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第16話 サンディの初陣

今回4900Wになりました。

サンディが大活躍します。

どうぞお楽しみください。

「サンディ昼飯は『レッドスイング』で食うんだぞ。もう金は払ってある」


 レインはややふて腐れた表情のサンディの頭を撫でました。


「じゃ行ってくる」


 レインとウッディ、そしてジョーの三人は留守番役のサンディに手を振り、家を出ました。

 先日ジョーが祭りで【ランナー】を務め、その報酬として百万ベルもの大金を得ました。

 お陰で生活に余裕が生まれた三人はバイトをやめ、本職である書記官の仕事に専念するようになりました。

 書記官は町のおもしろい話を拾って記録し、契約している「お客さん」に報告する仕事です。

 三人は互いに手を振り、それぞれ町に散りました。

 いつもはサンディも三人のうちのだれかに同行するのですが、今日はお留守番です。

 身長二メートル体重百二十キロの巨体、それに加えて黒革ビキニと黒革ホットパンツの異装、さらに頭に鋭いツノが二本あるサンディは人目を避けたい取材には連れて行けません。

 一人残ったサンディは家の前にボーッと立っていました。すると


「ようサンディ!」


「サンディお姉ちゃん!」


 近所の子どもが五人遊びにきました。

 男の子が三人に女の子が二人いる彼らはサンディの仲良しです。


「ギャッ!」


 その正体はドラゴンで今は人間に化けているサンディは発声器官が発達しておらず、人間の言葉を話せません。

 だからサンディはあいさつ代わりに全員の顔をベロベロ舐めました。


「ギャッ! ギャッ!」


「うわやめろって。サンディ、サッカーやろうぜ」


 男の子は顔を擦りながら持ってきたサッカーボールをサンディに見せました。


「ここじゃ危ねえからアルバトロス公園に行こう。あそこ広いからさ」





 アルバトロス公園は秋の散歩を楽しむ人々でにぎわっていました。

 空は曇っていますが雨の心配はなさそうです。

 公園のいたるところに鎖帷子を着て槍を持ったガードマンがいます。

 サンディたちはサッカー専用のフィールドでボールを蹴って遊びました。

 サンディがゴールキーパーを務め、子どもたちがボールを蹴ります。

 PKごっこです。


「ギャッ!」


 子どもたちが蹴るボールを、サンディはすべて全力で止めました。

 ドラゴンが本気になったら大人のプロサッカー選手でもゴールは割れないでしょう。

 一本もゴールを決められず、しかし巨体をネコのように軽やかに躍らせボールに飛びつくサンディを見て、子どもたちはゲラゲラ笑いました。


「姉ちゃんすげえ!」


「ギャッ!?」


 褒められ喜んでいたサンディが笑顔を消し、耳を澄ませます。


「ギャッ!」


 サンディは急にボールを捨て、走り出しました。


「あ、お姉ちゃん」


「どこ行くの?」

 

 子どもたちは慌ててサンディのあとを追いました。


「ギャッ!」


 緑色のワンピースを着た少女が、大きな水たまりのそばで踊っています。

 芝生に置いたミュージックドームから流れる音楽に合わせて踊るのです。

 流れているのは満月、あるいは満青の夜を思わせるどこか寂しい、しかしダンサブルな曲です。


「あ、ヴィヴィアン」


 と一人の女の子が踊る少女を指さします。


「ギャッ!」


 サンディはヴィヴィアンに飛びつき、顔をベロベロ舐めました。


「ひー、サンディちゃんひさしぶりっす。みんなもひさしぶり」


 ヴィヴィアンは子どもたちに手を振りました。

 どうやら顔見知りのようです。


「今日兵器工場は休みなの?」


「そうっすよジョニー。昼間から公園で踊るのは初めてっす」


「いつもは満月か満青の夜しか踊らないんだよね?」


「よく知ってるっすね。そうっすよ。衛星が満ちた夜、池のそばで踊ると願いごとが叶うって呪術師のおばあちゃんに教わったんでそうしてるっす」


「願いごとってなあに?」


「ボニータちゃん、それは秘密っす。さあみんなも踊ろう」


 ヴィヴィアンに誘われ子どもたちとサンディは音楽に合わせて踊りました。

 サンディのギクシャクした踊りを見て子どもたちはゲラゲラ笑い、サンディもゲラゲラ笑いました。

 空は曇って日が差しませんが、公園にいる人々はむしろ涼しくていいと考えました。

 サンディもヴィヴィアンも子どもたちも、天気のことなどまるで気にしません。

 シティは真ん中の国最大の都市で首都です。

 首都は台風や地震といった天災に見舞われない土地が選ばれます。

 シティももう何年も台風や地震の被害はありません。

 そのせいでしょうか?

