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第13話 聖女リサの見送り

「じゃあ行ってきます」


 私が辺境に派遣されて一週間、今日はリサ先輩が王都に戻る日だ。

 この方が早いからと私は聖鳥のアークヴェルグ、愛称はアッくんで送る事を申し出た。


 つまり数時間程度だが辺境領には聖女が不在になる。

 本来なら避けたい事態だ。


 しかしこの一週間で私は大量の浄化石作りに成功していた。

 材料となる石の在庫が無くなってしまったが私は元気だ。魔力枯れの片鱗も無い。


 その結果、少しだけなら聖女が不在でも問題が無くなった。浄化が必要なら浄化石を使えばいい。

 ついでに今日は魔物討伐の予定も入っていない。

 なので私は屋敷の面々に別れを惜しまれるリサ先輩をアッくんに乗せて送迎することにしたのだ。


「もしかしたらすぐ辺境に戻って来るかも」


 そうリサ先輩は笑いながら皆に言う。

 実際彼女はそれを教会側に希望すると言っていた。


 聖女が交代制で辺境に滞在するのは身の安全の為。

 魔力の使い過ぎで弱った聖女に瘴気に満ちた辺境の地は毒なのだ。


 森だけでなく土や水にも瘴気は混じっている。浄化石では無効化にも限界がある。

 そして浄化の力を使い続けていれば聖女は弱り続けるだけ。

 なので定期的に王都に戻されるという仕組みだ。


「だってここにはアイラがいるもの」


 しかし存在するだけで一定範囲を自動治癒そして浄化する私がいればそれは解決する。

 リサ先輩は辺境にいたまま浄化の力を使わず魔力を蓄えられるという訳だ。

 だが予定では王都に帰還することになっているので、一度は戻らなければいけない。


「二人とも気をつけてな」


 そうリュカオン様は笑って私たちを見送ってくれた。

 巨大化したアッくんの広い背中の上で私たちはそれぞれ楽な姿勢で座る。


 特殊な結界のようなものがあるので風で吹き飛ばされる心配は無い。

 持たせて貰ったお茶を飲みながら私たちは到着まで暇なので雑談をした。


「ねえ、王都ではどんなものが流行っているの?」

「流行ってるかはわからないですけど……」


 そう言いながら私は王太子に連れて行かれた店や劇についてリサ先輩に話した。

 彼女はそれを興味深げに聞いた後に大きく溜息を吐く。


「しかし信じられないわね、それだけ連れ歩いていた女の子をペット呼ばわりだなんて」

「でも実際大勢の前で王太子殿下が仰られたのは事実ですし」

「だったら殿下はペットに懸想する変態としか思えないけれど」


 上空で私とアッくん以外誰も聞いていないとは言え中々の問題発言だ。

 彼女には一週間の間、私が貴族学園を退学して辺境まで来た経緯は問われて大分詳細に話している。


「末端とはいえ貴族の立場からしても嫌よ、そんなのがいずれ国のトップになるなんて」


 そう、実はリサ先輩は伯爵家の五女なのだ。

 言われなければわからない程気さくな物言いと性格だけれど。


「大体何でそこまで選民思想拗らせてるのにわざわざ貴族学園になんて通ってたのかしら、義務って訳でも無いのに」


 実際彼女は聖女修行を優先して貴族学園に通っていないらしい。 


「確かに通った方が良いとは思うわよ。同世代の貴族たちと交流できるし、思い出の共有が出来るから連帯感も生まれるしね」

「成程、そういうメリットがあったんですね」  

「ただ、男爵家の養子の聖女候補を人間扱いしてないと公言する程拗らせてるなら王家は王太子を王室内に隔離すべきだったわ」


 王太子の代の王家の求心力は確実に低下するでしょうね。そうリサ先輩は言う。


「でもあの場では彼に賛同している生徒が多かった気がします」

「その場では、でしょ。多分一番多いのは沈黙してた者よ。賛同者は声が大きかっただけ」

「それは……確かにそうかもしれません」

「だけど貴方や教会の行動は間違っていないわ。聖女をペット扱いするなんて相手が王族でも許されない」


 そう考えるのは教会側の人間だけでは無い筈よとリサ先輩は言った。


「王太子の行動も言動も王家側や婚約者が止めるべきだった。でも婚約者の方は無理ね、動じないことしか出来ない娘だもの」


 正確には振りだけど。公爵令嬢であるパールにリサ先輩は辛辣な評価を下した。


「でも結局最後は王太子と一緒になって貴方を笑ったってことだから、賢女の仮面を被る事すら失敗したわね」

「まあ私の事が気に入らないのは仕方ないとは思います」

「だったら自分と婚約中なのに貴方を連れ回した王太子殿下に抗議すべきだわ。もしくは嫉妬を見せて甘えるとか」

「甘える、ですか」


 確かにティアロはそうされたら自分の婚約者に鼻の下を長くして私に構うことを止めたかもしれない。

 リサ先輩は彼が私に懸想しているなんて言っていたけれど、あの美しい婚約者のことだってちゃんと意識していた。

 だから余計意味が分からなかったのだ。


「多分王太子殿下も公爵令嬢も、そんな俗な事自分たちには相応しくないと思っていた気がします」

「婚約中に別の相手を連れ回して遊ぶ方がよっぽど俗なのにね。常識を知らないから世俗も知らないのかしら」


 本当にこんなのが未来の国王と王妃なんてこの国が心配だわ。

 そう大して心配して無さそうな調子でリサ先輩は言った。


「まあ、そうならないように教会や大聖女様がお動きになられるでしょう」


 あの王太子が国王になったら貴方を無理やり側室にするでしょうし。

 突然そんな事を言われて寒気がした。それは無いと祈りたい。


 そんなことを話している内に王都の入り口が見える。

 ここで良いと言われたのでリサ先輩を少し離れた場所に下ろす。


「もしかしたら殿下が貴方の捕獲命令出してるかもしれないからね」

「流石にそこまではしないと思いたいですが……あの私がお願いした件ですけど」

「うん。サティー男爵家に手紙を届ければ良いのよね。大丈夫よ」


 辺境の事を宜しく頼むわね。

 そう微笑んでリサ先輩は王都へ続く道を歩いて行った。


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