第29話 二百年前の惨劇
「……質問を、宜しいだろうか」
リュカオン様が大聖女様に声をかける。
その表情は強張っていた。
「どうぞ」
「聖女に加護の使用を無理強いした場合、加護は二度と得られなくなると俺は昔聞かされた」
「そうですね」
「しかし、それは今貴方の告げた内容と異なるように思える」
彼の指摘に私も内心頷く。
加護を使いたくないということは、それは自らの中の神が使いたくないと思っていること。
なのに無理やり加護を引き出そうとすれば御心に従わなかったという罪で聖女自身が神に罰せられるのだ。
結果加護が使えなくなる。
私はそう教会に教えられてきた。
大聖女様が先程お話になった内容とは確かにだいぶ違う。
「いいえ、異なりませんよ。その認識で合っています」
「だが……」
「二百年前の件は加護が使えなくなった状態の聖女にそれでも加護を使わせようとした結果です」
「それは……どういうことだ?」
リュカオン様が疑問を表情にも浮かべる。
恐らく私も似た表情をしている筈だ。
「わかりやすく言いましょう。加護を使えない聖女に王家が拷問をして力を使わせようとした結果王都はああなったのです」
私は絶句した。
「使えないを使わないと判断したのかもしれませんが、それでも許される所業では無いでしょう」
「……当然だ、そんなこと!」
リュカオン様が吐き捨てるように言う。私はその怒りに何故か少しだけ安堵した。
彼は私をちらりと見る。
「しかし、だとしたらよく教会は今でも王家に協力しているな……」
きっと私が貴族学園に通わされたことを言っているのだろう。
確かに私も疑問に思えて来た。心を鍛える為の修行も兼ねているというが、だとしても王家に都合が良すぎる。
「二百年前の国王夫妻もその子供らも聖女の加護が暴走した結果報いを受けましたので」
大聖女様がわかりやすく笑みを浮かべた。何故笑ったのかわからない。
珍しくも美しい表情の筈なのに見惚れるどころか背筋が寒くなる。
「……確かに全員死亡したとあったな。しかし王族は」
「辺境伯家に伝わる書物には聖女たちと共に最後まで残って瘴気に対抗し神に祈祷したとでも書いてありましたか?」
大聖女様のいっそ軽やかな声にリュカオン様は固い表情で頷く。
「当時の王弟にそのようにして欲しいと頼まれたのですよ。償いの為自死しその子息が教会へ遺書を持って来ました」
事実を公表すれば民は王家も聖女も憎み或いは恐れ国は滅んでいたでしょうから。
大聖女様は言う。
「じゃあ、今の王家って……王弟の子息達から続いているものですか」
「そうですよ、アイラ」
大聖女様は私の質問を肯定した。国王夫妻と子供が死んだということで教会的に罪人は裁かれたという認識なのだろうか。
王都だった場所が住めなくなる程だ、大災害だったのはわかるが予想以上の血生臭さだった。
当代の王太子ティアロはこのことを知っているのだろうか。内心で否定する。
きっと彼は知らない。それか知っていても信じてはいない。
聖女の恐ろしさを彼はわかっていないのだ。
たった二百年なのか、もう二百年なのか。
私は胸が重くなるのを感じた。
「大聖女様、何故王家は無理やり聖女に力を使わせようとしたのですか?」
「その聖女の加護は天候制御、そして当時は半年近く雨が降らず土地が枯れつつある状況でした」
「それは……加護で雨を降らして欲しかったということですか」
「ええ、雨を降らせる為に王家は聖女に拷問を繰り返し結果として雨が降りました」
城を真っ二つにする雷鳴と共に血のように赤く大地を汚染をする雨が。
そう大聖女様は見てきたように告げた。