 シティの住人の自然に対する感受性は、ずいぶん鈍くなりました。

 シティにはむかしから


「曇りの日に外に出るな」


 といういい伝えがあります。

 これは政治家が好んで使う言葉で、その意味は


「状況が曖昧なら判断するな」


 というものです。

 しかしこの言葉本来の意味はちがいます。

 本来の意味は


「曇りの日外に出るな」


 です。

 これは比喩や教訓と異なるストレートな警告なのです。

 しかしシティの住人は警告を忘れ、今も曇り空のもと、広い公園で思い思いに楽しんでいます。

 シティには油断を戒める


「雨は突然降る」


 といういい伝えもあります。

 そのいい伝え通り、「雨」は突然降ってきました。





「痛い!」


 甲高い女の子の悲鳴がアルバトロス公園に響き渡ります。


「なに?」


「どうしたの?」


 子どもたちは踊るのをやめて悲鳴の聞こえる方向に目を向けました。


「おい!」


「あれはなに!?」


 子どもたちはパニックになりました。

 自分たちと同い年ぐらいの女の子が、一人で宙に浮かんでいるのです!

 

「痛い! 痛い!」


 女の子がまた悲鳴をあげたとき、ヴィヴィアンが声をあげました。


「サンディちゃんどこ行くの?」


 サンディは猛然とダッシュするとガードマンの手から槍をひったくり、女の子目がけて投げました。


「危ない!」


「刺さるぞ!」


 と大人たちが悲鳴をあげます。

 槍は女の子の頭すれすれを通過し、そこで止まりました。


「ギエエエ!」


 おそろしい叫びとともに虚空にあらわれたのは、一匹のサンドドラゴンです!

 全身灰色のサンドドラゴンは体の色が背景の曇り空と同じで、都会人の目にまったく見えません。


「曇りの日に外に出るな」


 とむかしの人がいったのはこのドラゴンの襲撃をおそれたからです。

 サンディもサンドドラゴンですが今空を飛んでいるドラゴンとは種がちがいます。

 サンディの種は成長すると三十メートルもの巨体になります。

 しかし今空を飛んでいる種はせいぜい七~八メートルといったところです。

 なぜそんなに体が小さいのかというと、ふつうのドラゴンと食い物がちがうからです。

 サンディの種はすべての生物が放つ霊的エネルギー「マナ」を吸収し、成長します。

 女の子を襲った種は人間の肉を食べます。

 そのちがいが体格と性格のちがいとなってあらわれるのです。





 サンディが投げた槍はドラゴンの弱点である顎の下の逆鱗(げきりん)をみごとに貫きました。

 ドラゴンは前足で捕らえた女の子を離しました。

 サンディは再び猛然とダッシュし、落ちてきた女の子を抱き止めました。


「痛いよう!」


 泣いている女の子の肩から血が出ています。

 逆鱗を貫かれたドラゴンは地響き立てて落下しましたが、サンディはそっちに目もくれず、女の子の服の袖を引きちぎりました。

 すべての亜人がそうであるように、霊獣であるドラゴンにも人間に対する強烈な庇護本能があります。

 サンディは血が流れている傷口をベロベロ舐めました。

 すると女の子がピタッと泣き止みます。

 ヴィヴィアンとジョニーは感嘆しました。


「血が止まったっす!」


「すげえ!」


 サンディの唾液には強力な殺菌力と治癒力があるのです。

 霊獣ならではの神秘的な能力です。


「ありがとうお姉ちゃん」


 痛みが消えた女の子がニッコリ笑い、サンディも笑いました。


「ギャッ!」


 突如サンディの巨体が宙に浮きました。


「もう一匹いるぞ!」


 ジョニーが頭上を指さします。

 全長七~八メートルと小柄なサンドドラゴンが、鋭い牙でサンディに噛みつき空中でくわえています。

 サンドドラゴンはそのまま飛翔し、巣に獲物を持って帰ろうとしました。


「ギャッ!」


 サンドドラゴンの飛翔は地上十メートルの高さで停止しました。

 サンディがドラゴンの上唇と下唇に手を当て、強引にこじ開けようとしたのです。

 開けさせまいとドラゴンが顎に力を込めます。


「ギャッ!」


 サンディの体から血が噴出し、地上の子どもたちが悲鳴をあげました。


「サンディ!」


 子どもたちの泣き声がサンディに力を与えます。

 サンディは再びドラゴンの口に手をかけ、こじ開けようとしました。


「ギャ……ギャ……ギャッ!」


 ドラゴンの口が突如上下にパカン、と開き、同時にドラゴンの頭が血しぶきあげて爆発しました!

