第26話 夢渡りの聖女
「それって……瘴気を発生させたのは王……」
「う、う~ん」
恐る恐る聞こうとしたが途端ジョンが唸る。
反射的に肩をビクリと跳ねさせる私とは裏腹にリュカオン様は少し驚いただけだった。
「おっと」
そう呟くとジョンに近寄って色々確かめている。
「何をされているんですか」
「ただ寝てる訳じゃなくて俺が気絶させたからな、念の為確認だよ」
でも問題無さそうだな。
そう言ってリュカオン様はジョンから離れた。
「よく考えたら今は君の治癒の範囲内に居るんだ。心配することも無かったかもな」
「いえ……私も自分の治癒がどれぐらいまで治せるか実はよくわかっていないので」
「頼まれて怪我人を治したりとかは」
「何もしなくてもある程度の時間効果範囲に居れば治るので」
「成程」
「ただ教会に連れてこられた人の為を治癒したことはあります。相手の姿は見えませんでしたけど」
「どういうことだ?」
不思議そうな顔でリュカオン様が問いかける。
私は当時のことを思い出した。
「私は患者さんの隣の部屋に連れていかれて、患者さんの状態だけ教えられて祈るんです」
「……それで治るのか、いや治るんだろうな」
「はい」
「しかし何でそんなことを……」
「子供の私に見せるには怪我が惨い状態だと説明を受けました」
「ああ、そういうことか」
リュカオン様は納得したように言った。
ただ今の私はそれだけが理由なのかと思っている。
その患者を私に見せたくない、もしくは私がその患者を見ていけない理由があったのでは無いかと。
ただそれが事実だとしても文句を言うつもりは今のところ無いけれど。
私は別に全ての嘘が悪いなんて思っていない。
建前も心にもない言葉も必要だと貴族学園での日々で学んだ。
(なのに生徒達のトップである王太子殿下が悪い意味で裏表が無かったというね)
ティアロはペラッペラの紙だった。彼は何も隠していなかった。
ただその裏側を私含め見ていなかっただけで。
「おっ、城が見えてきたな。流石の速さだ」
リュカオン様の言葉で私は顔を正面に向けた。
確かに王城が小さくだが見えている。
その傘下には貴族たちの邸宅や学園、そして平民たちの暮す街が広がる。
そういえばと私は思い出しました。
「王都に入るのだから門番には事情を話すべきでしょうか」
「俺が話そう。聖鳥を一定の高さで停留させるのは出来るか?」
「出来ます」
簡単な打ち合わせをする。
そして王都の門近くまで来たところで私は聖鳥の高度を下げた。
「これぐらいでいい」
「まだ地面までかなりありますよ」
「大丈夫だ、俺が下りたらすぐ高度を上げてくれ」
そう言って笑うとリュカオン様はあっさりと二階ぐらいの高さから飛び降りた。
「うわっ、凄い」
難なく着地してスタスタと歩いていく後ろ姿を見送り呟く。
「アッくん、もう少し高く出来る?」
「ピィ」
私は聖鳥に指示をしてリュカオン様の言う通り高度を上げた。
地面の彼が豆粒ぐらいに見える。
「これぐらいでいいよ」
そう告げて私は気絶しているジョンと悪徳商人を観察する。
二人とも目を覚ます気配は無い。
もし目を覚ましても両手両足を拘束されてるので何もできない。
せいぜい転がって落ちるだけだ。
暇潰しに王都の門を行ったり来たりする人々や馬車を眺める。
その中の一台が気になり目で追う。
「あっちって……辺境じゃない?」
そのせいか同じ方向へ走る馬車は他にはいない。
何の用なのだろう。私は首を傾げた。
暫くするとリュカオン様らしき豆粒が門から離れていく。
そして人の居ない場所でこちらに向けて手を振っているようなジェスチャーをした。
「行くよアッくん」
そう聖鳥に話しかけ彼の元に向かう。
予想通り合図を出していたのはリュカオン様だった。
「待たせたな、話は済んだ」
「大丈夫でしたか?」
「ああ、何故か教会側から既に指示が通っているみたいだった」
「教会から?」
「裏庭には誰も近づけないから安心するようにという言伝てまでされていたみたいだ」
君が教会に事情を話しておいたのか?
そう尋ねられ首を振る。
「私はしていませんけれど……あっ!」
「どうした」
「そういえば……昨夜夢で話したかもしれません」
「夢で?」
だからどうしたと言いたそうなリュカオン様の気持ちはわかる。
しかしあれはただの夢では無いのだ。
「きっと昨夜話した相手は夢渡りの聖女だったのだわ」
「夢渡りの聖女?」
「はい、彼女が起きている姿を私は一度も見たことないですが」
もしかしたら今日は見られるかもしれない。
私はアッくんに教会の裏庭に下りるよう指示をした。




