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第10話 聖女リサ目覚める

 室内の患者たちが皆完治しているのを確認して私は部屋に戻るとリュカオン様に告げた。

 彼は恐らく食事を途中で止めて案内役をしてくれたのだろうし、さっさと解散した方が良い。


「そうか。では君の部屋の準備が終わったら呼びに行かせるとしよう」

「私の……部屋ですか?」

「そうだ、先程まで君が居たのは聖女リサの部屋だろう」


 当たり前のような顔をして言われる。


「リサ先輩は王都に戻りますし、そのまま交代して使うのだと思ってしました」

「それでも良いが彼女も王都にすぐ戻るわけではないだろう。友人たちに別れを告げる必要もあるだろうし」


 リュカオン様に言われて、私は内心ショックを受ける。

 よく考えればそうだ。

 普通は同じ場所で大勢と寝食を共にしていたら友人とかそういう絆が出来るものなのだ。


 しかし学園を飛び出した時の私には解放感しか無かった。

 仮養子になったサティー男爵家には色々お世話になったのに。

 全く別れの挨拶をしようとも思わなかった。


(私って薄情なのかな)


 大聖女様は聖女になるなら淡白な性格の方が良いと前仰っていた。

 優し過ぎたり感情的過ぎると逆に歪みやすいからと。


(でも歪むって何かしら)


 当時抱いたまま質問することも無かった疑問を思い出す。


「聖女アイラ、どうかしたのか?」


 心配するような顔でリュカオン様に言われて私は慌てて首を振った。


「いいえ、何でもないです。確かにリサ先輩も元気になってから旅立った方が良いですね」


 私の能力である程度気力体力は回復するが、気持ちの部分は別だろう。

 私はリュカオン様に案内して貰った礼を言って聖女部屋に戻った。


 すると既にリサ先輩は目覚めていて、入って来た私を見て目を丸くした。


「もしかして……アイラ?」

「はい、アイラですリサ先輩」


 お久しぶりです。そう言おうとした途端思いっきり抱きしめられる。


「うぐっ」

「やったぁ、私王都に帰れるのね!」


 喜びが詰まった声でリサ先輩が叫んだ。その反応に僅かに驚く。

 王都で暮らしていた時の彼女はもう少し落ち着いていた筈だ。


 そんな人がここまで手放しで感情を露にするなんて意外だった。

 しかしリサ先輩がそうなる程、ここの瘴気に満ちた辺境での生活は大変だということだろう。

 

「体は大丈夫ですか?」

「うん、びっくりするぐらい軽いわ。体も若返ったし貴方の治癒のお陰よね?」


 若返ったと言っているがリサ先輩はそもそも若い。

 まだ二十歳になったかならないかだろう。

 森で気絶していた時の姿は能力を使い過ぎて確かに老け込んでいたけれど。

 今の彼女は王都の時と同じ年相応に若々しく綺麗な女性だ。

 

「はい、しかしここでの暮らしってそんなに大変なんですか?」


 その割には怪我を抜かせば皆元気に暮らしているように思える。


「大変よ。王都から来た人間は皆言うわ。息をしているだけで瘴気で具合が悪くなるって」

「……そうですか?」

「貴方は特別よ。常に浄化の力が働いているようなものだもの」

「浄化の力ならリサ先輩も使えるんじゃ……」


 私がそう言うと彼女はわかってないわねとため息を吐いた。


「常に浄化の力を使い続けていたら私の魔力なんてすぐ枯渇してしまうわ。貴方の自動治癒が凄いのは魔力量が底なしだからよ」

「そういうものですか」

「そうよ。そして今私は貴方の魔力の恩恵を受けて久し振りに快適な状態ってわけ」


 これなら帰る前に皆にちゃんと挨拶できるわ。

 そう嬉しそうに言う彼女にリュカオン様が言った事は正解だったのだと知る。


「でも私やここの皆は凄く助かると思うけど、どうして学校に通っている筈の貴方が派遣されたの?」


 王太子と一緒に貴族学園を卒業するまでまだ数年ある筈よね。

 不思議そうにリサ先輩が言う。

 私が貴族学園に派遣されることは教会関係者たちに周知されてはいる。

 しかし辺境で勤めを果たしていた彼女の耳に届いていたのは初耳だった。


 私が王太子たちとのやりとりを簡潔に話すと彼女は、驚いた顔をした後で苦虫を噛み潰したようになる。


「やだな、絶対教会に王家や貴族側の人間が押しかけてくるじゃない……王都に戻らず数か月位旅行しようかしら」

「やっぱりそうなりますか。大聖女様も似たようなことを仰ってましたが」

「なるでしょ。大聖女様は絶対折れないと思うけどね」


 あの方には脅しも泣き落としも一切通用しないのだから。

 そう言いながらリサ先輩は身支度を整え、食堂にご飯を食べに行こうと私を誘った。


 私が返事をする前に肩に乗った聖鳥が元気よくピィと答える。

 お腹が空いてたんだね、アッくん。

 

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