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第3話 王太子ティアロ

 珍しい生き物を構うような気持だったのだ。

 国王夫妻のただ一人の子どもだった自分は生まれた時から国王の地位を約束されていた。


 欲しい物は全部手に入る環境だったが、父も母も過保護で窮屈な思いを過ごした。

 婚約者のパールは美しく賢い少女だったが、それでも己の籠の鳥のような境遇を癒してはくれなかった。


 でも彼女は一つの未来を教えてくれた。

 王都の貴族たちは一定の年頃になると皆学園に通うようになるのだと。

 貴族たちが許されるなら当然王太子の己だって許されるだろう。


 父母に頼み学園への入学を許可して貰った。

 そこで一人の変わった少女に出会った。


 黒髪の聖女候補アイラ。

 生涯間近で見ることはないと思った平民の孤児。


 行儀作法も全然できない粗野な娘は、けれど確かに珍しく面白い生き物だった。

 だから構ってやったのだ。


 王太子自ら話しかけてやって、遊びにも連れ出してやった。

 彼女は国王の厚意で男爵家預かりになり学校に通わせて貰っているのだろう。

 なら贅沢も出来ないだろうし、自由に遊ぶこともきっと許されない。


 でも王太子である僕の命令なら誰も文句は言えない。

 折角だから町へ連れ出して物語で見たように買い食いもした。

 似合いそうなリボンも買ってやったら下手くそな笑顔をアイラは見せた。


 教会での暮らしは貧しく窮屈だったに違いない。

 だったら学校生活の数年ぐらいは僕の隣で楽しませてやろう。

 慈善行為のつもりでアイラに構ってやった。


 両親は僕が聖女候補に親切にしてやっていることを褒めてくれた。

 けれど婚約者であるパールは気に入らないようだった。


「ティアロ様、聖女候補に余りにも気を許し過ぎなのでは?」

「それは……僕の行動が間違っているということかな?」


 唇を尖らせた彼女に静かに問いただすと真っ青になって首を振った。

 ああ、可愛い。公爵家に生まれ僕程では無いが高貴な生まれのパール。


 学園では上級生たちを差し置いて女王のようにふるまっている。

 そんな彼女が僕の穏やかな問いかけに青くなり怯える。

 とても愛おしくて、凄く満たされる。


「大丈夫だよ、学園で飼われている子犬を可愛がっているようなものだから」

「子犬……」

「だって聖女候補とはいえ元は平民の孤児らしいじゃないか。僕たちと同じ存在では無いよ」

「ふふ、確かにそうでございますね」


 安心したようにパールが笑う。やっぱりアイラに対し嫉妬していたようだ。

 愚かでいじらしい僕の婚約者。

 彼女の嫉妬は気持ちいい。

 だからこれからもアイラを構ってあげることにしよう。


 そう思った矢先だった。



 ◆◆◆



「私などではなく婚約者であるパール様と遊ばれてはいかがでしょうか」


 そう強張った表情でアイラは僕に言った。

 よりにもよって人が大勢いるカフェテラスで。

 しかも張本人であるパールが近くにいる。



 まるで僕が無理やりアイラを構っているように見えてしまうじゃないか。

 こちらに恥を掻かせようとした彼女に、そうはさせまいと笑顔を浮かべる。

 

「アイラ、勘違いしないで欲しいんだが僕は君のことを小動物程度にしか思っていないよ?」


 今度は彼女が恥をかく番だった。

 パールも満足そうな笑みを浮かべている。


 わかっているよ。幾ら可愛らしくてもペットの躾はちゃんとしないとね。

 そんな軽いつもりでアイラに弁えさせる筈だった。


 なのに彼女は別人のように僕たちに暴言を吐き文字通り飛び去ってしまった。


「私は絶対にあなた方を癒しませんので」


 そんな聖女にあるまじきことを言って。


「ああ、駄目だ。これは父上にちゃんと叱って貰わないとなあ」

「ティアロ様……」

「大丈夫だよパール。ちゃんとアイラは捕らえさせた後で聖女に相応しく躾けるからね」


 僕がそう言うとパールはホッとした顔で微笑んだ。

 周囲の貴族たちもお願いしますと次々頭を下げる。


 アイラに歯向かわれて不快だった気分が少しだけ癒された。

 だからその時の僕は知らなかったんだ。


 帰城後に王妃である母に泣かれ国王である父に真っ赤な顔で叱られるなんて。


「お前を甘やかしすぎてしまった」


 それはあの生意気なアイラこそ言われるべき言葉じゃないかな。 

   

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