気分転換
休日の駅前は、思っていたよりも騒がしかった。
人の流れは絶えず、会話と足音が重なり合い、春の空気をさらに浮つかせている。風は柔らかいのに、どこか落ち着かない。
その中心にある時計台の下で、私は一人そわそわしていた。
「……早く来すぎた」
スマホを見ても、時間はほとんど進んでいない。分かっていた。まだ待ち合わせには早すぎると。けれど、落ち着かないまま家を出て、気づけばここに立っていた。
理由は分かっている。
夜月さんと、二人で出かけるからだ。
「デートじゃない、デートじゃない」
誰に言い聞かせているのか分からないまま、私は視線をそらした。
その時だった。
「デートじゃないんですか〜?」
「ひゃっ……!?」
耳元に落ちた声に、思考が一瞬で飛ぶ。
振り返ると、そこにいたのは夜月初奈さんだった。水色の髪が春風に揺れている。制服ではない、淡い桃色の私服。その姿は、いつもより少しだけ“距離の近い世界の人”に見えた。
「お待たせしました」
「……い、いえ、今来たところです」
「ふふっ、その台詞だと、なんだか本当にデートみたいですね」
夜月さんは楽しそうに笑った。
そして、彼女は緊張でぎこちない私の顔を覗き込む。
「どうしました? 固まってますよ?」
「いや、その」
視線が逸れる。普段と違う服装のせいで、余計に意識してしまう。なんだこの人、いい匂いする…。
「制服じゃない夜月さん、初めて見たから……やっぱり可愛いとなんでも似合うんですね」
「まぁ♡」
こっちが照れさせてやろうと意気込んで言ってみたものの、あっさり受け止められて逆に恥ずかしくなる。
この人はこういうところがずるい。
「先に褒められちゃいましたね。白花さん、もしかして私のこと口説こうとしてますか?」
「してないですよ!忘れてください……」
私がそう言うと、夜月さんの表情が一瞬歪む。今のは、何の感情の表れだったのだろう。しかし、私がそれを不意に思った時にはすでにいつもの夜月さんに戻っていた。
「じゃ、どこ行きましょうか?」
「一応…考えてきたんです、けど…」
私がそう口に出すと、夜月さんがぱぁっと顔を明るくさせて、私の両手を胸の前で包み込みぶんぶん振った。
「まぁ…まぁっ♪私のために、白花さんがデートの予定を…っ。それで目の下に隈が出来るくらい夜更かしされてたんですね」
「えっ!?どこ!?メイクで消してきたはずなのにっ!」
そう言って、目の下を擦る私を見て夜月さんが呆気に取られた顔をして、口を丸くしていた。
「……えっと、今のは冗談で…あの、ほんとに夜遅くまで…」
「——は?…って、本当に嘘じゃん!隈隠せてるじゃん!……変な嘘つかないでください」
スマホのカメラで確認した私はジト目で彼女を睨む。そんな私を横目に顔を紅潮させている。……何故?
訳がわからず困惑しているうちに、夜月さんは持ち直したのか私の腕を掴んで歩き出した。
「もう…ほら、行きましょうっ、白花さん」
私は彼女に腕を引かれて、転ばないように足を前に出す。
その足が、ほんのちょっと軽くなった気がした。
一ヶ月ちょっとぶりです。二章です、よろしくお願いします!




