第14話 リュカオン様の提案
王都に吸い込まれていくリサ先輩を聖鳥の背で見送りながら考える。
私も少しだけなら城下街を歩いても良いのでは無いかと。
でもリサ先輩の捕獲命令の言葉を思い浮かべて止めることにした。
「子供たちにお菓子や玩具を買っていけたら良かったんだけど……」
ポケットから出した財布を弄びながら残念に思う。
辺境伯邸の敷地内には幾つか一軒家がある。
そこでは使用人夫婦とその子供たちが暮らしていた。
瘴気の結果、辺境を自由に行き来することは難しく屋敷の住人は半分隔離されているようなものだ。
結果使用人同士や騎士と結婚することも珍しくないらしい。
子供たちは屋敷の皆に見守られ辺境伯が手配した教育を受け育つ。
暮らしに不自由は無いようだが、それでも王都に憧れはあるようだった。
「……王都に生まれたからって、良い事ばかりじゃないけどね」
王都の中央にある広い公園。その真ん中にある巨大な女神像を見つめながら私は呟いた。
物心ついた時には親がいなかった私は、他の孤児たちと物乞いをしながら暮らしていた。
人が集まる女神像の下で裕福そうな人たち相手に物や金をねだって、追い払いに来る衛兵たちから逃げ回っていた。
私の能力のせいか私も他の孤児たちも怪我や病気にはならなかったけれど、雨雪は冷たいし飢えは満たされることは無かった。
けど辺境伯の敷地内で生まれたならそんな思いはしなくて良かっただろう。
立場の割に気さくなリュカオン様の笑顔を思い出す。先代辺境伯様は別の場所で療養中ということでまだお会いしたことはない。
けれど使用人たちの話を聞いていると親子で慕われていることがわかる。
貴族学園では口先だけの平等が唱えられていた。
王太子も婚約者の公爵令嬢も同じ生徒だと言いながら、全くそんなことは無かった。
きっと彼らが白い薔薇を黒だと言えば教師でも黒だと言う、間違ってても誰も指摘したりはしない。
それはとても怖いことのような気がした。
だって間違わない人間なんていないのだから。
けれどリュカオン様は違う。確かに他の騎士や使用人たちからは様付けで呼ばれている。
だけどミスをしたら容赦なく指摘され、彼もそれを咎めたりはしなかった。
私は見せかけだけの平等を押し付ける王太子より、リュカオン様の方が安心できる。
「……うん、辺境に帰ろう」
私を養子にし出来る限り親切にしてくれたサティー男爵家だけは気になるけれど、リサ先輩に手紙を託したからもういい。
もし彼らが私のせいで困ったことになっていたらリサ先輩が教会に報告し解決に動いてくれるに違いない。
サティー男爵家からも過去聖女を輩出していて、その縁で私の養親として選ばれたのだから。
私はもう一度女神像を見つめ祈りをささげると王都を背にした。
そして日が明るい内に既に懐かしさを感じる辺境伯邸へ戻る。
当主執務室に入るとリュカオン様が机に向かい作業をしていた。
「只今戻りました」
「お帰り、早かったな」
当たり前のようにお帰りと言われたのが少し擽ったい。でも悪い気はしなかった。
「リサ先輩に言われて、寄り道せず真っ直ぐ返って来たので」
「そうか」
「子供たちにお土産を買おうかと思いましたが、王太子から捕獲命令が出てるかもと言われました」
「まあ、今頃連中はさぞかし困っているだろうからな……しかし、土産か」
リュカオン様は少し考えこむと私に疲れていないかと尋ねて来た。
ずっとアッくんの背に乗っていただけなので疲れは無い。
「はい、大丈夫です」
「なら、子供たちへ菓子を買うのを兼ねて近くの町へ行ってみないか?」
新任の聖女殿はまだ行ったことが無いだろう。
悪戯っぽい笑みを浮かべてリュカオン様は私にそう提案してきた。




