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女の子が大好きなだけの私は、その美少女達との恋愛なんて知りません…っ!?  作者: かおす胡椒
第二章『花と夜』

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有名な本と題名のない気持ち


 夜月さんと別れた後、私はぶらぶらと廊下を歩いていた。特に行く当てもなかったので、昼休みの残り時間をどう過ごそうかと考えながら、なんとなく足を進める。


「……ん?」


 ふと、窓の外を見ると中庭に人影が見えた。

 ……天瀬さん? 彼女はベンチに座って本を読んでいるようだった。私はなんとなく気になって、そちらへ足を向けた。


 校舎に囲まれた中庭は、昼休みだというのに人影もまばらだった。

 木々の葉が風に揺れる音だけが静かに聞こえてきて、教室とは違う落ち着いた空気が流れている。


 そんな中で、私は天瀬さんの元へ向かった。


「あ……」


 私が声をかけると、彼女は本から顔を上げてこちらを見た。

 少し驚いたような表情を浮かべたあと、静かに私の名前を呼ぶ。


「……白花、さん」


 その声を聞くと、なんとなく嬉しくなって、私も自然と笑みがこぼれた。


「こんにちは、天瀬さん」


「こ、こんにちは……」


 彼女は小さく頭を下げると、再び視線を手元の文庫本へと落とした。どうやら読書中だったらしい。

 邪魔してしまっただろうかと思い、謝ろうとしたところで、私は彼女の手にある本に気がついた。


「あ、それ」


 それは最近話題になっている恋愛小説だった。

 私も読んだことがあるけれど、とても面白くて、一気に読み終えてしまった記憶がある。天瀬さんも好きなのだろうか?


「面白いですよね」


 私がそう言うと、彼女は少し驚いた様子で顔を上げた。


「白花さんも読まれたんですか?」


「はい。その本、今すごく人気なんですよ」


「……そうみたいですね」


 彼女は再び視線を手元の文庫本に落とす。

 その表情からは何を考えているのか読み取れないけれど、私は構わず続けた。


「私、あのシーンが好きなんです」


「どのシーンですか?」


 天瀬さんは少しだけ興味を持ったように聞き返してきた。それがなんだか嬉しくて、つい饒舌になってしまう。


「主人公がヒロインに告白するシーンですよ! あそこは何度読んでも……」


「…………」


 天瀬さんが呆然とした様子で黙ってしまった。


 ……あれ。

 もしかして、ちょっと語りすぎた?


 そう思った私は、慌てて頭を下げる。


「す、すみません! つい……」


「……いえ」


 天瀬さんは小さく首を振る。

 そして、再び視線を手元の本へと落とすと、ぽつりと言った。


「私も好きです」


「え?」


「あのシーン」


 彼女はそれだけ言うと、また黙り込んでしまった。

 でも、その表情はどこか嬉しそうだった気がする。


「そうなんですね!」


 思わず声が大きくなる。

 しかしすぐにハッとして、私は口を手で塞いだ。そんな私を見て、天瀬さんがくすっと笑った気がした。


 なんだか恥ずかしくなってきて、顔が熱くなる。

 けれど、それと同時に胸の奥が温かくなったような気もした。


 まただ――。


 この気持ちは、本当に……。


 そう考えていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。私は慌てて立ち上がる。


「すみません! そろそろ戻りますね」


「……はい」


 天瀬さんは本を閉じると、ベンチから立ち上がった。

 そのまま校舎へと歩き出すかと思ったけれど、不意に立ち止まる。


 不思議に思って首を傾げる私に、彼女は振り返った。


「あの……白花さん」


「は、はい!」


 思わず声が上ずってしまった。


 天瀬さんは少しだけ迷うように間を置いてから、静かに口を開いた。


「また今度、その小説について語りませんか?」


「……え!?」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

 けれど、すぐに意味を理解すると、嬉しさが一気に込み上げてくる。


 それはつまり、これからも彼女と話せるということなのだから。


「は、はい! 是非お願いします!」


 私は大きく頷いて答えた。


 天瀬さんはそんな私を見て微笑むと、今度こそ校舎へと入っていった。


 私はその背中を見送りながら、胸の奥に残った温かさを感じていた。

 やっぱり、この気持ちが何なのかはまだ分からない。


 ただ――また天瀬さんと話せることが、今は素直に嬉しかった。

 


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