第2話 『なにか』と大工
『ウッディとレイン』第2話です。
今回7000Wを越えてしまいました。
どうぞゆっくりお楽しみください。
今回も歴史上の意外な人物が登場します。
ではのちほど。
朝焼けの大地に清澄な歌声が朗々と響きます。
聞こえてくるのは女性のコーラスです。
「……朝っぱらから合唱かよ」
山間の空き地に張ったテントから出てきた妖精レインは、あくびしながらぼやきました。
「日が昇ったら毎朝大地のどこかから朝を告げる音楽が聞こえてくる。このイセカイを作った神さまはいったいなに考えてんだ?」
時折あらわれる転生人がこの世界を異世界と呼ぶので、いつの間にかここの住人もこの世界をイセカイと呼ぶようになりました。
「おはようレイン。いい天気だね」
「おっす。ウッディ、今日の目的地は?」
「『入らずの森』だよ。あそこに見えるウラナリ山のふもとにある。その森をレポートしろってお客さんのリクエストが昨日きた」
黒革の手帳を見ながらウッディが語ります。
客が手持ちの手帳に連絡事項を書くと、それが文字となってこちらの手帳に浮かぶのです。
「あらゆるものを見聞して記録と報告するのが書記官の仕事だけど、入るなっていわれてる森に入るのはぞっとしねえな」
「仕事だからしかたないよ。ここから歩けば三十分で着く。さ、朝ごはんにしよう」
ウッディは異世界全体に響く神秘的な女性のコーラスを聞きながら、朝食の準備をしました。
「なにかいる」
入らずの森に入ってすぐ、レインはウッディの耳を引っぱりました。
妖精はいつも相棒の左肩に腰かけています。
「痛っ、いるってなにが?」
ウッディは薄暗い森に目をこらしました。
「なにもいないよ……」
そのとき前方で爆発するような音がしました。
「なに?」
ウッディは耳を澄ませ、レインは血相を変えました。
「おい! 血が出てる!」
「え? どこ?」
「右のほっぺ!」
ウッディが右頬を撫でると、指先にヌルッとした感触が伝わります。
「あれ?」
「また爆発音だ!」
レインは相棒の肩から飛び降り、背中の羽根を動かし虚空に浮かびました。
今度は近くの木がメキメキ音立てて倒れました。
「逃げろ!」
レインが相棒をせかします。
「なにかがおれたちを攻撃してる!」
「なにかってなに?」
問いかけながら、ウッディは鼻をクンクン鳴らしました。
「知らん! とにかく逃げろ!」
「硝煙の匂いはしない。使ったのは爆弾じゃないね」
「のんきなこといってねえで走れ!」
ウッディが走ると姿が見えないなにかも追いかけてきました。
姿は見えませんが、おそろしい勢いで草木が左右に倒れます。
レインは空を飛びながら、背後に向かって手を伸ばしました。
「風!」
レインが魔法名を唱えると強風が吹き、一斉に木の葉が舞ってなにものかの視界をふさぎました。
「!」
なにものかは大地を揺るがす絶叫をあげ、全身にまといつく葉っぱを払おうともがきました。
その隙に二人は逃げました。
レインは暗い森を滑空しながら背後をうかがいました。
「でけえ……」
レインの声がかすれます。
全身葉っぱにまといつかれ、姿の見えないなにものかの体格があらわになっています。
なにものかは人間と同じ二足歩行で身長二メートル、体重は百キロを確実に超えていました。
レインはため息をつきました。
(クマなみに巨大な知的生命体が謎の武器まで持ってやがる。こいつは森にひそむ底なし沼みたいに厄介だぜ)
「おいウッディ! なんで森の奥に向かって走る!?」
レインは暗い森を滑空しながら、自分の近くを走る相棒を怒鳴りつけました。
「巫女の策略に引っかかって酔っ払ったゴメス(*注、異世界の神話に出てくる怪物)みたいに方向感覚が狂ったのか!」
「人の気配がする。ほっとけないよ」
高速で飛行するレインと並走するほど速く走っているのに、ウッディの口調に乱れはありません。
「バカ、命あっての物種だぞ!」
