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女の子が大好きなだけの私は、その美少女達との恋愛なんて知りません…っ!?  作者: かおす胡椒
第二章『花と夜』

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8/13

今度は私から


『——絶対可愛くさせてやりますから!』

 

 そう高らかに放った私の宣言で、先程まで余裕そうだった表情がほんの少し崩れる。


「私が、ですか……?」


「はい、私ばっかりじゃ面白く……じゃなかった、申し訳ないな〜って」


 危うく本音が出そうになった。いや、後者も本音だが、どちらかと言えば前者の方が強い。

 いつも揶揄われるだけだと思わせない。

 それに——、私が選んでもらったように、彼女にも選んでみたい。選んであげたい。


「……分かり、ました。では、お願いします」


「任せてください!」


 そう答えたものの、いざ夜月さんの服を選ぶとなると、思った以上に難しい。多分、なんでも似合ってしまうんだろう。けれど、それが逆に彼女の容姿に頼ってしまうみたいで悔しいと感じた。だからこれは、私がちゃんと決める。

 ラックに並んだ服を一着ずつ眺める。


 可愛いもの。

 綺麗なもの。

 大人っぽいもの。

 少し落ち着いたもの。


 どれも夜月さんに似合いそうだ。うん、似合うと思う。


「…………」


 けど、それじゃダメだ。


 私がさっき選んでもらった時、肌の色は当然に、彼女は私の髪や瞳の色まで全てのパーソナルカラーを見て、私に合うものを考えてくれた。

 なら、私だってちゃんと考えたい。


 夜月さんの綺麗でさらさらな水色の髪。

 少しタレ目がちな美しい黒い瞳。

 普段の柔らかい雰囲気。

 そして、時々見せる意外と子供っぽい表情。


 そこまで考えて、ふと一着のコーデが目に止まった。

 淡いアイボリーのニットカーディガン。その下に合わせるための、少しくすんだローズピンクのブラウスがセットで置かれている。ボトムスは、落ち着いた色合いのダークブラウンのロングスカート。

 派手ではない。けれど、柔らかくて、どこか温かみのある組み合わせ。


「……これ」


 手に取って、夜月さんの方をちらりと見る。

 水色の髪に、淡いアイボリー。そこへ少しだけローズピンクを差し色にすれば、全体的に優しい雰囲気になるはずだ。


「なんて…」


 考えてみたけど、そもそも私は洋服やコーデについてなんて全くの素人でネットで流れてきた情報、それと夜月さんのパーソナルカラーがこのコーデと合うかどうかを頑張って見極める事しかできない。あとは、直感だ。

 でも——。


「これが、いい…」


 不思議とそう思った。

 服そのものが特別好みだったわけじゃない。けれど、これを着た夜月さんを想像すると、なんとなくしっくりくる。


「決めました!これ、着てみてくださいっ」


「可愛らしいお洋服…」


「素人の感覚で選んでみたんですけど…どうでしょうか」


「今から私が白花さんに染められてしまうと思うと、なんだかドキドキしてきますね〜♪」


「——っ…」


 まだ軽口を叩くか、この人は。やはり私より一枚上手という事なのだろう。

 彼女は私に背を向け、試着室へ入った。


 ◆◇◆◇◆◇◆


 しばらくして、カーテンが開いた。

 私の選んだ服に身を包んだ夜月初奈が可憐に佇んでいて、ほんの一瞬だけ世界から音が消えたような気がした。


「——ん、——なさん、——白花さんっ!あの…どうでしょうか。黙っていられると、不安で……」


「あ、あぁっ!ごめんなさい!見惚——」


 不意に言葉が詰まる、見惚れてたと言うことがなんだか恥ずかしい気がして。いつもならこんな美少女に可愛いだの綺麗だの、そんなのいくらでも言ってるのに。


「……に、似合ってると思います」


「——っ!本当ですか…っ!?嬉しいです…」


 素直に喜ばれると逆に……。あれ、なんだろ。なんなの、これ。落ち着け、落ち着け、落ち着け——!

 ばちんっ——!!


「ひゃっ!?し、白花さん……?何故、自分の頬を叩いて?」


「気合いの入れ直しです、気にしないでください。それより、良かったです。私の選んだ服、とっても似合ってて」


 雑念は消し飛ばした。代わりに頬に赤い痕が付いてしまったけれど。

 夜月さんは試着室から出て、私の手を包み込むように握るしめる。


「私、これ着て帰ります。それで…その、よろしければ白花さんも私の選んだその服、着て帰っていただけませんか…?」


「うぐっ…その上目遣いやめてくださいっ。着ます!着て帰りますから!」


 元々そうしようと思っていたけれど、このようなお願いをされたら着ないなんて選択肢はなかった。

 私達はレジで会計を済ませ、その服のまま店を後にした。


「……なんだか不思議な感じですね」


 夜月さんがそう口に出す、人に選んでもらった服で外を歩くのは慣れないのだろうか。かくいう私もさっきからずっとそわそわしまくりだ。


「何そわそわしてるんですか?もしかして、手…繋いで欲しいんですか?」


「違いますよ……!夜月さんも袖の部分、弄ってるじゃないですか……」


「……」


 図星か、あるいは無意識だったそれに気付いたのか、夜月さんの身体がぴたっと停止する。

 

