第28話 大聖女の告白
命じられた通りに特別聖堂へリュカオン様を連れて行く。
目的地が近づくにつれ擦れ違う人が少なくなり空気が変わっていく。
教会の最奥にあるその部屋の扉は私たちを待ちかねたように勝手に開いた。
リュカオン様は怪訝な顔をしたが何も言わない。
雑談が許されるような状況じゃないと判断したからだろう。
赤子を抱く女神像を背に大聖女様は立っていた。
真っ白な髪は老婆というより極上の絹糸のようだ。
背後の女神像も白い為いつ見ても女神が二人いるような錯覚に陥る。
或いは女神が生きた人間の姿を取ったのが大聖女様なのでは無いか。
そんなことを考えたりもした。
「大聖女様、辺境伯様お連れいたしました」
「お初にお目にかかります、私はリュカオン・ゴッドフリート。当代の辺境伯です」
私の言葉に続いてリュカオン様が挨拶をする。
礼儀正しく自己紹介をする彼は少し緊張しているようだ。
「ふふ、貴方はお父様によく似ていらっしゃいますね」
「こ、光栄です!」
大聖女様から神々しい微笑みを向けられリュカオン様は慌てて返事をする。
普段は豪胆な彼がここまで委縮するなんて珍しいと思った。
(それだけ大聖女様にプレッシャーを感じているのかもしれない)
教会の実質トップである彼女は、ある意味でこの国のトップでもある。
そんな相手と初めて言葉を交わすならそれなりに緊張はするだろう。
(それに大聖女様は女神のようにお美しいし)
国一番の彫刻家が彫り上げた女神像のような彼女だが今日は普段より雰囲気が柔らかい気がした。
その理由が何なのかはわからない。
「聖女候補アイラ、辺境で務めは果たしておりますか」
「えっ、あっ、はい」
突然話を振られて私はリュカオン様以上に慌てた。
「はい、聖女アイラが救援に来てくれたことは辺境で戦う我らにとって奇跡のようなものです」
私の代わりとでも言うようにリュカオン様が返事をするる
しかし持ち上げられ過ぎて気恥ずかしくなった。
「奇跡……アイラの力は貴方たちにとって助けになっているようですね」
「それはもう」
「ならば何故貴方は彼女の助けを求めようとしないのですか」
「……っ」
大聖女様の言葉にリュカオン様が目を見開く。
私も内心同じように驚いていた。
大聖女様は何故私の助けを求めないのかリュカオン様に問うた。
いや問いかけと言うより糾弾のようなものだ。
つまり彼は私の助けを必要としていることがあって、でもそれを隠し続けていたということだ。
そして私はそれに一切気づかず暢気に暮らしていた。
少しだけ、気分が重くなった。
ただそれを今問いただすことは出来ない。
特別聖堂、何より大聖女様の前で諍いなど起こせる筈が無い。
「アイラの力を疑うということは女神を疑うということ、それを忘れないように」
「……肝に銘じます」
大聖女様の大袈裟すぎる言葉にリュカオン様は真剣な顔で頷く。
これなら後で必ず話して貰えるだろう。
しかし加護は神から与えられているとはいえ、女神と同価値のように扱われるのは荷が重い。
聖女の加護自体が女神の力だという解釈の上で大聖女様が口にされているのはわかっているけれど。
「あの罪人たちについては教会で取り調べた後、処遇を決めます」
「……つまり国への届け出については」
「必要なら私たちが手続きを致します。命までは奪いません」
「……かしこまりました」
リュカオン様は厳粛な顔で答える。
大聖女様は命までは奪わないと一見慈悲深いことを仰っているが、逆に言えばそれ以外の罰は下すということである。
私も自分について出鱈目を吹聴されかけ大分腹が立っていたが教会側はもっと激怒しているということだ。
まあ仕方が無い。もしジョンたちの目論見通りに商談が決まったなら辺境は聖女のせいで大量の金銭を失う羽目になった。
それは辺境と聖女、そして教会側の軋轢を生みだしかねないことだったのだ。
「では私からの話は以上です」
大聖女様が話を切り上げようとすることに気付く。
リュカオン様も特に不服は無いようで静かな表情をしていた。
けれど私は何故かその時このまま話を終わらせてはいけないような衝動に駆られた。
今この場で訊かなければいけないことがあると思った。
「大聖女様、一つ質問をしても宜しいでしょうか?」
「何でしょう、聖女候補アイラ」
彼女のクリーム色の瞳で見つめられ、今更だが緊張する。
こんな風に衝動的に呼びかけたことなんて初めてだ。
しかも今から口にする内容を考えればどうしたって声が震えた。
「元々は王都だった辺境があのような巨大な瘴気に覆われたのは、王家が原因なのでしょうか」
「そうです、彼らが一人の聖女に無理やり加護を使わせた結果あのような有様になったのです」
まるで私の問いかけを予想していたように大聖女様は即答する。
私はその返答に絶句する。
傍らのリュカオン様が目を大きく見開いたのがわかった。




