどんどん高度を下げていく。

 そうすると瘴気の霧に突っ込むような形にどうしてもなってしまう。

 精神的な不快感はある。けれど私に恐れは無かった。


「アッくんも安心してね」


 私は聖鳥の頭を撫でる。

 そして少しだけ意識を集中させた。


自動治癒オートヒール強化」


 無意識に発動している自動治癒をあえて意識して効力を強める。

 私や聖鳥に触れようとする瘴気は霧散する。

 私の治癒能力が体に有害な闇の瘴気を食い殺しているのだ。


「雑に治癒能力と呼んでるけど、本当に意味わからないわね」


 昔からかすり傷なら自動的に治っていた。病気にもならなかった。

 でもこの能力のお陰で私は貧しい孤児だったのに体調を滅多に崩さず生きてこられたのだ。

 腐った食べ物を食べてもお腹を壊すことは無かった。


「あそこで魔物と戦ってる人たちがいるわね、そのまま突っ込んで」

「ピィッ」


 鋭く鳴いてアークヴェルグは熊が変化したらしき魔物に嘴から突っ込んでいった。

 形は熊に似ているが大きさは何倍もある。

 騎士たちが数人がかりで制圧しようとしているが劣勢の様だ。


「グワァァァッ」


 眼球を正確に嘴で突き刺し聖鳥はそのまま熊の魔物を持ち上げる。

 相手は魔物とはいえ見ているだけで痛かった。


「そのまま遠くへ湖の真ん中へふっ飛ばして!」


 私の指示通りアークヴェルグは頭を振って熊の魔物を湖の真ん中に振り落とした。

 すると自身の重さもあり、すぐに水へ沈んでいく。そして浮かぶことも無かった。


「次は、人間の救護ね」


 私が呟くと聖鳥は悠然と飛び騎士たちがいる場所へ戻って行った。

 そしてゆっくりと高度を下げる。丁度いい所で私は飛び降りた。


「あ、貴方は……」

「教会から参りました聖女候補のアイラです、重傷者はいますか?」


 私は腕から血を流す騎士に話しかける。

 ついでそこまで重症じゃないようで近づくだけで彼の腕の血は止まった。


「えっ、今治癒の魔法を?」

「自動的にかかるんです、重傷者は?」


 驚く騎士に再度尋ねると慌てたように岩近くを指差す。

 そこには横たえられた女性と岩にもたれかかり荒い息を吐く体格の良い騎士が居た。

 地面が濡れているのは大量の血のせいだろう。


「……あんた、この聖女様の後輩か」

「はい、成程……リサ先輩は力を使い過ぎて気絶したのね」


 前任の聖女は教会に来たばかりの私の面倒を見てくれた人だった。

 幸いなことに彼女は怪我や瘴気に汚染された訳では無かった。力を使い過ぎて脳がストップをかけたのだ。

 これ以上力を使ったら体を壊してしまうと。

 結果として気を失ったのだろう。


「彼女は大丈夫です、なので貴方を治癒します」

「頼む……」


 そう口を開くだけで苦しそうに男性は言う。

 確かに彼はこの場にいる誰よりも重症だった。


 熊の魔物にやられたのか太い腕も足も肉を抉られている。

 私の自動治癒だけでは追いつかない。


 何より闇の瘴気が全身に絡みついていた。

 つまり動けなくなるまでは誰よりも魔物に相対して戦っていたのだろう。


重複治癒ダブルヒール


 彼の傷口を押さえるように触れ、唱える。

 瘴気がまず消え、抉れた傷痕も肉が盛り上がって再生していく。


「こりゃ驚いた……」

「確かに驚きますよね」


 治るのは良いのだが結構グロテスクな光景だ。

 私が男性を治療していると周囲に他の騎士たちが集まり出した。


「あの俺たちの怪我もなんか治っていて、それで微妙に元気になったんですけど……」

「それは私の領域にいるからですね。軽い治癒と活性の効果がある結界の中にいると思って頂ければ」


 私がそう説明すると騎士たちは目を丸くした。

 確かにすぐ理解するのは難しい能力かもしれない。

 私だって教会で最初説明された時は良く分からなかった。

 

「それは、どれぐらいの範囲で有効なんだ……?」


 先程よりは苦しさが和らいだ様子で治療していた騎士が言う。

 私は少し考えて答えた。


「王立学校の敷地内ぐらいでしょうか」

「……魔物たちにも同じ効果はあるのか?」

「聖属性の能力ですから、逆に弱体化すると思います」


 私が説明すると騎士はニヤリと笑った。


「つまり今なら楽に倒せるということだな」


 そう言って立ち上がろうとするのを私は慌てて止める。


「駄目ですよ、私は傷は癒せても失った血を全部戻すことはできないので……」


 注意している間に男性の体が傾く。

 貧血を起こしているのだ。


「リュカオン様!」

「えっ」


 そう騎士の一人が焦ったように叫ぶ。 

 私は間抜けな声を上げた。

 だって大聖女様に頂いた資料に載っていたのだ。


「リュカオンって……もしかしてリュカオン・ゴットフリート辺境伯様?」


 私がそう言うと、部下らしき騎士たちに支えられた男性は苦し気にしながらも笑った。


「……挨拶が遅くなって済まない、確かに俺が当代の辺境伯だ」


 この通りひよっこだがな。

 そうニヤリと笑って冗談を口にした後、彼は気を失った。


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