第19話 嘘吐き商人とその甥
リュカオン様は私を町に一軒しかない宝石店に連れて行った。
宝石店と言っても王都のように敷居が高い感じは無い。
店頭では屑石が量り売りされていて小さな女の子たちが吟味して小瓶に入れていた。
その店の裏手からまるで従業員のように手慣れた感じでリュカオン様は中に入る。
「邪魔するぞ」
「若様?!」
「若様はもう止めろ、俺も良い年だぞ」
無断侵入に対し驚く髭の店員にリュカオン様はまだ十八歳の癖にそんなことを言った。
「若様が良い年なら私など墓の下です」
「縁起でも無いことを言うな。店主、それより話がある」
そう言いながらリュカオン様は相手に耳打ちをした。
ふむふむと頷いた店員にこちらへどうぞと案内される。
そこは一つの机と一つの椅子しかない小さな部屋だった。
「君が座ると良い」
私に一つしかない椅子を譲りリュカオン様は壁に近寄った。
「やはりわかりますか」
「わかる、ここだけ壁が薄いな」
コンコンと叩きながらリュカオン様は悪い笑みを浮かべた。
「内緒話をしない限り商談部屋の会話は筒抜けになる筈です」
「不味いと思ったら乱入していいか?」
「どうぞ。ただこの部屋の会話も商談部屋に筒抜けですので変なことはしないように」
先程のリュカオン様と似たような笑みを浮かべ店主が言う。
何故かリュカオン様が派手に咳き込んだ。
「馬鹿か!」
「お静かに、咳でさえ丸聞こえですからな」
そう言って店主は部屋から出ていく。
私もリュカオン様の横に立って壁に耳を当てた。
「聞こえますかな」
「あっ、聞こえます!」
「それは良かった」
私の行動が見えているかのよう壁の向こうから質問される。
びっくりしながら返事をすると優しい声が聞こえた。
「では頼むぞ。奴らが来たらなるべく失言を引き出してくれ」
「かしこまりました。それでは又……」
壁の向こうからそれ以上何の声も聞こえなくなる。
リュカオン様は壁に背を当てて座り込んだ。
私は椅子へと遠慮なく座る。
座ったままでも壁の向こうの声はある程度聞こえるのを確認したからだ。
その分物音を立てないよう緊張しながら私たちはその時を待った。
何かの修行みたいだ。
本当に怪しい商人たちとジョンがこの店に来るのだろうか。
そう疑い始めた頃壁の向こうから声が聞こえた。
「どうぞこちらへ、今飲み物を持ってこさせます」
「フン、相変わらず宝石店の商談室とは思えない粗末……いや素朴さだな」
失礼過ぎる発言に追従するように下品な笑い声が複数聞こえた。
「いやはや、そちらの学生さんは御子息ですか?」
「いや私の甥だよ。妹が貴族に見初められ産んだ未来の男爵家当主だ」
「成程、道理で品がおありで。その制服も王都で名門と有名だとか……」
「ハッ、こんな辺境でもティーロ王立学園の名声は響いているか」
得意げなジョンの声が聞こえ眉を顰める。貴族学園ってそんな名前だったのか。
多分聞いたことも見たこともあるけれどすっかり失念していた。
貴族だらけの学園というイメージが強すぎたせいだ。
「実は甥のジョンからとんでもないことを聞いてな……まず浄化石だが、卸値を今後五倍にさせて貰う」
「何ですと?!」
店主がわざとらしく驚く。
恐らくリュカオン様から事前にとんでもないことを言われると耳打ちされていたのだろう。
「いやいや仕方ないのだ。甥の通う学園を加護する役目の聖女見習いが逃げ出したからな」
「そうなんだ。王太子殿下に勝手に片思いした挙句当然だが告白を断られて逃げたんだ……女はこれだから駄目だな」
「結果、学園の加護が無くなり浄化石が大量に必要になったんだ。ここに持ってくるのだって頑張ったんだぞハッハッハ」
声を出さなかった私を誰か褒めて欲しい。
浄化石の不当な値上げの理由にされたと思ったら、退学した理由に大嘘を広められている。
もし私が青筋を立てて泣く子も黙る形相をしていても許される筈だ。
リュカオン様が振り向いて自分の唇に人差し指を立てる。
わかっている。まだ突撃する時ではない。しかしその時が来たら遠慮などしない。
私は唇を噛みしめながら笑顔で頷いた。




