第11話 浄化石を大量生産します
食堂は貴族学園程煌びやかでは無いけれど賑やかで活気があった。
何よりあの微妙に感じる見えない線のような物を感じないのが良い。
ここにも暗黙のルールは幾つもあるのだろうけれど貴族のそれはあまりにも多すぎた。
(平等を口にしつつ身分差は遵守、でも身分の高い生徒と仲が良い下級貴族の生徒は特別とか……)
更に同じ階級の貴族同士でも格差があったり派閥が有ったりする。
男爵家で軽く教えて貰った分だけでも頭に詰め込むのが難しくそして馬鹿馬鹿しくなってしまった。
だから私は学園内ではどの派閥にも関わらず、一人でやっていこうと決意していたのに。
貴族の生徒達からは異物扱いされつつ、強い排除や悪意さえ無ければそれで良かった。
それを台無しにしたのが王太子の過剰な接触だったのだ。
「ここはね、すぐ出せる物と注文して作って貰えるものが別れているの」
そうリサ先輩が教えてくれる。
そういう仕組みなのは戦闘とか急いで出なければいけない人が多いからかもしれない。
私は折角だから美味しそうなシチューとパンを選びアッくんの好きなオムレツだけ新しく作って貰うことにした。
鳥なのにとたまに驚かれるがアッくんは卵料理が大好きだ。
空いている席に陣取った後で小皿に適量を分けて上げるとご機嫌に啄む。
そしてそんな私たちとリサ先輩には先程からチラチラと視線を向けられていた。
ただ値定めをしているというよりは珍しい物がいる程度なので苦痛ではない。
良くも悪くも学園生活で視線を向けられることには慣れてしまった。
「ちょっと、可愛い子だからってジロジロ見過ぎよ!」
しかしリサ先輩はそうじゃなかったようで周囲に声を張り上げる。
「すまんすまん、何かお嬢様みたいな雰囲気の子が来たから気になって」
そう言って男性客たちは私が何か言う前に散っていく。
お嬢様なんて初めて言われたのでびっくりしてしまった。
「ごめん、不躾なのは許してあげて。珍しい物や娯楽に飢えてるのよ」
「いえ、大丈夫です」
「多分正式に私の後任だと説明されたら大人しくなると思うから」
別に今の時点でもそこまで騒がしいとは思わない。
ヒソヒソと噂されている様子も無いし。私は笑顔でわかりましたと伝える。
そして素朴だけれど具沢山で美味しい食事を味わった。
肉も野菜もたっぷり入っている。疑問がわいたのでリサ先輩に質問した。
「料理の材料って敷地内で育てているんですか?」
「そうよ。逆に言うと敷地内以外だとろくに育たないのよ」
生物は瘴気に汚染されちゃうからね。そうリサ先輩はパンをちぎりながら言う。
だから辺境領はかなり広い土地なのに人が住んでいそうな場所が少数だったのか。
ここに来る前に上空から小さな村や町のような場所も確認した。
しかし馬などで移動する場合大分時間がかかりそうだった。
下手したら数日必要かもしれない。
「この屋敷の敷地内は瘴気の影響を受けないんですか?」
「聖女が魔力を込めた浄化石を土地に等間隔で埋めてるのよ。だから戦いに同行してない時は浄化石作りをせっせと頑張るってわけ」
「成程……でも私の場合は自動的に範囲内を浄化するんですよね」
その場合って浄化石との兼ね合いってどうなるのだろう。
私の能力が発動している時は浄化石の魔力は減らないのだろうか。
「歩く浄化石みたいなものね。魔力切れとか起こしたことないの?」
「今のところは一度も。ただ浄化の力自体使ったことがそんなに無くて」
「王都暮らしはそんなものよね。浄化する必要がそもそも無いもの」
だから王都から来た人間は瘴気に対する耐性が低いのだ。
そうリサ先輩は溜息を吐いた。
「聖女の浄化と辺境の瘴気って天敵関係だから弱い方が負けるのよね」
「浄化の力が負けると……聖女はどうなるんですか?」
「大体魔力が枯渇してるから貴方に助けて貰う前の私みたいに老け込んで、後任と交代するわね」
そして戻って来た王都で静養して体に魔力を貯めるのだと彼女は説明した。
私は交代が間に合わなかった場合を聞きたかったのだが、何となく止めておいた。
聞かない方が良いような気がしたのだ。
「……そういえば、聖女の力なのに魔力という呼び方ってちょっと面白いですね」
「確かにそうね。聖力とかでも良い筈なのに」
私の軽口にリサ先輩がそう返す。
生物が瘴気に汚染されたら魔物になると言う。
なら聖女が瘴気に負けて汚染されたら魔女になるんだろうかとちょっと思った。
食事が終わった後はリサ先輩は色々手続きがあるらしく別行動になった。
私が彼女の部屋で待機しているとメイドさんが来て私用の部屋の準備が出来たと案内してくれた。
シンプルだが清潔な部屋で私はすぐに気に入る。
私は案内してくれたお礼をメイドさんに言った後に、こう続けた。
「すみません、早速浄化石に魔力を込めたいんですけど在庫ってありますか?」
自分の中の魔力の限界を確認しつつ、浄化石を量産できる。
そして何より暇を潰せる。
私はその後大箱二つを充填済みの浄化石で満たしリサ先輩とリュカオン様に目を丸くされた。
少し疲れたが体内の魔力がそこまで目減りした感覚は無かった。まだ限界は遠い。
魔力を充填した浄化石はキラキラと満足そうに光り輝いて癒される。
貴族だらけの学園で王太子に構われて過ごすより疲労感は圧倒的に少なく、何より成果が目に見える為充実した時間を過ごせた。
私は多分こうやって一人で黙々と作業する方が合っているのだ。




