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第22話 苦しむ王太子ティアロ

 最近体調がずっと悪い。だから学園にも行ってない。


 いつもでは無いけれど急に咳き込むことが多くなった。

 そして一度咳き込むと中々止まらない。そんな不格好な姿を生徒達に見せたくはない。


 以前から入浴後や夜に軽く咳き込むことはあった。けれどこんなに苦しくは無い。

 最近など寝ている時に咳き込み過ぎて胃液が出ることもあり、酷く不快だった。

 子供時代を思い出す。子供の頃の僕は体が弱かったらしい。


 だからこうやってベッドで良く咳き込んでいた。

 でも成長して大人の体に近づけば徐々に良くなる筈ですと医者は言った。

 実際その通りでずっとこんな不快な苦しみなど感じることは無かったのに。


「それは治癒の聖女に貴方が貼り付いていたからでしょう」


 僕の部屋に見舞に来た母上は冷たい顔でそう言った。

 初めて見る表情だからか彼女は老けていて別人に思えた。


 でもその声は確かにこの国の王妃の物だ。

 だとしても苦しむ息子にかける言葉でも向ける表情でもない。


 内心狼狽えながら僕は言葉を返す。


「……どういうことですか?」

「そのままの意味です。貴方はそもそも子供の頃からずっと喘息を患っている筈です」


 常時その状態に戻っただけでしょう。

 疲れたような顔で王妃は告げた。


「確かにそうだけれど、ゲホッ、ここまで辛くありませんでした」

「辛さを忘れていただけでしょう」


 素っ気なく返した母親は、けれど急に悲しそうな顔になった。


「貴方を健康な体に産んであげられなかったことは申し訳なく思っております」

「なら……」

「だからこそ、治癒の聖女には貴方の側にずっといて欲しかったのに」


 だから貴方が彼女と親しくしていると知って喜んでいたのに。

 僕は大きく目を見開いた。そんなことは初耳だった。


「だったら何故最初から彼女を僕の側妃に選んでくれなかったのですか?!」


 予想以上に大きな声が出る。母は肩をビクリと振るわせたがそれどころでは無かった。

 その後激しくむせて、体を折り曲げて不快な衝動に耐えた。


「貴方たちがっ、命令してくれれば、こんなことは起きなかったのに!」

「……聖女に一方的に側妃になれなど、王家が命令できる筈無いでしょう」


 いや誰も命令などできない。母は苦しげに言う。

 この国に住む人間に王家が命令出来ない?

 有り得ないことを言う母に何故か笑いたくなった。


「何を言っているのです? まさか教会や聖女が僕たち王族より偉いとでも?」

「そういうことではありません!」


 不機嫌な表情で母は返す。そのことに内心安堵した。

 良かった、彼女は教会や聖女の信者や奴隷などでは無かったのだと。


「いいですか、聖女の力は繊細な物。無理やり力を使わせようとすれば消えてしまうのです」

「……何だって?」

「神学の受業で学んだ筈ですよ」

「それは……忘れてしまったと思います。王太子として覚えるものが多すぎたので」


 僕が試験の結果が常にいいのは、記憶の取捨選択が出来るからだった。

 過去に覚えてもう使わない知識は捨てて、試験に必要な知識を詰め込む。

 僕はこれが出来るから試験の数日前から真面目に勉強するだけで学年のトップになれたのだ。

 

「聖女と一緒に学園で過ごすなら何よりも必要な知識です!」

「そんなこと今更言われても……」

「私たちが欲を出し過ぎました。恋仲にならなくても貴方に対する強い嫌悪さえなければ卒業後も時々は治癒に応じてくれたでしょうに……」


 そう言うと母は溜息を吐き出して部屋を出て行った。

 無力で、無能な人だ。息子が苦しんでいるのに何もできない。


 彼女が僕を健康な体に産まなかったのが悪いのに。


「ああ、ゲホッ、でも、ひとつだけ……」


 心が軽くなることを教えてくれた。


「この僕が平民なんかに興味を持ったのは、あの娘の能力のせいなんだね、ハハッ」


 確かにアイラと居た時はいつだって体が楽だった。

 今だからわかる。


 だから僕はあんなつまらない娘に構ってやっていたのだ。

 万が一にでも恋などではなかった。僕は人間の姿をしただけの獣になど欲情しない。


 でも、やっぱり僕にはあの黒髪のペットが必要だ。

 アイラが望んで僕に尽くすようにするにはどうすればいいのだろう。


 人質とかをとっても駄目なのだろうか?

 一度婚約者のパールや取り巻きたちに相談しよう。


 皆だって中心である僕に早く元気になって欲しい筈なのだから。


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