第35話 子供たちの要望
用事を済ませた私たちは二人で聖鳥を使い辺境へと戻った。
その途中で街に寄り宝石店に結果を話す。
店主さんに「悪徳商人の護衛たちは既に王都に帰った筈だ」と伝えられた。
聖鳥ならすぐだが馬なら数日かかる旅程だ。
途中擦れ違ったかもしれないが空と地面な為互いに気づくことは無かったと思う。
辺境伯邸に戻ると私は重傷者や浄化が必要な存在がいないことを確認し腕輪を付けた。
その上で救護室に行き、かすり傷でもいいので怪我人が出たら教えて欲しいと頼む。
「もしかしたら実験中でもそれを外して貰うかもしれない」
リュカオン様に言われたが当たり前のことだ。私は頷いた。
そしてその日は別れてそれぞれの仕事をした。
と言っても治癒も浄化も出来なくなっている私に仕事など無いのだが。
王都に行って帰って来たのにまだまだ寝るまでの時間はたっぷりある。
王太子たちの件さえ無ければリュカオン様に王都を案内して土産物を買うなどしたかった。
「ティアロと婚約……ねえ」
大聖女様に告げられたとんでもない内容を私室で一人呟く。
当然ときめく筈も無く、勘弁して欲しいというネガティブな気持ちになる筈だった。
彼の意思では絶対無いだろう。
ティアロは選民思想を拗らせている上に身分が高く美しい婚約者を彼なりに好いている。
好意の表現が歪んで試し行為が入り混じっていたとしてもだ。
貴族学園の図書室にあった身分違いの恋物語はフィクションなのにきっちり悲恋ばかりだった。
でも王都の本屋で人気の身分違いの恋物語はハッピーエンドが多くて両極端だ。
裕福な人間しか本なんて買えない。なのにこれだけスタンスの違いがある。
平民と貴族たちは別の人種みたいだ。
「多分平民側しか知らなければ、ハッピーエンドになると思い込むのでしょうね」
そう考えると大聖女様が私をあの高貴な生まれの子猿小屋に突っ込んだ理由もわかる気がした。
「駄目だわ、人間を平気で猿扱いなんてしたら……」
あの王太子と同じようになってしまう。
そう途中から心の中で呟くと扉が外から叩かれる。
「はい」
ドアを開けると小等部位の子どもたちが数人立っていた。
「あの、俺たちに勉強を教えてください!」
「えっ」
突然言われた台詞に驚いてしまう。
するとその男子よりも少し背が高い女子が彼を叱った。
「おバカ、まずご挨拶からでしょう! 私はローラと言います!」
「えっ、初めまして私はアイラと言います」
「俺はバート!」
「アタシはブレンダ!」
他の子供たちも続けて元気よく自己紹介をしてくる。
それが終わった後でしっかり者そうな女の子が本題に入った。
「聖女様って今まで凄い学校に通っていたのでしょう?」
「凄い……まあ凄いと言えば凄いかな?」
「私たちに学校で教わったことを教えて欲しいんです」
「ええ……」
正直困惑するしかない。
何故なら私は勉強が苦手で貴族学園では劣等生だったのだ。
そして勉強が出来る人が教えるのも上手く出来る訳では無いのも知っている。
学園側の余計な厚意で優秀な生徒に放課後家庭教師もどきを一時期して貰ったことがある。
彼女が私を見る目がどんどん険を帯び、常に苦しそうな顔をするようになったので止めて貰った。
あれは誰も幸せにならない。
たぶん当初の彼女が私をほんのりと嫌いだったら最後は消えて欲しいぐらい嫌いまで進化したことだろう。
「ごめんなさい、私別に成績が良かった訳でも無いし人に教えられる技術も無いのよ」
見栄を張って成績が良くないと言ってしまった。実際は明確に悪い。
「そうですか……」
子供たちは怒ることは無かったが、がっかりした様子を見せた。罪悪感が疼く。
「今まではどうやって勉強していたの」
「文字の読み書きは出来た方が良いので、そればかりです。あとは挨拶の仕方とか歴史とか家政とかを」
「野菜の育て方はわかる!」
「牛の乳しぼりもできる!」
「う~ん……」
年長に見える少女はそれだけでは足り無さそうな顔をしていた。
ここで教えられている知識は生きていく為に必要なことばかりなのだろう。
ただそれだけでは足りないとこの子たちは思っているのだ。
「……私は教会所属だから神学なら少し話せるかもしれない」
そう言うと子供たちは目を輝かせている。単純に学ぶことに飢えているのだ。
「でも人に講義したことはないのでわかりづらかったりしたら教えてください」
「わかりました!」
そしてその日から私は子供たちに教会で習ったことを教えた。
平和な日が続いたのかリュカオン様の計らいか怪我人は出ず、腕輪を付けた実験は続いた。
それから数日、辺境伯邸に予想外の人が訪れる。
「アイラ君がここにいると聞いて恥を忍んで押しかけました」
そう照れくさそうに言うのは貴族学園で教師をしていた男性だった。




