第30話 有り得ない質問
前の王都が放棄された理由は予想よりずっと重く陰惨な内容だった。
軽い気持ちで訊ねた訳ではないが少し後悔してしまう。
しかし私もショックだがリュカオン様の方がダメージは強いだろう。
命懸けで魔物たちと戦い続けていたのに、その理由が王家の愚行が原因だったのだから。
そして拷問の結果とはいえ加護を暴走させ王都を壊滅させた聖女。
彼女も被害者とはいえ、リュカオン様たちには関係ない。
聖女という存在に対し彼が壁を作るようになっても仕方が無いように思えた。
でも不安になる。
王太子たちに蔑まれ動物扱いされた時でさえ、こんなモヤモヤした気持ちにはならなかったのに。
だがそんな気持ちを吹き飛ばすような事を大聖女様が言う。
「ところで聖女候補アイラ、王太子ティアロの妻になるつもりはありますか?」
「……はあああああああ?!」
思わず無礼極まりない奇声を上げてしまう。
場所は特別聖堂、目の前には大聖女様。
数時間お説教されても仕方が無いような行為だ。でも仕方ないだろう。
「そ、そんなつもりなんてある筈無いでしょう!!」
怒りと焦りと絶望で赤くなったり青くなったりしながら私は叫んだ。
「聖女の地位には結婚し子を産んでも就くことが出来ますよ」
「そういうことではなくて!!」
「そうだ、そう言う事ではない。貴方は惨劇を再び繰り返したいのですか」
リュカオン様が刃物のような鋭さで大聖女様を批判する。
その声の冷たさと内容、そして大聖女様を非難する行為に私はひやりとした。
「つまり王家に仕える立場の貴方から見ても王太子はアイラの相手に不適切だと?」
「はい」
「そのように王族の前でも堂々と口に出来ますか?」
「大聖女様?!」
何という事を言うのだろう。
もしそんな事をリュカオン様がしたなら不敬罪で捕らわれてしまうかもしれないのに。
だがリュカオン様は大聖女様から視線を逸らさなかった。
「はい、何度でも口に出来ます。俺は辺境伯だが護る対象は辺境だけではない」
そう揺るぎない声で告げる彼の方がティアロより余程国王に向いているように思えた。
私が二百年前の聖女と同じ目に遭ったとして同じように暴走するかはわからない。
でも又王都やそこに住む人たちが被害に遭う可能性があるなら彼は否定するだろう。
「彼女が不幸になるとわかる婚約をこの俺がさせる筈が無い」
「えっ」
しかしリュカオン様が告げた理由は予想外だった。
「聖女アイラは俺や辺境を救ってくれた素晴らしい女性だ」
そう続けて言われて、私は何故か気持ちが重くなった。
多分リュカオン様に過大評価されていることにプレッシャーを感じているのだろう。
それよりも彼にだけ喋らせている訳にはいかない。自分のことなのだ。
「私は大聖女様の厳命で無ければ王太子との婚約などするつもりはありません」
つまりただの命令なら拒否するということだ。
逆に言えば絶対そうしなければいけないと大聖女様が判断するなら断るつもりはない。
貴族学園に通うようにと言われた時の事を思い出した。
あの時と同じぐらい、いやそれ以上に拒否したいが大聖女様には逆らえない。
緊張で体を強張らせる。
「私は命令するつもりなど一切ありませんよ。万が一の為に貴方の意思を確認しただけです」
「……へっ」
「有り得ないと思ったのですが、恋心というのは奇々怪々なものですからね」
どうしてあんな男が良いのかと思うような相手に入れ込む聖女も過去いました。
そんな風に世間話をするノリで話す大聖女様に脱力する。
「ぜ……絶対私は有り得ませんから!もし私が王太子大好きとか言い出したら狂ったか操られたかですっ!!」
「心から安心致しました。貴族学園に通わせた甲斐があります」
「……もしかして私を王太子殿下に幻滅させる為にあの時まで手出しをしなかったのですか?」
「ふふふ、どうでしょうね」
そう大聖女様は微笑む。
「当然ですが私も惨劇の繰り返しなど望みません。聖女があの時のように不幸になることも」
私にとって聖女たちは我が子のようなものなのですから。
慈悲深い笑みを大聖女様は浮かべる。
「それと貴方が使用していた神学の教科書などですが、聖女や教会についての描写が不足したり不適切な部分が散見されました」
これを知れただけでもアイラを貴族学園に通わせた甲斐はありましたね、
微笑みはそのままに大聖女様は寒気のするような声で言った。