「またまたあ。レインだって三年前、ブナの木の下に頭から血を流して倒れてたぼくを助けてくれたじゃん。ほっといてもよかったのに」
「あんときゃたまたまいいマナが手に入ってご機嫌だったのさ……」
そのときガサリ、と近くの藪で不穏な音がしました。
「た、助けて」
レインとウッディの前に、三人の人間があらわれました。
一人は二十代後半らしい、長身痩躯の若者です。
白い上着に白いズボンを履き、やや茶がかかった黒髪を長く伸ばし、鼻の下に細い髭をたくわえています。
みすぼらしい身なりですが顔立ちはなかなかハンサムで、横顔にただならぬ気品が漂っています。
そしてもう一人はウッディと同じ十四歳ぐらいの女の子、最後の一人は五歳ぐらいの男の子です。
「助けてください! なにかに追われてるんです」
「おれたちもだよ。ウッディあれ出せ」
「了解」
レインにうながされ、ウッディが背嚢から取り出したのはハンカチみたいな布切れです。
「消失」
と、呪文を唱えてウッディが布を頭上へ放ると、布切れはマントのようにバッ、と広がりました。
「わあ」
男の子が花火を見たときのようにはしゃぎます。
「みんな布の下に入れ」
レインにいわれてウッディたちは広がった布の下に入り、その場にしゃがみました。
「妖精の里に伝わる『五感を遮断する魔道具』だ。布の外の人間におれたちの姿は見えねえし声も匂いも伝わらない」
「しかし追手はなにか精密な機械を持ってますよ」
長髪の若者が不安そうにつぶやきます。
「ばれないでしょうか?」
「平気さ……シッ」
レインは唇に指を当てました。
地響きが足もとを揺らします。
なにかがきたのです。
「グルルル……」
息を殺す五人のすぐそばを、なにかは歩き回りました。
ガチャリ、と耳ざわりな金属音が聞こえます。
(鎧の音だな。そいつを着ると姿が消えるってわけか)
レインがそう考えている間に、地響きは遠ざかりました。
「よかった。ばれなかった」
「だからいったろう?」
安堵のため息をつく若者にレインが説明します。
「やつの武器はテクノロジー、こっちの武器は魔法だ。技術の体系がちがう。体系がちがうものは見破れねえよ」
「うえ~これ固い」
ウッディが差し出す干し肉をかじり、アル少年は文句をいいました。
みんなまだ魔道具の布の中にいます。
「明るいうちに動くのは危険だ。いちばんものが見えにくい夕方までここにいよう」
というレインの提案に従ったのです。
「文句いわないの」
自分も干し肉を食べながら、ダイアンは弟をたしなめた。
「だってお姉ちゃん」
「弟がわがままいってごめんなさい」
「気にしないで」
レインの治癒魔法で頬の傷が治ったウッディが笑います。
「事実あんまり美味しくないからね。バターを塗って炙ったら少しはましになるけど。ねえダイアン、きみたちはこの森になにしにきたの?」
「蝶を追っかけてきたの。森に入ってはいけないといわれてたけど、夢中になって忘れちゃった」
ダイアンは悪戯っ子のようにペロッと舌を出しました。
「……」
そのとき弟のアルがズボンのポケットをそっと手で覆ったのを、ウッディは見逃しませんでした。
(この子なにかかくしてる)
ウッディはそう確信しましたが、なにもいいませんでした。
「で、姿が見えなくなった姉弟をあんたが探しにきたってわけか。え~と」
「ジョンです」
干し肉を食べた口もとをぬぐい、ジョンと名乗った若者は妖精に頭をさげました。
「この森の近くに小さな村があってわたしもこの子たちもそこに住んでいます。二人の姿が見えなくなってご両親が騒いでいたのでわたしが探しにきました。よく森に子どもが入って行方不明になるのです。昨日まで『子どもたちは底なし沼にはまったにちがいない』と噂していたのですが、まさかあんなバケモノがいたとは」
「バケモノが村を襲ったことは?」
「それはありません」
「ふーん、縄張りを忠実に守るとは獣みてえだな。人間らしくない」
レインは首をかしげました。