 サンディがおそるべき腕力でドラゴンの口を一気に引き裂いたのです。

 逆鱗まで引き裂かれたドラゴンは空中で絶命し、サンディは十メートルの高さから落下しました。

 地面に落ちてゴムまりのように一度ボンッと弾み、サンディはすぐ起きあがりました。

 ふつうの人間なら即死ですが、サンディはケロッとしています。

 ドラゴンに噛みつかれた傷も消えてる、とヴィヴィアンがホッとしたときです。


「ギャッ!」


 サンディはその場に引っくり返りました。


「まだ二匹いる!」


 ジョニーが曇り空を指さします。

 二匹のサンドドラゴンはサンディを真ん中に置いて前後から急降下しました。


「ギャッ!」


 サンディの肩や脇腹から血が噴き出します。

 すれちがいざまドラゴンの爪で切り裂かれたのです。

 二匹のサンドドラゴンは旋回しながら位置を変え、前後左右からサンディを襲いました。

 サンディも反撃のパンチを振るいますが相手が速すぎて当たりません。

 今やサンディは全身血まみれです。そのとき


「あれは」


 ジョニーは絶句しました。

 黒革のホットパンツを突き破り、サンディのお尻からニュッと長い尻尾が伸びたのです!


「ギャ!」


 サンディは長い尻尾を鞭のように振るい、地面をバンバン叩きました。

 二匹のサンドドラゴンはサンディの変化を見て警戒し、地上に降りてこなくなりました。そのとき


「ヴィヴィアン!」


 ジョニーが慌てます。


「だめだよ音楽を止めて!」


 ヴィヴィアンは急にミュージックドームの音楽を鳴らし始めました。

 空を飛ぶ二匹のドラゴンが、音楽が聞こえる方向に顔を向けます。


「やめろって! ドラゴンは耳がいい狙われるぞ!」


 そういわれてもヴィヴィアンは音楽を止めません。

 空を旋回していた二匹のドラゴンは旋回をやめ、急降下しました。

 ヴィヴィアンに向かって。


「ヴィヴィアン!」


「そうっすよ。こっちにくるっす」


 ヴィヴィアンが急接近するドラゴンに向かってなにごとかブツブツつぶやきます。

 二匹のドラゴンはみるみる接近し、その体熱と生臭い息の匂いがありありとヴィヴィンに伝わってきます。


「そのままくるっす」


 ヴィヴィアンの髪の毛が総毛立ちます。

 急降下した二匹は獲物を目の前にして一瞬油断しました。

 二匹の体は空中でほとんど重なりました。


「今っす!」


「ギャッ!」


 ビタン! と尻尾で地面を叩き、サンディは炎を吐きました。

 ほの暗い公園が真っ赤に輝きます。

 炎は赤い槍となり、ヴィヴィアンに襲いかかった二匹のドラゴンを一直線にとらえました。


「ギエエ!」


 炎に包まれ、二匹のドラゴンは一瞬で灰塵と化しました。


「ギャッ!」


 サンディは尻尾を引っ込めるとヴィヴィンに駆け寄り、抱きかかえて顔をベロベロ舐めました。


「ハハ、くすぐったいっす」


「お姉ちゃんすげえ!」


「ケツ丸見え!」


 子どもたちはサンディの破れたパンツを指さしてゲラゲラ笑い、サンディとヴィヴィアンも笑いました。


「すさまじい強さだ」


 黒いマントを着た二人組の男が、サンディを見ながらヒソヒソ囁きます。


「このことをファーザーに報告しよう」


「うむ。もうファーザーから『四人組に手を出すな』とお達しが出ている。われわれはしばらく静観しよう」


「そうだな。あの四人を正面から抑え込むのは難しい。どうやらファーザーが政治力を使うときがきたようだ」


 そういって黒マントの二人組は公園を去りました。


「ハハハ!」


 公園に子どもたちの澄んだ笑い声がこだまします。

 この日が伝説の軍竜「ストライカー」ソルの娘サンディの初陣でした。

 「竜の血は人間の血より濃い」

 といいます。


「『一対多』の戦いが得意」


「人間は絶対守る」


「一発の炎で複数の敵を仕留める」


 サンディは一度も亡き父の戦いを見たことがありません。

 でもその戦いかたは父にそっくりです。

 やはり竜の血は人間の血より濃いようです。

 娘の戦いを見て、ソルもきっと満足しているでしょう。



いかがだったでしょう。

次回第17話は10月25日(日)朝5時投稿します。

お楽しみに!


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