第12話 過去の犠牲
「これだけあるなら土地の浄化以外に使えないかな……」
「いや若様、無駄遣いせず貯めて置いた方が絶対良いですよ」
「森を囲うように埋めたら魔物が出てこれなくなったりしませんかね」
「流石にこの量でも足りねぇよ」
量産した浄化石の使い道をリュカオン様と考えていたら、騎士たちが森から帰還してきた。
仕方が無いとは言え私は彼らをおいてさっさと屋敷に向かい更に美味しいご飯まで頂いてしまった。
その事を彼らに詫びると不思議そうな顔をして「いや、食べられる時に食べて貰った方が有難いけど」と言われた。
そして隣りのリュカオン様を指差して「この人もさっさと飯食ってたでしょ?」と笑われる。
リュカオン様は何故か胸を張って「当たり前だ」と答えていた。
「魔物は規則正しく暴れてくれるわけじゃないからな、ここでの生活は臨機応変が基本だ」
「……わかりました」
「だから休める時はきっちり休んで欲しい。浄化石についてはとても助かったけどな」
「……はい!」
そうリュカオン様に言われて私は頷く。
しかし先程辺境騎士団の副団長だと紹介された灰色の髪の青年はそこまで緊張する必要はないと言った。
「普段の討伐はちゃんと予定組んでやってるしスタンピードなんてここ数年はたまにしか無いから」
「スタンピード?」
聞き慣れない言葉に私は首を傾げる。
リュカオン様がそんな私を見て説明してやれと副団長さんに促した。
「えっとスタンピードって言うのは、デカくなり過ぎた魔物から他の魔物が逃げた結果森の外に魔物が一斉に出てくる感じで……」
「それは……大きな魔物に食べられない為にですか?」
「そうっすね、そして餌になる魔物を追いかけてデカい魔物も森から出て来るので大分やばいことになると」
「魔物どもの襲来も危険だが、一番まずいのは道中が瘴気と魔物の死体で汚染されることだ」
以前行商人がただの鹿の死体だと思って魔物の肉を食べて大変な事態になったことがあるとリュカオン様は告げた。
「まさか、行商人も魔物になったとか?」
「いや、行商人自体は瘴気に耐えられず立ち寄った村で衰弱して死んだ。けれど原因が瘴気だとわからなかったから村人は善意で無縁墓に埋葬したんだ」
「その死体から瘴気が洩れて墓参りにきた人たちを媒介に小さな村全部が瘴気で全滅したってことが昔あったっす」
そして最終的にその村は浄化の為焼かれた。副団長さんの補足をリュカオン様が短く締めくくる。
聞いただけで気分の暗くなる話だった。
「なので聖女様も獣の死体とかには絶対近寄らないように……いやこの聖女様は大丈夫なのか?」
「私は多分、範囲内にあれば瘴気は浄化される筈ですから」
焼かれてしまった村に、もし自分が居たら惨劇は防げたかもしれない。
そう考えると気分が重くなった。でも過去は変えられない。
「なので、私は浄化石を沢山作ります」
「へっ?」
何の関係があるのかと言いたげな副団長さんに私は説明する。
「この浄化石はポケットに入るぐらいの小ささですし、皆さんにお守り代わりに身に着けて貰えば……」
「成程、聖女の魔法に頼らなくても、瘴気に汚染されることは無くなるのか」
「そうなってくれればいいなという段階ですが……」
何故なら実際に効力は試していないからだ。
しかしリュカオン様と副団長さんは物凄く真剣な顔をしている。
「確かに浄化石を守り石代わりに使えたらと思っていたが、それが叶うとはな」
「つまりこれがあれば、討伐中に重症を負ったとしても魔物にならなくて済むんすね……」
副団長さんの言葉に私はハッとした。
確かに森の動物が瘴気で魔物化するなら彼らだってそうなる可能性はあるのだ。
「……今までは土地の汚染を防ぐ為の数しか確保できなかったから、その運用は忘れていたよ」
これで部下たちの犠牲を少なく出来る。
呟くようにリュカオン様が言う。唇は微笑んでいるのにその瞳はどこか悲しそうに見えた。
「あの、私浄化石沢山作れますから!色々使い道考えて頂ければ助かります!」
「有難う、でも決して無理はしないでくれ」
俺たちは貴方たち聖女が命綱なのだから。
そう赤髪の辺境伯様は私に言ったけれど、私はそれこそ任期中に魔の森を囲む程の量の浄化石を作ってやろうと決心した。