「欲望に歯止めが効かないのが人間だからな。殺しに淫したサイコパスと思ったけどちがうのかな……」
「恐怖」
「なんだい?」
「『物怖じしない犬は安全。物怖じする犬は怖い』わたしの生まれ故郷の格言です。きっとバケモノは恐怖に囚われ、暴力に歯止めが効かなくなったのでしょう」
「へえ、そのたとえ気が利いてる。でもいったいなにが怖いんだ? ……ところでジョン、あんた仕事なにやってんの? 教師?」
「いいえ大工です。こう見えて結構いい腕なのですよ」
ジョンは細い腕を曲げて力こぶを見せ、アル少年を喜ばせました。
まだ日が落ちきらない黄昏時、五人は移動を開始しました。
最初に外に出たレインが、慎重に周囲を伺います。
「よし気づかれてねえ。行こう……」
そのとき激しい爆発音をあげ、そばの木が倒れました。
「ばれた逃げろウッディおまえ先頭に立て!」
レインの号令で五人は暗い森を駆けました。
「こっちだよ」
ウッディが軽快に森をかけます。
「みんなウッディに続け! あいつの危機回避能力は一流だ安心して続け!」
「痛いっ」
そのときアル少年が転んでしまいました。
「お姉ちゃん」
「アル!」
「先に行って!」
転んだ弟を助けようとするダイアンを制し、ジョンは弟を抱き抱えました。
「みんな固まって逃げろ」
レインは空中から発破をかけました。
「逃げ遅れたやつから死ぬぞ、根性出せ! ……どうしたウッディ?」
「だめだ」
先行していたウッディが、振り返ります。
その顔に、彼には珍しい絶望が浮かびます。
「これは」
レインは絶句しました。
前方が断崖のへりなのです!
レインが上からのぞくと、眼下に清流が流れているのが見えます。
「いけねえ、落ちたら死ぬ高さだこれ」
「くるぞ!」
ジョンの声が聞こえたので振り向くと、目に見えないなにかが木々を薙ぎ倒し、こちらに迫っていました。
レインは自棄になって叫びました。
「ウッディ不知火丸抜け!」
「ぼ、ぼく勝てるかな?」
「絶対無理。でもこんな場所に案内したおめえが悪いんだからやれ」
「そんなあ」
とウッディが半べそかいたときです。
不意に森が静かになりました。
見えないなにかの突進が止まったのです。
同時に森全体に響き渡りました。
一人の女性の、囁くような歌声が。
「夜を告げる歌だ」
ジョンがつぶやきます。
異世界の朝と夜に流れるあの歌が、森を覆っています。
レインは仲間に号令をかけました。
「みんな飛び降りろ! ジョンおまえもだ!」
「え? いやしかし……」
「いいから行け!」
レインに叱咤され、五人は崖から飛び降りました。
「風!」
レインが呪文を唱えると下から風が舞いあがり、その風に支えられ、五人は枯れ葉のようにゆっくり落下しました。
「おお、まるで魔法の絨毯だ」
「いひひ」
ジョンは感嘆し、姉に抱かれたアル少年も楽しそうに笑います。
「ウッディ、やつの攻撃はなんで止まった?」
レインは崖の上を見ています。
「たぶん夜を告げる歌を聴いてたんじゃない? それで手が止まったんだ」
「やっぱりそうか」
暮れゆく蒼い空にまだ歌声が流れています。
風に乗って落下しながら、レインはこの日初めて笑いました。
「音楽を聴くってことは、やつには心がある。
心があるなら殺せるぞ」
異世界に夜の帳が降りました。
崖下を流れる川は急流で水量も豊かです。
その川の水音が、おそるべき地響きで一瞬聞こえなくなりました。
『なにか』が崖から飛び降りたのです。
「……」
崖から飛び降りたなにかは周囲に視線を巡らせました。
上流に向かう足跡がすぐ見つかります。
なにかは足跡を辿って歩きました。
暗視スコープを使わなくても、月の光で今夜はまわりがよく見えます。
とても静かです。
自分の足音と川の音しか聞こえません。
すると
「狩人ってさ、自分が獲物になったこと案外気づかないんだな」
なにかはバッ! と振り向きました。
