第27話 聖女がいっぱい
言われた通りに教会の裏庭に着陸する。
説明された通り誰も居なかったが聖鳥が地面に足を着けた途端一人の女性がやって来た。
「エアリス先輩!」
「待っていたわよ~アイラちゃん」
ふわふわとした髪を揺らしてエアリス先輩は言う。
「彼女も聖女か?」
リュカオン様に尋ねられ私は頷いた。
「はい、エアリス先輩は……」
「じゃあみんな運んじゃうわね~」
「うわっ?!」
私たちの話に割り込むようにおっとりとした声が投げられる。
瞬間その場にいたエアリス先輩以外の人間の体がふわりと浮かんだ。
アッくんはタイミングよく小鳥に戻り近くの木にとまった。
こうなることを予想していたのかもしれない。
「えっと、エアリス先輩は浮遊の聖女なんです」
「……成程、よくわかった」
ぷかぷかと浮かびながら私は同じように浮かんでいるリュカオン様に告げる。
ちなみに私は彼女が納屋を中身ごと浮かせて移動させているのも見たことがある。
「うわっ、なんだこれは?!」
「わっ、おいっ、おろせ!」
「流石に目が覚めたか、俺たちは下ろしてくれないか?」
両手両足を縛られ気絶していた罪人二名が騒ぎ立てる。
悪人だが寝起きは良いようだ。
リュカオン様が頼んだお陰で私たちは地面に戻ることが出来た。
「縛ったり気絶させたり浮かせたり好き放題しやがって!俺は男爵家の人間だぞ!」
「あらあら~ちょっと騒がしいわね」
そうエアリス先輩が呟くと同時に二人の体は垂直に浮かび上がった。
あっという間に豆粒より小さくなったと思ったら、即落ちて来る。
「危ないっ!」
リュカオン様が私を庇うようにしたが私は特に動じなかった。
「うふふ、大丈夫ですよ~制御は得意なんですぅ」
そう癒されるような笑顔を浮かべながら言葉通りエアリス先輩は元の位置に商人とジョンを戻した。
二人とも大量の氷水に裸で突き落とされたように真っ青な顔をしている。血色のいいピンク色の頬のエアリス先輩とは対照的だ。
「教会では~お静かに、ねっ?」
彼女の言葉に罪人二人は無言でコクコクと頷いた。
「ふふ、悪い子だけど良い子~じゃあティティアちゃんの所に連れて行くわね~」
そう言ってエアリス先輩は二人を浮かせたまま私たちに手を振って行ってしまった。
「……その、ティティアちゃんというのも」
「聖女です。ティティア先輩は真実の加護を持っているので二人を自白させるのかと」
私がそう説明するとリュカオン様は溜息なのか感嘆なのか判断しづらい嘆息をした。
「しかし聖女って色々な加護持ちがいるんだな」
私はその発言に対し少し考えて口を開く。
「聖女に色々な加護持ちが居るというか、特殊な能力を持っているから聖女と認定される感じですね」
「……初耳だ」
「神から授かった能力を悪用や過度な私用化されない為に強力な加護持ちは教会で管理庇護するということらしいですけど」
「ああ、そういうことか。確かに好き放題使われたら大分不味い」
もう姿の見えなくなったエアリス先輩の居た場所を見つめリュカオン様は言う。
リュカオン様には言わないけれど彼女の両親は盗賊だった。
浮遊の能力に気付いた親たちは子供だったエアリス先輩を言いくるめて牛や豚、時には倉庫を丸ごと盗ませていた。
幼く何も知らなかった彼女はそれが罪だと知らず両親に褒められて嬉しかったと昔話してくれた。今はそれをとても後悔しているとも。
「二人は連れていかれたし、俺たちはどうすればいいんだ?」
「そうですね……」
リュカオン様に次の予定を聞かれて私は首を傾げる。
すると様子を見ていたかのように眼鏡をかけた女性が私たちの目の前に出現した。
出現したというのは少し間違いかもしれない。
何故なら彼女は透けていて本人ではなく幻なのだから。
『二人とも、特別聖堂へ。 大聖女様がお待ちです』
そう用件だけ告げると幻は消える。リュカオン様はぽかんとしていたがすぐに気を取り直して私に訊いて来た。
「今の女性は……」
「伝達の聖女イリス先輩です」
「……本当に色々な聖女がいるんだな」
ちなみにイリス先輩は動物たちの目を借りることが出来る物見の聖女レダ先輩と組んでいる。
つまり今はちゃっかり私の肩に乗っているアッくんの目を借りてレダ先輩が状況を把握し、イリス先輩に伝達の指示を出したのだろう。
もしかしたら他の鳥や小動物、もしくは昆虫などの目を借りているのかもしれないが。
ただそのことはリュカオン様には言わないでおいた。
慣れていないと神経が参ってしまいそうなので。
「そうですね、では大聖女様の元にご案内いたします」
「大聖女様か……なんだか緊張してきたな」
国王陛下に謁見した時より緊張しているかもしれない。
リュカオン様は真顔で言った為、それが冗談なのか本気なのか私は区別がつかなかった。




