第23話 馬鹿な生徒の借金理由
「どうして、あんな悪質な嘘を吐いたんだ?」
リュカオン様が対面に座るジョンに言う。
私は店主さんに譲ってもらった席に座り少し前まで同級生だった少年を見つめた。
彼は顔を青くして視線は決してこちらを見ようとしない。
その口は閉じたままだ。
「早く言わないか馬鹿者!」
「痛っ」
ジョンの横に座っている悪徳商人がそんな彼を小突く。
騙されたという苛立ちもあるのかもしれないが、彼を被害者だとは全く思わない。
(ジョンの嘘が神すら騙せる程完璧だったなら別だけれど)
でもそんなことは有り得ない。
何故なら彼は基本的に考えなしなのだ。
教会が実家や親類の顧客であるというのに私に対し酷い態度だったことからもわかる。
「それは……だって、急に学園を辞めろって言われたから」
「退学させられたの?」
少しだけ驚く。彼は私の台詞に反応したのかこちらをキッと睨みつけた。
「他人事みたいに言うな、全部お前のせいだ!」
「違う」
ヒステリックなジョンの台詞を短いが岩のような重さの声が潰す。
リュカオン様だ。彼は普段の気さくな様子が嘘のように鋭い瞳で相手を見ていた。
「いいか、お前が間違えたのはお前のせいだ。二度と彼女のせいにするな」
「う……」
尻尾を巻いた犬のようにジョンは項垂れる。
私は話を進める為に再度彼に声をかけた。
「退学させられたのは私に暴言を吐いたから?」
「……違う」
「違う?」
私が聞き返すと彼はぽつりと、王太子に悪影響を与えたからと言った。
「俺が不良生徒で殿下の思想や言動に悪い影響を与えたから、責任をとるべきだって……学園長と担任が」
私はその言い分に心から呆れた。
(笑えるわ、あの生まれつき傲慢な子供が見下している相手を真似る筈など無いのに)
そう、ティアロ王太子殿下が見下しているのは元平民孤児である私だけじゃない。
きっと貴族学園の生徒も、いや教師さえも全員下に見ていた筈だ。
婚約者のパール公爵令嬢だけは特別扱いしていたかもしれないけれど、それでも格下であることには間違いない。
将来の妻として決められた彼女を放置して私にばかり構っていたのだから。
あの公爵令嬢はきっちり私に悪感情を持っていた。
彼女の高潔ぶりたい精神はそれを否定するかもしれないが確かに嫉妬していたのだ。
(教師も学園長もそんなことわかっている筈……ジョンはただの生贄ね)
ティアロの傲慢さと身勝手さを教師陣たちさえわかっていなかったら、子供を導く仕事には全く向いていないと思った。
「つまり学園側は王太子殿下が聖女候補に暴言を吐いたのは全部貴方のせいってことにするのね」
「あんなの、俺のせいなんかじゃない……!」
「そうね」
私はジョンの言葉に同意する。それは事実だと思ったからだ。
けれど何を勘違いしたのか彼は期待したような目でこちらを見て来た。
「アイラ、俺の無実を信じてくれるなら学園に戻って弁護してくれないか?」
「生意気な孤児はこの学園から出ていけと叫んだ貴方を? 言われた私が? どうして?」
畳みかけるように笑顔で返すとジョンは完全に沈黙した。
「それより知りたいのは何で横の商人相手に大嘘を吐いたのかってことよ。悪口を言う相手を完全に間違えているわ」
退学させられた八つ当たりで私に責任転嫁したかったのはわかる。
けれどそれを宝石商人をやっている伯父になど言うからここまで大事になった。
「それは……伯父さんに借金を申し込んだら、金になりそうな話を聞かせろと言われて」
「借金?」
「実は……退学の件で父親に怒られて、下手したら跡継ぎから外されそうなんだ」
「へえ……それで何で借金を?」
心から理解出来なくて私は問いかける。ジョンはそんな状況じゃないのにへらりと笑った。
「今までかかった学費について文句を言われたから、下町の賭博で稼いで黙らせてやろうと思って……」
「はあ?!」
「……呆れるほどの大馬鹿だな。貴族学園に通ってその頭か」
下手したらではなく確実に後継から外されるだろうな。
リュカオン様は何とも言えない表情で言った。
どちらかというとジョンの方が王太子殿下の下町遊びの影響を受けて道を踏み外した気がする。
けれど完全に自業自得なので私は擁護する気は一切無かった。