「……見てたんですか?」


「そりゃ見ますよ。さっきからずっと弄ってるじゃないですか」


「…………」


 夜月さんは自分の袖を見下ろして、それから少しだけ顔を逸らした。さっきまでの余裕そうな表情が、少しずつ崩れていく。


「……白花さんのせいです」


「えっ、私!?」


「はい。私が選んだ服を着てくださっているのが、なんだか嬉しくて……」


「…………」


 今度は私が黙る番だった。何を言っているんだ、この人は。そんなことを平然と言われたら、こっちはどう反応すればいいのか分からない。


「……そういうこと、さらっと言うの反則だと思いますよ!?」


「ふふっ。白花さん、また顔が赤いですよ?」


「夜月さんだって赤いじゃないですか!」


「私は元からです」


「そんな、ダルマじゃあるまいに!!」


 思わず声が大きくなる。

 すると夜月さんは、耐えきれなかったように笑い出した。


「ふふっ…あはっ」


「もう……」


 揶揄われている。絶対に揶揄われている。

 けれど、不思議と嫌ではなかった。


 むしろ、こうして笑っている夜月さんを見ていると、さっきまでの映画館で怯えていた姿とはまた違う、いつもの彼女が戻ってきたような気がして少し安心する。

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、夜月さんは笑いを収めると、今度は少しだけ微笑んで、自分のカーディガンへ視線を落とした。

 

「でも……本当に嬉しいんですよ」


「……」


「白花さんが私のために選んでくださった服。私、とても気に入りました」


 そう言って、彼女はカーディガンの裾を軽く摘まむ。その仕草はさっきまでとは違っていた。照れ隠しでいじっているわけではなく、本当にこの服を大切に思っているように見えた。


「だから、今日はこれを着ていたいです」


「……なら、良かったです」


 その言葉が口から出た時、自分でも驚くほど素直な声になっていた。

 さっきまでの恥ずかしさとは少し違う。自分が選んだものを、こんなにも喜んでもらえる。その嬉しさが、じわじわと胸の中に広がっていく。

 

 服を選ぶことなんて、今まで大して興味を持ったこともなかった。可愛い服を見れば可愛いと思う。

 けれど、それを誰かのために選ぶなんて考えたこともなかった。

 

 なのに今は。

 

 夜月さんが私の選んだ服を着ているという、それだけのことが嬉しくて仕方がない。

 私は自分の袖を見下ろす。こちらも、夜月さんが選んでくれた服。そう考えると、なんだか妙な気持ちになる。お互いがお互いのために選んだ服を着ている。

 それだけなのに——、まるで今日一日の出来事そのものを、服に残しているような気がして、それが思っていた以上に嬉しかった。


「……じゃあ」


 私は少しだけ胸を張る。さっき夜月さんにやられっぱなしだった分を、今度こそ取り返す。


「今日のコーディネートは私の勝ちですね」


「……勝ち?」


「はい。夜月さんを可愛くするっていう宣言、ちゃんと達成しましたから」


 さっきは見惚れて何も言えなかったけれど、今度はちゃんと言葉にした。


「夜月さん、今日すごく可愛いですよ」


「…………」


 夜月さんが固まった。

 いつもなら何か言い返してくる彼女が、何も言わずにこちらを見つめている。

 しかし、その沈黙が妙に長く感じられて私は少しだけ不安になる。

 

「……夜月さん?」


「……白花さん」


「今日、私のこと何回困らせるつもりですか?」

 

「え?」

 

「そんなこと言われたら……もっと好きになっちゃいそうです」

 

「…………へ?」

 

 一瞬、時間が止まった気がした。

 けれど。

 

「……って言ったら、どんな顔します?」

 

「なっ……!」

 

 その瞬間、夜月さんの口元が、ゆっくりと持ち上がった。いつもの、あの笑顔。

 

「やっぱり白花さん、面白いです♪」

 

「~~~っ!!」

 

「ふふっ」

 

 またからかわれた。私は頭を抱えながら、思わずその場にしゃがみ込んだ。

 

「もう! 夜月さん!」

 

「はい♪」

 

「そういう冗談、本当に心臓に悪いですからね!」

 

「覚えておきます」

 

 絶対覚える気がない顔だ。

 でも、いつもの調子に戻ってくれた事に少し安心感を覚えた私もいた。

 

「では、今日の勝負は私の勝ちですね?」


「……納得いかない」


「ふふっ♪」


 結局、最後の最後にはたった一言でまたひっくり返された。まるで最初から最後まで、私が掌の上で転がされていたような気分だ。


 またしても私は、夜月さんに負けたのだった。

 

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