生意気な妖精の声が聞こえたのですが、そこに妖精はいません。
代わりに自分がいました。
川のすぐ脇に、大きな鏡が置かれているのです。
「……」
置かれているのはアツシ先生のあの鏡
『一目で見た者のすべてがわかる鏡』
です。
「わたしには必要ない」
と先生が二人にくれたのです。
なにかはしばらく無言でじっと鏡を見つめ、それから自分の頭に手を触れました。
すぐに「ブシュッ」と蒸気が漏れる音がして、足もとに白い兜が落ちました。
兜を脱いであらわれたのは、なにかの素顔です。
地獄の業火に焼かれたような、おそろしく醜い顔を、なにかはじっと見つめました。
そのとき
「キャアア!」
なにかはバッ! と顔をあげました。
川辺の岩に隠れていたダイアンが、震えながら自分の口もとを押さえています。
あらわになにかの顔を見て、思わず声をあげてしまったのです。
素顔を見られたなにかは猛然とダイアンに襲いかかりました。
(まずい)
ダイアンからやや離れた場所の岩にかくれていたウッディは瞬時に悟りました。
(怪物がいつも姿を消しているのは醜い自分を見られたくないからだ。怪物にとって最大の恐怖は『自分を見られること』だ! クソ)
「おい! こっちにこい!」
岩陰から出たウッディが、自分が囮になろうと叫んだときです。
「よいしょ」
のんきな気合いが聞こえます。
「ジョン!」
ウッディの目の前で、ジョンは驚くべき行動に出ました。
両手でダイアンを抱え、いきなり川に飛び込んだのです!
「バカ! なにをする……」
ウッディは急流に呑まれる二人を幻視しました。
しかしそうなりませんでした。
ダイアンを抱えたジョンが水すましのように、身軽にヒョイヒョイ水を歩いて渡ったのです!
ウッディも『なにか』も予期せぬ出来事に呆然とその場に立ち尽くしました。
すると
「この距離なら殺せる」
なにかはハッとして振り返ろうとしました。
「動くな」
なにかの頭のまうしろにレインがいます。
せわしなく羽根を動かし、宙に浮かんでいるのです。
レインはなにかの頭に、小さいてのひらを向けました。
「おめえが兜を脱ぐのを待っていた。センセーの鏡を見たら、心あるものは必ず自分の素顔を確認したくなる。おめえの顔、自分で思うほど醜くねえぞっていっても納得しねえか」
「!」
なにかは岩を揺るがすすさまじい怒号をあげ、振り向こうとしました。
「光」
レインが呪文を唱えるとてのひらの先に五芒星が浮かびました。
星の中心から青い光が放たれようとしたその瞬間
「待った!」
ジョンはまた川を歩いてこちら岸に戻ると、地面にダイアンをおろしました。
「待ってくれ。きみ」
ジョンは素顔をさらした怪物に歩み寄りました。
「きみのように極端にナイーブな存在が子どもを殺すとは思えない。この森で行方不明になった子どもたちは、みんな底なし沼に呑まれたんだね?」
なにかが「そうだ」といいたげにうなずきます。
「やはりそうか。きみの口腔器官ではわれわれの言語を発音できない。だから子どもたちのことを説明できなかった。そうだね?」
またなにかがうなずきます。
「きみがわたしたちを襲ったのはわたしたちがきみの大切なものを盗んだと思ったからだ。アル」
ジョンは岩場にかくれていた少年を手招きしました。
「ズボンにかくしているものを彼に返しなさい」
「ごめんなさい」
アルがズボンのポケットから引っ張り出したのは、虹色に輝くビー玉です。
「きれい」
ダイアンが思わずため息をつきます。
「落ちてたからもらっていいと思ったんだ。ごめんよ」
アルがビー玉を差し出すと、なにかは上機嫌なネコのように「グルル」と喉を鳴らしました。
なにかは取り戻したビー玉を頭上にかざしました。
するとビー玉から虹色の光が放たれます。
光を浴びて、その場にいる全員が見ました。
戦いに明け暮れた彼の半生を。
そして彼の愛する存在が、戦いの中で死んだことを。
それは瞬きほどの短い時間でした。
