第17話 門番によるチェック
リュカオン様に指示された通り人気のない場所にそっとアッくんを着陸させる。
そして元の小鳥の姿に戻った彼を肩に乗せた。
私に対しリュカオン様は普段よりも声を潜めて言った。
「町中で君の治癒能力について俺が許可するまで話さないで欲しい」
「浄化については話しても大丈夫ですか?」
「そうだな……聖女リサと同じ程度と思われるようにふるまって欲しい」
嘘にならない範囲で。
そう微妙に難しい指示をリュカオン様は出してくる。
「でも町中に怪我人とかいたら自動的に能力は発動してしまうのですが」
「黙っていれば用を済ますまではばれないだろう」
「やっぱり知られると不味いんですか?」
私が聞くとリュカオン様は少し表情を陰らせた。
「……最悪、町と騎士団で君の奪い合いになるからな」
「成程……気を付けます」
そう返事をしつついまいちピンと来ないがそういう状況になるのは駄目だということは判断出来た。
私が快諾するとリュカオン様はホッとした顔をする。
流石にこの状況で駄々をこねる程強情ではないのでもう少し信頼して欲しい。
「感謝する。じゃあ行こうか」
そう言って彼は町の入口へ歩き出した。
私もその後ろをついていく。暫く歩いていて気付いた。
リュカオン様と私は足の長さに大分差があるのに彼はいつも手を伸ばせば触れられる位置に居る。
(王太子殿下と大違いだわ……)
彼は私を構う割には、興味が無い時は平気で離れて好き勝手していた。
街で服の試着をさせておいて、着替えた時にはいなかったこともある。
彼には従者みたいな生徒が複数人ついていて、その中の一人が私を不機嫌そうに待っていた。
そしてお前がだらだらと着替えているから俺は置いていかれたのだと私に怒ったのだ。
別に着替えにそこまで時間をかけたつもりはない。
それに店員に変える旨を伝えてくれたら私だってさっさと男爵邸に帰った。
「女を一人で歩かせないという殿下の優しさがわからないとは、所詮平民だな」
そう馬鹿にして笑った声だけはまだ覚えている。
だってあまりにも変な言い分だったからだ。
「すまない、先に行き過ぎたか」
過去を思い出し無意識に足を止めていた。
申し訳なさそうにリュカオン様が戻って来る。
「いえ、大丈夫です」
「君は大丈夫が口癖な気がするが……あまり無理はしないでくれ」
俺の立場で言えた義理では無いが、そう力無く笑う彼に私も笑い返した。
リュカオン様は優しい。でも本当に私は大丈夫なのだ。
無感情という訳では無いだろうけれど、耐えることには慣れている。
元々孤児だったと言うこともあるが学園生活という苦行で大分鍛えられた。
王太子殿下に連れ回され色々な場所に遊びに言ったのに、楽しかったことなんて一度も無かった。
「おや、若領主様」
「息災か、門番」
「お陰様でこいつともども生きてますよ」
木造りの門の前で中年男性とリュカオン様が笑顔で挨拶を交わす。
門番らしき男性は鳥籠を横に置いていた。
その中には黄色い小鳥が備え付けの棒の上にちょこんと止まっている。
「彼女が新しい聖女だ。既に俺たちは浄化を済ませてある」
リュカオン様に紹介されて私は無言で頭を下げた。
下手な事は言わない方が良い。
「ああ、聖女リサ様の後任ですか。大分お疲れでしたからね」
「そうだな。無理をさせてしまった。」
顔見知り同士でするような会話をしながら門番のおじさんは鳥籠を持って私たちの前をグルグルと回っている。
何をしているかよくわからないがリュカオン様が止めないでいるので私も無抵抗で居た。
そして何周かして満足したのがその奇行が止まる。
「こいつも元気そうだ。町に入って貰って大丈夫ですよ」
「ああ、お勤めご苦労さん。お前もな」
優しい声でリュカオン様は黄色い小鳥を労った。
流石に疑問が顔に出ていたのか私を振り返って説明してくれる。
「この鳥はとても繊細で瘴気が近くにあるとすぐ体調を崩すんだ」
「つまり本当の門番は俺じゃなくこいつなんですよ」
門番の言葉に黄色い小鳥がか細く鳴く。
確かに繊細そうな鳴き声だった。
「汚染された人間を入れちまったら下手したら町が滅んじまう」
中年男性の言葉に私は以前聞いた汚染された旅人を埋葬しただけで滅んだ村の話を思い出した。
「領主様や騎士様には申し訳ないし旅の連中に無礼だって怒られることもあるけど、これだけは止めちゃ駄目なんです」
「ああ、俺もそう思う。最優先すべきは住人の安全だ」
リュカオン様は門番にそう言って笑う。
ホッとしたような顔をした彼と籠の鳥に見送られて私たちは町中へと足を踏み入れた。