虹が消えると、みんなの頭に浮かんだ映像も消えました。
「……おそらくきみは人との交わりを断ちたくてこの世界にきたのだと思う。しかしここはきみにふさわしい場所ではない。別の世界に移ってくれるかい?」
ジョンに懇願されたなにかはもう一度うなずくと自分の左手首に触れました。
するとなにかは白い光に包まれ、光が消えると、なにかも消えていました。
「はじめに言葉あり。レイン、きみがいった通りだ。言葉や技術の体系がちがう相手を理解するのは難しい。しかしあきらめなければ、なんとかなるもんだ」
「ジョン」
レインが呆れたように尋ねます。
「あんたいったい何者?」
「ただの大工だよ」
ジョンはアルの頭を撫で、照れ臭そうに笑いました。
「あなた」
夜が明けて五人が村に戻ると、一人の若い女性が駆け寄ってきました。
金色の髪を長く伸ばした、若く美しい女性です。
「イエスさま、心配いたしました」
美女はジョンにすがりつきました。
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫ですよ、マリアさん」
「まあ、わたしはあなたの妻です。マリアさんではなくマリアと呼び捨てになさって」
「ごめんよマリア。あなたのように美しい人が自分の妻なのが、どうもピンとこなくて」
「えーとジョン、この人は?」
「紹介するよレイン、ウッディにも紹介しよう。わたしの妻マグダラのマリアだ」
マリアがほほ笑み浮かべて頭をさげると、レインの鼻の下が長く伸びました。
「美人だなあ……なあ、さっき奥さんジョンのこと別の名前で呼んだけど?」
「実はわたしも妻も異世界からやってきた転生者なんだ。わたしは前世の記憶をすべて失ったが、妻が覚えていていろいろ教えてくれた。わたしの元の名前もね。ただこちらの世界の住人に発音しにくい名前だから『ジョン』という新しい名前をつけたんだ」
「なんていうの? 異世界でのあんたの名前?」
「イエスだよ。ナザレのイエス。それがわたしの元の名前だ。どうだいレイン、悪くない名前だろう?」
「ナザレのイエス……やっぱりおれたちには発音しにくいかな。ジョンのほうがスマートでいいよ。で、元の世界であんたとマリアさんはどういう関係だったの?」
「それは……」
「夫婦です」
となりにいたマリアが、夫に代わってきっぱり断言します。
「わたくしたち元の世界でも夫婦でした。夫はやはり大工をやっておりました。わたしも夫も火事で焼け死に、こちらに参ったのです」
「そっか。火事は不運だけどこっちでも夫婦になれたんだからよかったじゃん。じゃ、行くよ」
「ダイアン! アル! 元気でね!」
ウッディが手を振ると、親にこっぴどく叱られうなだれていた姉弟も笑顔になって手を振りました。
「ありがとう!」
「またきてねお兄ちゃん!」
「あの」
宙に浮かぶレインに、マリアが声をかけました。
「ナザレのイエスがこの村にいることは秘密にしていただけませんか? 異世界からくる転生者に、わたしたちのことを知られたくないのです」
「口が軽い旅人はすぐ死ぬ。大丈夫誰にもいわないよ。ウッディおまえもいうなよ」
「女神さまに誓っていわない」
「ありがとうございます」
マリアが深々と頭をさげ、レインとウッディは旅立ちました。
相棒の肩に座ったレインが振り返るとジョンがまだ手を振っていて、もう一つの手をマリアがしっかり抱いていました。
この手を二度と離さない。
そんな妻の気迫が伝わってくるようでレインは苦笑いしました。
「マリアさん、ジョンに心底惚れてるね」
「そうだな、みんな元気で!」
妖精と少年は最後にもう一度手を振り、村に別れを告げました。
ジョンと美しい妻は二人の姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていました。
いかがだったでしょう?
次回第3話は7月19日(日)朝5時投稿します。
どうぞお楽しみに!




